花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎…今や国民病! ふたりにひとりがなんらかのアレルギー疾患を抱えている。
そこで、前編に続き、季節を問わず発症する現代病の代表格「アレルギー」に迫る!
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このようなアレルギー疾患を持つ人が増えているのはなぜなのだろう。引き続き、公益財団法人日本アレルギー協会理事長の宮本昭正先生に聞いた。
「これには様々な原因が考えられますが、まずひとつには、家が密閉化され、冷暖房が入り、生活しやすくなったことが挙げられます。それはつまり、ダニなどのアレルゲンにとっても繁殖しやすい環境であるということを意味するからです。
床に絨毯が敷いてあれば、そこに人間の髪の毛やペットの体毛などが入り込み、それを栄養にダニが繁殖します。ですから、アレルギー疾患を持つ人は先進国ほど多いのです」(宮本先生)
また、人間の免疫機構のバランスが昔よりも崩れ、アレルギー疾患を発症しやすくなっているという説もある。
「“衛生仮説”というのですが、衛生状態が良くなりすぎたためにアレルギーを発症しやすい体質になったという説です。例えば、アフリカの山間部に住んでいた人が街へ移り住むとアレルギー体質となり、元の場所へ戻ると症状が回復するという例も報告されています」(宮本先生)
しかし、アレルギーの原因はこれだけではない。
「さらにストレスや過労などが原因で自律神経が乱れると、アレルギーを発症しやすくなるケースもあります。交感神経より副交感神経が緊張した状態が続くと、発症しやすくなるのです」(宮本先生)
そして、アレルゲンに対するその人の体の許容量が関係するという説もあるようだ。つまり、花粉や食物などによるアレルゲンが少しずつ体内に蓄積され、ある日、許容量を超えてしまう。だから「去年までは大丈夫だったのに、今年から花粉症になった」なんて人がいる、という説だ。
しかし、実際のところは、何が原因で発症するかの特定は難しい。
「アレルギー疾患は環境の変化、その人特有の体質や体質の変化、ストレスなどの原因が複雑に絡み合って引き起こされ、いまだに解明されていない部分も少なくありません」(宮本先生)
だからこそ、患者数が増え続けているし、一度なると完治が難しいのだろう。では、予防と治療はどうすればいいのだろう。
「やはり、アレルゲンを身の回りから取り除き、体内に取り込まないことが前提となります。もし、アレルギー疾患の疑いがあるのなら、まずは専門医で検査することが必要でしょう。
検査方法には『血液検査』や『皮膚テスト』『食物除去テスト』などがあります。血液検査なら花粉症や鼻炎、アレルギー性ぜんそく、食物アレルギーに関係する39の項目が一度に検査できますよ」(宮本先生)
というわけで、編集部のふたりが血液検査を受けてみた。すると、最近になって「突発性アトピー」と診断されたスタッフは陽性反応が出ず、アレルギーの自覚がまったくないスタッフから「ガ(蛾)」の陽性反応が出た。
この程度の反応なら私生活にほとんど影響はないそうだが、ガの鱗粉(りんぷん)を吸ったりすると、アレルギー症状が出る可能性があるとか。
アレルゲンなしでもアレルギー症状が発症
血液検査にかかった時間は、予約して行けば10分ほど。費用は6千円ぐらい。自分にとって何がアレルゲンかがわかれば、症状を緩和するための対策を打つこともできる。自分の体を知る上でも一度検査してみるといいだろう。
「花粉、ハウスダスト、ダニなどのアレルゲンを周囲から除去するには、やはりこまめに掃除したり、お風呂に入ったり、清潔にすることが大事です。また、ストレスや過労が原因のケースもありますから、栄養や睡眠を十分に取るなどの規則正しい生活をすることも大事。そうすれば症状が軽減することもあります」(宮本先生)
体調を整えるすべての基本は、やはり規則正しい生活にあるようだ。
■アレルゲンなしでもアレルギー症状が発症
また、アレルギーには冷気、日光、熱などの物理的な刺激によって引き起こされる「物理的アレルギー」もある。代表的なものは、最近よく耳にするようになった“寒暖差アレルギー”や“紫外線アレルギー”だろう。
「前者は季節の変わり目などの急な温度変化によってくしゃみや鼻水などの症状が出ること、後者は普通では問題ない量の紫外線を浴びただけで皮膚などに腫れやかゆみなどの症状が出てしまうことです。どちらもアレルゲンの体内への侵入ではなく、物理的な刺激で引き起こされる点で、一般的なアレルギー疾患とは違います」
そう解説するのは、自然治癒力を高めることで病気の治療や予防を目指す“ホリスティック医学”を提唱している帯津(おびつ)良一先生。物理的アレルギーは、くしゃみや鼻水、かゆみなど、Ⅰ型のアレルギー反応に似た症状が出るため、「アレルギー」と呼ばれるが、どちらにも「血管運動性鼻炎」「光線過敏症(または日光過敏症)」などの名称があり、便宜的にアレルギーと呼ばれているだけなのだ。
その原因は、「物理的な刺激が皮膚のタンパク質を変化させ、これを免疫系が誤って異物と見なして攻撃するから」などの説もあるそうだが、「まだ、よくわからないことが多い」(帯津先生)とのこと。
もし、アレルギーに似た症状が出ているにもかかわらず、血液検査などで陽性の反応が出なければ、この物理的アレルギーが起きている可能性を疑ってもいいだろう。
アレルギー疾患については、まだ原因などが不明な部分も多く、それだけに治療法や予防法の技術も日進月歩。例えば最近は、「Tレグ細胞(制御性T細胞)」の新しい免疫抑性メカニズムが報告され、大きな話題となった。これはアレルギー疾患などを引き起こす過剰な免疫応答を抑制する役割を担う細胞で、アレルギーやがん、自己免疫疾患の根治が可能になるのではないかと期待されている。
とはいえ、今回取材した両先生が口をそろえて言うように、アレルギー疾患の治療や予防は「体質改善」「環境改善」「生活習慣改善」が基本になる。そして、これらはさまざまな病気の予防や治療にもつながるのだ。
(取材・文/井出尚志[リーゼント] 鈴木晴美)