パスポートにイスラエルへの渡航歴があると、敵対するイスラム系の国に入国できなくなるというのは中東旅の常識。
「NOスタンプ、プリーズ!」
イスラエル入国の際、空港のイミグレでそう言うと、
「あれ、君知らないの? 2年前からもうスタンプ押してないよ!」
スタンプの代わりに別紙の入国証をもらい、拍子抜けするほどすんなり入国した。私は現金50米ドルだけを162シェケルに両替し、バスとトラムを乗り継いでエルサレムの旧市街へ向かった。
エルサレムといえば、昨年トランプ大統領によりイスラエルの首都として公式に認められ、米国大使館もそこへ移転したことで波紋が起きているというが......街中は大丈夫だろうか、なんかコワイな......。
不安を胸に到着すると、城壁に囲まれた石畳の細い路地道は、モロッコの迷宮都市フェズに似ている。
アラブのお菓子バクラヴァの甘い匂いにそそられながら、この辺で一番安い宿に着くと、おせじにも清潔とは言えな......というか、正直、汚い(笑)!
が、しかたない。財布をすられた私が、イスラエルの物価高(といっても東京くらい?)の中で数日暮らすには、他にチョイスがないのだ。
宿主の小太りオヤジは汗じみで汚れたタンクトップ姿で、私がカメラやマネーベルトをおなかに隠して洋服が膨らんでいる様子を見るなり、自分の腹を差し置いて、
「ファッティーガール(おデブちゃん)、ようこそ!」
と茶化したが、私は寝ずの未承認国家弾丸旅行から、その後のスリ遭遇や警察軟禁、空港での身体検査に深夜のフライトと、心身ともにゲッソリ。
それを話すと、おなかが減っているだろうと、まるで"ゴミ屋敷"と言いたくなるほど散らかった彼の個室に連れていかれ、フォークがつっこんである食べかけのチキン煮込みと歯形の残ったパンをくれた。
普段ならそんなものをもらっても正直気持ち悪いとしか思わないだろうが、今の私はそんなこと言える状況ではない。ためらいながらもそれに貪りつくと、うん、味はウマイ。
また別の宿スタッフの男はシリア人であったが、中東旅をしばらく続けている私にとって、もうそれも珍しいことではなくなっていた。
「ビザ? そんなものはないよ。こっちに知り合いもいたし、難民は暗黙の了解で働かせてもらってる。でなきゃどうやって生きろってんだ。隣の国だもん。そんなもんさ」
自分の人生をあっけらかんと話し、そんなことよりも君はスウィートだと私を抱きしめ勝手に頬にキスをした。
「ハハハ......、あなたイスラム教徒でしょうよ? やめときなさいよ......」
私はグっとそれを押しのけながら、彼がそっぽ向いた隙に頬をぬぐったのを、猫がジっと見ていた。
「ふぅ。なんだか疲れたなぁ......」
私はイスラエルの眩しい日差しを浴びながら、安宿のテラスでやっと一息。エルサレムの景色は想像よりもずっと洗練されていて、背の高いヤシが少しリゾートのように思えた。
紅茶を一杯飲み終えると、休憩もそこそこに私はすぐに街へ飛び出した。
なぜなら今日は木曜日で、明日金曜の夕方からはシャバットと呼ばれるユダヤ教の安息日が始まる。街の機能が停止する前に、見れるところだけでも行っておきたい。
「ああ、本当に旅は忙しい......」
この街にはユダヤ教、イスラム教、キリスト教が混在し、さらにアルメニア人地区を加えた4つのエリアに分けられている。
私はまずはキリスト教の「聖墳墓教会」に行ってみることにした。
教会は床に額を付けてお祈りする熱心な信者たちであふれていたが、普通の観光客も多く、厳格な雰囲気というよりは観光地化されている感じ。中心部にはキリストの墓があり、長蛇の列ができていた。
私は装飾や天井などを口をあんぐり開けて眺めたが、まるで美術館を見るような感覚でひととおり見まわすと再び街歩きに戻った。
すると、キッパという頭にチョコンと乗せる帽子をかぶったバックパッカーを発見。ユダヤ教の格好に私と同じようなバックパッカー姿のコラボが妙で、個人的にはスピリチュアルな建物よりもずっと面白く感じてしまった。
それから、やっぱり独特で目に入るのが超正統派のユダヤ教の格好。長いもみあげをカールさせたヘアスタイルに黒いハット、黒スーツ姿に思わず見入ってしまう。
「髪の毛は日本のギャルのようにコテで巻いてるのかなぁ」。そんなことを思わずにはいられなかった。
そして旧市街の入口的なジャファゲート(ヤッフォ門)外に出てみると、そこには有名ブランド店やレストランなどが並び都会的。
私が想像していた"危険そうな"イスラエルとは全く異なっていたし、そんな中を軍人姿の若い男女にも出くわした。
「そうだ、イスラエルといえば男女共に兵役もあったっけね。なんていろいろなタイプの人間が共存した国なんだろうか」
イスラエルは世界を周った私にとっても、とても新鮮に思える、独特で不思議な光景ばかりであった。
初日はこんなもんで、一旦夕方頃に宿に帰るとなんと夕飯が無料で配られた! 朝食付きはよくあるけれど、夕飯付きは珍しい。そうか、そういえばラマダン中だったのだ。
「宿主がイスラム教だから? これイフタール(日没後の断食明けの食事)? ラッキー!」
ベトナム人の学生グループに誘われ、一緒に夕飯にありついた。とりあえず、なんとかイスラエルでも生きていけそうだ。
【This week's BLUE】
ブルーの制服を着たイスラエルの少女たち。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第199回「信じる者は救われる? エルサレムで3つの宗教に囲まれた旅人」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】