ついに中東旅のハイライト、ヨルダンへ行く時が来た。
イスラエルからの国境越えは決して楽な道ではないが、映画『インディ・ジョーンズ』の舞台としても有名な世界遺産「ペトラ遺跡」を見に行くために、この国は外せない。
444番という不吉な数字のバスに乗りこんだ私は、4時間半かけてイスラエルの南にあるエイラート国境へ向かった。
バスの車窓からは死海が一望でき、さらには西部アメリカのような岩山の間をすり抜けると、ブロッコリーのようにモサモサ生えた椰子が現れ......なんともワイルドな景色の連続だ。
国境最寄のバス停に着くと、西洋人のパックパッカーカップルと、スーツケースを転がしたカナダ人のおばちゃんも一緒に降車した。
独りきりじゃないことに心強さを感じたが、国境越えの情報については私が一番詳しく調べ上げていたので、結局私がみんなをリードすることに。
国境に観光客らしき人はほとんどおらずガラガラ。102シェケル(約3200円)の出国税を払いイスラエルを抜けると、「ウェルカムTOヨルダン」と書かれたゲートはどことなくアミューズメントパークのようだった。
そしてそこにはヨルダンの首相など偉い人たちだろうか、イスラムの民族衣装を着ている3人の男性の写真が大きく飾られている。
「あら、あれはトランプさんかしら? なんちゃって!」
ちょっと似てると思ったのだろうか、カナダ人のおばちゃんが謎のインターナショナルギャグを飛ばす中、私たちはついにヨルダンへの一歩を踏み入れた。
入国手続きでは、日本人の私だけはビザが無料で、3人は別の手続きをさせられていた。またしても日本のパスポートの強さをつくづく感じる。
空いてたこともあり国境はすんなり通過であったが、ここからヨルダンの最初の街アカバまではタクシーしか交通手段がなく厄介だ。
基準となる料金表はあるのに、値段の交渉人らしきアラブ人男が出てきて、強気でふっかけてくる。方向が一緒でも降車地が異なるなら1台ずつ使えとか、降車地が同じでも相乗りなら料金表以上の値段を払えとか......。足元見やがって!
国境越えメンバーは行先が違ったのでそこで別れるしかなく、私は今度は近くにいた西洋人ゲイカップルを捕まえ、タクシーと交渉。
本当なら1台11JD(約1750円)で行けるところであったが、3人で15JD(2400円)という向こうの言い値に頷くことにして、カップルの泊まるホテルまで便乗した。
無事にアカバまで着くと、私は息つく暇もなく、次はペトラ遺跡の拠点となる街ワディムーサまで行くためバスターミナルへ走った。
「ワディムーサ行きのバス? 今日はもうないな~」
バスターミナルにたむろするおじさんたちに鉄板の嘘をつかれたが、それを冷静にかわし、落ち着いて、脳内にしまっていた情報を手繰り寄せた。
「確かバスターミナルから少し隠れたところに、乗り合いミニバンがあるって誰か言ってたな......」
遠くに目をやると、まさに少し隠れたところにこそっと、ミニバンと客引きらしきオヤジがいるではないか! あれだ!
これに乗って2時間半、今日の最後の移動だ。緊張の糸が切れた私は走るバスの窓からの風が心地良くウトウト......。
先日スリに遭っているし、こんなところで寝てしまうのもどうかと思うんだけど、やっぱり眠気には勝てないや......。
ヨルダンの風はふんわりと異国の砂の匂いがして、心地良かった。
夕方頃ついにワディムーサの宿に着くと、子供たちが人懐っこく私に何度も花を摘んできてくれる。
そして宿スタッフの女性たちは何やら食事を仕込み始めた。水につけて柔らかくした葉に、スパイスの入ったピラフのような米を巻いてこう言った。
「宿の夕食は有料で食べ放題よ!」
しかし宿泊客のほとんどは外食の方が安いと出かけてしまい、私もまたそのひとりであった。
ヨルダンはイスラム圏なので、私は久しぶりに黒い服に身を包み、顔面以外を隠すように頭に黒いスカーフを巻いた。街中にはあまり女性の姿を見なかったし、そんな格好をしているのも私くらいであったが、スーパーへ行くと男性店員に話しかけられた。
「君はムスリムか? ムスリムなのか?」
「え! えっと、ここがヨルダンなので、郷に入っては郷に従えの気持ちでその文化になじもうと......モゴモゴ」
するとその男性は、ビニール袋にヨーグルトドリンクやデーツを詰めて私にくれた。
「これを食べなさい。それから、スカーフは自分で巻いたのかい? 背中側の肌が見えてるぞ。これはハラームだ(イスラム教においての不法や禁止)。やり直してあげよう」
「あ......」
男は私のスカーフをめくったが、このスカーフは男性に顔を見せないために隠しているはずなのでは? 私は突然スカートめくりをされたような気分になり、さらにはスカーフを全部外され、なんだか少し恥ずかしかった。
そして男は手際よく私にスカーフを巻き直すと、こう言った。
「SNSやってる? 教えて!」
え! なんかチャラい! それにそんなもの見られたら、今とは正反対の姿がバレてしまう。
しかし、なんだか色々親切にされてしまったし(?)、断りきれずに教えると、私がTシャツだけを着て太もも丸出しにしている写真を見て、「おっと! これはハラームだ(笑)!」と笑っていた。
「なんだかすみません」と言って私はそそくさスーパーを後にした。
次に、モスクを通ると、ちょうどラマダンの日没後に男性が集まっているタイミング。
運良く中へ手招きされたので、これまでずっと気になっていた男だらけの世界を見るチャンス!......と、ドキドキワクワクしながらついて行く。ジロジロと見てくる男たちの視線をすり抜けると、ひとりだけ広い別部屋の端っこに座らされた。
そしてプラスティックの椅子をテーブル代わりにバナナとデーツをコロンと置かれ、食べろと勧められた。
せっかく入り込んだのに、やはり女性のため男性とは同じ空間に置かれず、ポツン......。
ひとまずバナナをかじっていると、食べ終えた男たちが私のいる部屋の前方へワラワラとやってきてお祈りを始めた。男たちは立ったりしゃがんだり、床に額を付けたりとお祈りを繰り返す。
私も後方で見よう見まねで同じ動作を繰り返した。お祈りが終わると、彼らはイフタールに行くのか家に帰るのか、モスクを後にしていく。
先ほど手招きをしてきた男が「この後、一緒に夕飯を食べに行こう」と言うが、「これは親切かな? ナンパかな? ナンパはハラームじゃないのかな?」。そんなことを考えながら、私は丁重にお断りして宿へ戻った。
宿泊客たちの談笑に混ざると、アメリカ人の男が自分で入れたというタトゥーの話をしていたので、
「あ、タトゥーだ。タトゥーもハラームらしいよ。これはハラームだね!」
と、私は覚えたての言葉を彼に投げかけ、翌日のペトラ遺跡に向けて眠りについた。
【This week's BLUE】
イスラエルのバスの車窓から見えた死海。奥にはヨルダンが見える
旅人マリーシャの世界一周紀行:第202回 「『インディ・ジョーンズ』のロケ地、新・世界七不思議『ペトラ遺跡』に震え上がる!」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】