油断すると、とかく汚くなりがちな男の部屋。しかし、放置されたホコリが健康に影響を与えるとしたら――?
前編では、病院清掃に長年、従事してきた日本ヘルスケアクリーニング協会代表理事で、『図解 健康になりたければ家の掃除を変えなさい』著者の松本忠男氏に話を聞き、家の中で放置されたホコリの中で細菌やカビが繁殖し、それがインフルエンザや肺炎などの原因となる可能性があることを知った。
今回は引き続き松本氏に、日本人の大半が思い込んでいる間違った掃除の常識とオススメのお掃除グッズを聞いた。
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──まずは我々日本人の大半が思い込んでいる間違った掃除の常識とはなんですか?
松本 掃除する時は窓全開が基本だと思ってませんか? これがすでに間違いです。これは平屋の風通しの良い環境には適していますが、現代のような気密性の高い住宅環境での掃除は窓を閉めてホコリを舞い上がらせないことが大事。つまりは掃除は風とホコリが流れる道筋を割り出し、ホコリがたまりやすい箇所を重点的に行なえば良いのです。
──へー。ホコリがたまりそうな要所のみ的確に掃除をすればいいと。
松本 そうです。あと掃除を力強く行なう方は多いと思いますがこれも間違い。例えばリビングのカーペットに掃除機をかける時、なぜか腕に力が入って力任せにこすりがけしてしまいますよね。しかし、これではカーペットの繊維を押しつぶして奥のゴミが取れない。掃除機ヘッドはゆっくり動かし強く押し付けないことが大事です。
──確かになぜか掃除機をかける時は力が入りますねー。掃除機後の水雑巾で拭く時もめっちゃ力入ってますし。
松本 はい、その床の水拭きもNG。これはしっかりと病原ホコリが取り除かれた床ならまだしも、そうでない床を濡れ雑巾で拭くと、かえって家中に病原ホコリを塗り広げることになります。濡れ雑巾ではなく、床に直接、重曹水を吹きかけ、ピンポイントで拭き取るのが良いでしょう。
──床雑巾はお寺の伝統掃除だしそれに習ってる気になってましたが。以前に某企業の研修で"忍耐力と精神力を養うために素手で便所掃除をしている"ことが判明しドン引きでしたが、日本の掃除はなぜか精神論になりがちですよね。
松本 そうなんです。必要なのは精神論よりも「エビデンス掃除論」です。部屋の広さとその室内での人の動きや湿度などからホコリやカビが発生しやすい箇所を推測し、そこを重点的に掃除をすればいいだけなのです。素手で便器掃除は危険ですよ(笑)。
──ちなみにゴム手袋なしで便器掃除をすると、どんな危険が?
松本 便器には普通の手洗いで除去できない細菌やウイルスが付着している場合もあります。それが爪の隙間などに付着した場合、その手で屋内の壁などに触れればその菌やウイルスを屋内中に拡大させてしまいます。もちろん手に傷があれば何かしら感染症を起こすリスクだってある。
──便器の汚れが部屋中に! ほかにはどうでしょう?
松本 よく就寝前に寝室を掃除してきれいにしてから眠りにつく方がいらっしゃいますが、これも良くないです。掃除後は床下50~70cmほどに多くのホコリが舞い上がるため、ちょうど寝ている時の頭の高さに近く、ホコリを吸ってしまいます。
寝室掃除は朝行ない、日中にホコリを落ち着かせた状態で夜眠るというのが正しいのす。また掃除の際は、壁から拭き掃除して床掃除と、高い所から低い所の順で掃除するのが良いです。
──なるほど。
松本 また、布団の天日干しはダニの繁殖を抑えるのに有効ですが、このとき布団をパンパンとたたいていませんか? そうすると中からダニの糞が飛び出して、アレルゲン量が2~3割も増加してしまいます。布団を干したまま、ハンディ掃除機で吸うか、手で優しく布団表面のホコリを払いましょう。
──布団たたきはNGなんですね。リビングなど人の出入りの多いところは?
松本 人の出入りが多く滞在時間も長い場所においては、時間を問わずにゆるく小まめに行なうことが大事ですね。そういう意味ではお寺の伝統的な年に一度の大掃除のようなものは修行に過ぎないため、家では一年通して気づいた時に小まめに、日々の積み重ねが大事です。
──でも小まめにってどういうペースですか?
松本 例えば週1でまとめて掃除するよりも、毎日数分ずつでも家の中を少しずつ小分けに掃除するほうが手間や時間も抑えられます。それこそトイレに入るごとに目につくホコリがあったらすぐ取り除くとか。
──トイレに入るごとに......。面倒に感じますが、何か便利なやり方は?
松本 まず絶対に用意して欲しいのがこちらのふたつです。ひとつは"スクイージー"。100円ショップで売ってる結露などを拭い取るグッズですが、このゴム部分に5mm間隔ほどで切り込みを入れます。
これをまずは壁で上から下、上から下......と撫でるように一方向にこすることで壁のホコリが取れます。もちろん床も同じ要領で撫でるようにこすると面白いようにホコリが取れます。私の家にはこのアイテムが各部屋に用意してあるほどです。そう、掃除グッズは部屋ごとに置いておけばわざわざ取りに行かずに気軽に少しずつ行なうことができますよね。
──そしてもうひとつの必須なお掃除アイテムというのが?
松本 こちらもホコリを取るアイテムですが、ホコリを飛散させない"化繊ハタキ"です。これはペットボトルの側面を切ってハタキを入れ、ペットボトルの切込みからハタキ部分を出して気になる部分を撫でたら、その使用部分を回転させればホコリは飛散しません。これはホコリの多い秋冬は特にオススメですよ。
──最後に、お掃除の大事な心得をご教示ください!
松本 最近すごく思うのが、ドラッグストアに喉ケアの商品がすごく増えているなと。喉を消毒するとか喉のイガイガ除去だとか。それだけ喉に不快感があって需要があるからなわけですが、これは明らかに正しい掃除環境ではない場所にいることの悪影響なのだと思うのです。徐々に体に悪いものを取り入れ不調をきたしているのだなと。
掃除は見た目のきれいさや気分を良くするためではなく、快適に健康に過ごすための環境を整える行ないだという意識を持って、日々の掃除に取り組んでほしいです。
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掃除が嫌いでぐうたらなメンズもかっちりメンズも、松本式お掃除術で効率的なお掃除ぶり、快適な生活空間、それこそが"美メンズ"への第一歩なのです!
●松本忠男(まつもと・ただお)
東京ディズニーランド開園時の正社員、ダスキンヘルスケア勤務を経て、亀田総合病院のグループ会社に転職。清掃管理者として約10年間、現場のマネジメントや営業に従事。1997年、医療関連サービスのトータルマネジメントを事業目的として、株式会社プラナを設立。日本ヘルスケアクリーニング協会代表理事。亀田総合病院では100人近く、横浜市立市民病院では約40人のスタッフを指導し、現場で体得したコツやノウハウを、医療、介護施設、清掃会社等に提供している。主な著書に、『図解 健康になりたければ家の掃除を変えなさい』(扶桑社、1200円+税)ほか