「昨夜バーで飲んでたらイタリア人のマックスって男と友達になってさ、調子いいヤツと思ってたら、まんまとおごらされたよ(笑)」
ナポリで私にお金を貸してくれた日本人の友人Rがこんなことを言ってきた。
「ああ、危なっかしい。おごらされるだけなら良かったけど、財布抜かれたりしないように気を付けてね!」
そう忠告したが、人の振り見てわが身も注意しなければ。今日私が向かうのはスリや強盗が多発する危険地区、ナポリの下町「スパッカナポリ」。
スパッカとは「真っぷたつに割った」と言う意味で、東西に直進する通りがナポリを南北に割ったように伸びていることからそう呼ばれている。細い路地にたくさんの教会や歴史的な建物が点在するこの地区は、世界遺産に登録されナポリ観光の見所となっている。
実際に足を踏み入れてみると、狭い石畳の路地は落書きだらけ荒れている感じはしたが、私が最初にナポリに到着した中央駅のバスターミナル周辺に比べたら怖さは全然マシ。
ナポリ名物の揚げ物ゼッポリーニのお店や、人気のレストランには観光客が並び賑わっていた。お土産屋では幸運を呼ぶコルノというお守り(赤唐辛子のような形だが角である)や、イタリアの伝統的な風刺劇に出てくる道化師プルチネッラの人形など、ナポリならではの雑貨も目立つ。
道中で見つけたプルチネッラのブロンズ像は鼻がピカピカにはげていたので、きっと触ると良いことが起きるだろうと一応撫でておいたが、特にご利益はないそうだ。残念。
しかし、そんな私におもしろい出逢いが舞い降りた。ランチに立ち寄ったレストランで店員さんに、
「今満席なのよ。あら? あなたひとり? ならこの3人と相席しちゃいなさいよ? ほら、フレンドよ!」
ラテンのノリなのであろうか、私は3人のイタリア男性の席に押し込められた。
旅では「いつも食事がひとりって寂しいよなぁ」と思っていたけれど、最近はもう慣れっ子で、いきなり知らない人と食べるのも逆にちょっと面倒だなと思ってみたり。
だって、もし悪い人たちだったり、昨夜の友達みたいに全員分の会計を払わされたりしたらどうしようなんて、そんなことまで頭の片隅で考えてしまうから。
しかし彼らはなんと警察だった。シチリア島のカターニアから来た警察官で、その内のひとり、シルヴィオは英語が話せた。
「ナポリは危ないからね。警察が足りないのさ。2週間くらいこっちを手伝えって呼び出されているんだよ」
やっぱりナポリはイタリア人も認める治安の悪さなのね。
「イタリアには仕事がないんだよ。失業率は10~11%くらいで、特に若者層は30%だ。その結果犯罪も増えるよね」
そういえば、ポーランドに行った時にイタリアの青年が仕事を探しに来てたっけ。ほんと美しい景色の裏側で厳しい現実に直面してるよなぁ。
私たちは「チンチン(イタリア語で乾杯)!」と言って乾杯した。
そして体が大きいわりにはあまり食べなかった彼らから、食後にこんなお誘い。
「俺らと一緒にドゥオーモに行くかい?」
教会の類には飽きていたので少し迷ったが、警察官3人と歩くのは心強いし、ついていってみるか。
教会の中に入ると、シルヴィオが親切に色々説明をしてくれたのだが、実はここ、ただの美しい教会ではなかった。
「ここの教会はナポリっ子の心の拠り所でね。ナポリの守護聖人サン・ジェンナーロの血液が丸いガラス瓶に保存されているんだよ。彼はキリスト教カトリックの司教で、ローマ皇帝により迫害され処刑された殉教者のひとり。
毎年『血の奇跡』という儀式があって、その時に凝固した彼の血が液体化するという奇跡が起こるんだ」
なんだかスピリチュアルでうさん臭い気もしたが、礼拝堂の入口に設けられたモニターに流れる実際の儀式の映像に、私は夢中になった。
「『血の奇跡』の儀式は毎年5月、9月、12月に行なわれるんだけれど、血はすぐに液体化する時もあれば時間がかかる時もある。液体化しない年は、ナポリに大災害が訪れると言い伝えられていてね。
過去には、第二次世界大戦の始まり、疫病の流行、大地震などの災害が起きたんだよ......」
この手の話は後付けのような気がしないでもないが、固まった血が溶けだすなんて不思議。ぜひいつかこの目で見てみたいと思いながら、教会を後にした。
彼らのおかげか、スパッカナポリでは怪しいヤツらに尾けられることもなく、サンタルチアに無事帰宅すると、深夜に焦った友人Rからの連絡。
「明日、急遽現金が必要なんだけどおろせないんだよ。どっかおろせるATMないかな?」
夜遅くに人の気配のない路地裏でそこそこの金額を引き出すのはなかなかの緊張感だが、私は彼に借りもあるため、一緒に深夜のサンタルチアのATMを何軒も巡った。
昼間には見なかった、セクシーなイタリア美女の写真が飾られた「STRIP」の赤いネオンの間を通り抜け、ドキドキしながら夜道を徘徊していると、バーにマックスの姿を発見!
「ヤバイ! またおごらされないように、逃げよう!」
なぜ私たちがコソコソしなければいけないのか謎であるが、ひとまず宿に避難。緊張感でノドが渇いた私たちは、友人が日本からわざわざ持って来たという缶ビールを開けると......プシッ。
え......? これ間違えて冷凍庫に入れてたパターンじゃない?
凍って飲めないビール、奇跡的に液体化されませんかね。
【This week's BLUE】
フィレンツェでも有名な道路標識アートがここにも! 警察官は一方通行ラブ?笑。
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】