私がシチリア島のカターニアに来た理由のひとつに「ピスタチオ」がある。
カターニアの近郊にはブロンテ村というピスタチオの名産地があり、それはそれは美しい、エメラルドのように鮮やかな緑に光るピスタチオが採れるのだそう。世界の生産量の1%にも満たない産地であるが、その味は甘さとコクがあり世界一の品質なんだとか。
ピスタチオはビタミン、ミネラル等が豊富で栄養価が高く「ナッツの女王」と言われている。ナッツ大好き"ナッツ姫"な私もピスタチオがだーい好き! イタリアを旅している時はジェラート屋ではまずピスタチオ味を選ぶし、以前ローマに行った時はピスタチオパスタを初体験して大歓喜!
「今思えば、あれはもしかしたらブロンテ産のものだったのかも! ああ、また美味しいピスタチオのパスタを食べたいなぁ!」と思ったわけである。
もちろん、狙うは"エメラルド色のピスタチオ"! ......と言いたいところだけれど、今回はブロンテ村までは行けないので、採れたてホヤホヤのピスタチオに出逢えるわけではない。でもカターニアはブロンテ村の近くだから、きっとそれを使った料理が食べられるのではないだろうか。
そんな淡い期待を抱きながら街を歩いていると、小さいポップアップマーケットが開催されているのを発見した。のぞいてみると、さっそくピスタチオサンドイッチやピスタチオバーガーなどが売られているではないか!
ほらね! 予想的中!
バーガーパテはカターニア名物の馬肉で、周りには細かく砕かれたピスタチオがまぶしてあり、緑色にキラキラと輝いている。願ってもないラッキーコラボ! さっそくお宝を発見したような気分である。
地元の人からしたら珍しくないのだろう、私だけが目を輝かせながらジュージューと焼かれているパテに見惚れ、興奮状態で店員に話しかけた。
「ピスタチオが食べたくてカターニアにまで来たの。本当はブロンテ村まで行きたいんだけどね! 秋には村でピスタチオフェスがあるんでしょ?」
焼き立てのバーガーにガブリとかぶりつくと、さっぱりした馬肉パテにピスタチオの粒の歯応えと甘みのあるナッツらしいコクが相まって美味しい! と言いつつ、ピスタチオにたどり着いた喜びでウッカリそれがブロンテ産か聞くのを忘れてしまってる上に、そこまで味の違いもわからないのだが、
「ピスタチオラブ! ボーノ!」
とにかくひとりはしゃいでいると、
「グラッツェ! これもあげるよ! 君は日本人だから寿司のプロだろう? チェックしてくれよ!」
なぜかオマケで寿司もゲットした(笑)。赤身魚にクリームチーズの味が強めなロールは、巻きがゆるくて崩れそう。そしてオレンジ色した水っぽいこれはなんだ、メロンかな......。思わず冷静さを取り戻した。
さて、人生初のピスタチオバーガーにすでに満足した感もあるが、今回の自分なりのミッションはブロンテ産ピスタチオのパスタを食べること。
街中のレストランで見かけるほとんどの店のメニューは、ブロンテ産ピスタチオパスタと書かれていたが、必ずパスタがペンネであった。きっとそれが定番なのであろうが、私はロングパスタ派なので、何軒目かでついにしびれを切らしこんなオーダーをした。
「これ変更できない? ペンネじゃなくて、なんかロングのパスタに」
すると、言ってみるもんだ、すんなりOKをもらって特別にロングパスタバージョンで調理してもらう。
ジャズの流れるレストランで、鮮やかなオレンジ色をしたイタリア定番のお酒アペロールスプリッツを頼み、パスタを待った。
夕方の店はまだ賑わっておらず、ほかに客はいない。私は静かにグラスを揺らしながら、旅の終わりに思いをめぐらせていた。
「ああ、そろそろ旅資金稼ぎに一時帰国かな。ていうか、世界一周の旅を私は一体いつまで続けるのだろう?」
そんなつもりはなかったけれど、気付けばいつの間にか5年も旅をしていて、旅を"恋人"にしてしまった私。刺激的で最高に楽しくて、全てが美しく見えて、でも時に辛くて苦しくて、いろんなことがありながらずっと共にいた"旅"。
「いつか終わりが来るのだろうか......」
ホロ酔いで感傷的になっているところにパスタがやってきた。
スレート皿にオシャレに盛られたパスタは、ブロンテ産のピスタチオクリームにからめられ、砕いて粒状になったピスタチオが振りかけられている。その中から大きめのピスタチオのかけらをつまみ上げ、マジマジと見つめる。
「エメラルドか......。まるで恋人(旅)がくれた宝石みたい。ふふっ」
......なんて言ってる場合か。そろそろ将来のことも考えて(もう遅いけど)、本物のエメラルドをくれるような誰かと出会わなきゃいけないんじゃないのか、私?
そんなことを思いながら、宝石のかけらを口に放り込んでみる。でも、酒に酔ってナッツの味を比較できるほど、私はグルメな舌を持ち合わせていなかった。
そして、ずっしりと重みのあるクリームパスタをフォークにからめ口へ運ぶと、ふわっと甘口でちょっと塩気が足りない......! うーん!
そんなとき、不意打ちで流れてきたBGMは聞き覚えのあるセンチメンタルな旋律......なんと、松田聖子じゃないの! しかも今の気分にピッタリの『SWEET MEMORIES』。
店員さんが私のために粋な計らいを? いやただの偶然だろうけど、なんてタイミング。日本の昭和の歌がやけに心にしみて、なんだか涙腺にくる。
こらえた涙が口の中に広がり、パスタがちょうどよい塩梅となった。
【This week's BLUE】
美しいバロック様式のサンタアガタ大聖堂
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●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
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