バリ島のデンパサールから国内線で90分。コモド島の玄関口となるフローレス島最西端の港町、ラブアンバジョに到着。
宿泊する安宿は建物の真ん中が青空に吹き抜けた2階建て、つまり半分屋外のような感じで、潮風を浴びた木造のくたびれ感がなんだか海賊のたまり場みたい。
「ウェルカムドリンクだよ!」と差し出された飲み物はウォーターサーバーの水。バックパッカーの旅に慣れている私は平気だけど、今回一緒に旅しているバリ在住の友人は大丈夫かしらと、チラリと彼女の顔を覗いた。
「へぇ~、普段こんなところに泊まってるんだね。まぁ、2泊くらいならイケるかな(笑)」ということなので、ひとまず安心。
宿の売りはフリーパンケーキで、友人曰く「インドネシアのパンケーキって、薄い生地でバナナのセットが定番なんだよね」だそうだ。
インドネシアの宗教は9割がイスラム教であるが、フローレス島に関しては住民の9割がカトリックという不思議。しかし宿の傍には小さなモスクがあり、また小さな街中でもモスクを見かけたので、島内で少数派とはいえムスリムの信仰心の厚さを感じる。
メインストリートにはレストランや商店、ツアーデスク、ダイビングショップなどが並んでいて、チラホラと欧米人を見かけるがアジア人観光客はほぼ見かけず。
私たちはコモド島へ行くためにいくつかのツアーデスクを比較した中で、一番条件が合い熱心に説明してくれた少年のお店でツアーを組むことに決めた。
するとそこにオフィスのオーナーが登場。彼の名前はプトゥと言ったが、ん? バリのコーヒー農園のおじさんと同じ名前じゃないか。
「プトゥは第一子に付ける名前なんだよね」
これはバリ島での名前の付け方で、カースト制度や生まれた順番に関係するんだそう。
「ツアーの申し込みをありがとう。ところで、今から僕の船でディナーを食べるけど君たちも来るかい?」
地元の人からの素敵なオファーにすぐに頷きたいのはやまやまだが、警戒することも必要であるし、こういう時の判断はいつも難しい。今回はオフィスもハッキリわかっているし、他のスタッフの様子からも信用できそうな人たちと判断してついて行くことにした。
「海外トラブルあるあるに出てくるようなトランプゲームで賭けごととか、眠り薬やなんかには気を付けよう! 貴重品は一旦宿に置いて行くか」
半分冗談半分本気でそんなことを言い、私たちは港へ向かった。
まずはスピードボートに乗り込むと、真っ暗の海の上にはポツポツと明かりのついた船が浮かび、まるで家のように生活している人々の動きが見える。少し緊張するが、こういう時に友人がいるのは全然違う。
「いつもさ、ひとりだと警戒心でできないことも友達といるとかなり心強いね。でも同時にそれで危険に巻き込んでしまったらいけないなって気持ちもあるんだけどね......(旅人としての責任感というか)」
大きめの船にたどり着きはしごをつたって乗り込むと、そこはテーブルや椅子、トイレにシャワー、寝室もあるような豪華な船だった。
プトゥのほかには、アントニオという落ち着いた様子のおじさんと、無邪気で笑い上戸のアルヒャンがいた。5人でテーブルを囲み、キンキンに冷えたビンタンビールで乾杯。
「俺はこの島にホテルを建てたいと思っているんだ。毎日仕事が大忙しだ。歌もやっていてね、船でライブをしたりもするんだよ。今はバツイチでね、娘がひとり......」
プトゥはひょうきんで冗談ばかり言うタイプだったが、少し寂しそうな顔とハスキーな声で色っぽく歌い始めた。
「プトゥってとっても紳士的なインドネシア人だと思う。服装もきちんとしてるし、多分仕事もちゃんとやって稼いでる感じ」
友人の言葉に、私もそうだねと頷いた。すると今度はアントニオが歌い出した。なんと、日本語だ。だけど聞いたことがない。
「おまえ、この名曲を知らないのか? 日本人だろう? インドネシア人で知らない人はいないぞ! 『ココロノトモ』だ!」
「え、何? ジャイアン......?(笑)」
その歌は五輪(いつわ)真弓の『心の友』という曲であった。80年代の歌で、インドネシアのラジオ関係者が日本で彼女のコンサートへ行き、その際買ったアルバムをインドネシアのラジオで流したことで人気となったそう。シングル曲ではないので、日本人でも知らない人も多いだろう。
「あーそうそう、インドネシアの人みんなコレ歌うかも。中学の課題曲になったり、教科書にも載ってるみたい」
私の友が言う。インドネシアで「第2の国歌」と言われるまで大ヒットし、スマトラ島沖地震での復興の際には被災者の支えになったとか。ついにアルヒャンも歌い出し、インドネシア人チームは日本語の歌を大合唱。
「いやぁ、いい歌だ。これはインドネシアで本当に有名な曲なんだよ。あと、なんとかマリアってAV女優も有名だよ。日本のAVは本当にすごいよね!」
「ああ、おおう、そうなのですね、ちょっと私は見たことがないですが、いろいろな角度から日本を褒めてくだすってテリマカシ(インドネシア語でありがとう)」
そこにスピードボートがやってくると、フィッシュマーケットで焼かれた夕飯の魚が届いた。この辺りの人たちはみんな仲間で買ってきてくれたんだろうけど、まるで"海のウーバーイーツ"みたいだ。
茶袋に包まれた米やキュウリ、サンバル(インドネシアのスパイス)を皿にあけて、夜空の下で焼き魚をみんなでつつく。一見すごく簡素で素朴なものであるが、焼き立ての魚の身はフワっとして美味しく、辛いスパイスもビールとよく合う。
インドネシアの見知らぬ島の星空の下、少し揺れる船の上で土地の人たちと食べるご飯は、珍しい経験だからだろうか、なんだか格別に満足度が高かった。
それからアントニオは、ペットボトルに入った怪しい透明の液体にコーラを注ぎ始めた。椰子を原料とした蒸留酒だそうで、ちょっとコワイけれど少しもらって舐めてみると、アルコール度数の高さに舌が軽くしびれた。
少し酔っぱらった彼らは「幸せとは何か」というテーマで語り始めた。彼らの語る幸せはとてもシンプルであり、家族と仲良く健康に暮らしていくといったようなもの。
みんな心がピュアだよなぁと思いながら良い話を真剣に聞く私たちに対して、彼らの日本人びいきの気持ちが加速したのだろうか、
「よし! 心の友よ。君たちはスペシャルだ。明日のボートはプライベートにしてあげるよ!」
「え? マジ......?」
次回、ついにコモド島へ!
【This week's BLUE】
ラブアンバジョの高台から見える港。ジブリ映画に出てくるような、まるで絵のような風景である。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第227回「噛まれたらアウト!? 超危険生物"コモドドラゴン"に細い枝で挑む!」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】