コンセントからの充電NG! 太陽光発電だけ!! 過酷な「電動バイク0円旅」もいよいよ後半の佳境へ。かつて「天下の嶮(けん)」とうたわれた、切り立つ箱根の峠を無事に越えることができるのか!?
【前号までのあらすじ】
最近話題の電動バイクに、太陽光発電のソーラーパネルとポータブル電源を積み込んだら、電気代0円でどこまでも走れるんじゃね?
そんな軽~いノリから始まった本企画。京都・三条大橋から東京・日本橋まで、江戸時代の大名が必死こいて参勤交代の道を歩んだ東海道五十三次(約500km)の完全制覇を目指し、出発した。
しかし、旅は苦難の連続。雨が続いてまったく充電できなかったり、ひたすら続く上り坂で電欠になったり、アカダニの猛攻を受けたり、ゲリラ豪雨でバイクが流されそうになったり、トラックや乗用車の容赦ない追い越しや幅寄せにビビらされたり......。
それでも、やっとの思いで東海道五十三次のちょうど中間地点、静岡県の「浜松宿」に到着した。
■ガソリンスタンドをスルーする悲しみ
早朝から浜松城公園の駐車場で充電を済ませ(フル充電まで約8時間かかる)、旅の後半戦スタート。「見附(みつけ)宿」を通過し、日本橋と三条大橋のどちらから数えても27番目の「袋井(ふくろい)宿」に着いた。
歌川広重の浮世絵をモチーフにした無料休憩所で、ボランティアの宿場女将(おかみ)から「どこから来たんですか?」と、お茶とお菓子を差し出される。国道から一本外れた旧宿場跡はのどかな景色。
2時間ほど補充電している間、何週間ぶりかの温かいお茶に和んでいると「まだ試作品なんだけどね」と駒形の通行手形をプレゼントしてくれた。なんていい人なんだ......(涙)。
続く「掛川(かけがわ)宿」の周辺では、掛川城の天守閣を復元して城下町風の街づくりを進めており、まさに宿場町の雰囲気。清水銀行の掛川支店は安土桃山時代の両替商風スタイルで、壁には山内一豊が嫁のヘソクリで名馬を買ったシーンが誇らしげに描かれていた。
「日坂(にっさか)宿」「金谷(かなや)宿」を順調に通過し、大井川ほとりの「島田宿」に到達。かつては「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」とうたわれ、東海道五十三次屈指の難所だったポイントだ。
徳川家康が隠居していた駿府(すんぷ)城に西から敵が近づけないようにと、あえて橋を架けさせなかったらしいが、周辺の川幅は1km近い。下々の者はマジで迷惑だっただろうな......。
次の「藤枝宿」を過ぎた辺りであえなく電欠となり、バイクを押して歩く。ガソリンスタンドの前を通ると、兄ちゃんたちが「あ、ガス欠のバイクだ!」と勘違いし、笑顔で「いらっしゃいませ!」と声をかけてくる。
その前を黙って通り過ぎると、不思議そうな顔でこちらを見る。いや、ガソリンスタンドで電気は売ってないでしょ......。
JR焼津(やいづ)駅の近くのホテルにチェックインし、食事をとろうと駅前に繰り出す。まだ午後8時過ぎなのにほとんどの店が閉まっていて、チェーン居酒屋の「村さ来」に入ったが、さすが焼津港の近くだけあって、マグロの刺し身はウマかった!
ホテルでシャワーを浴びると、排ガスと黄砂と垢(あか)が合体した塊みたいな黒い粒がポロポロと落ちた。そろそろ人間らしい生活に戻りたい(涙)。
■走っている間も充電できるシステムへ
翌朝は日の出から午前10時まで、5時間充電してからスタート。「岡部宿」で補充電、「鞠子(まりこ)宿」を通過し、その次は「府中宿」だ。静岡県のど真ん中にある駿府城跡には、県庁や県警本部などがお濠(ほり)のすぐ脇に立ち並ぶ。家康公の威光は今も残っているのだ。
さらに「江尻宿」「興津(おきつ)宿」と進み、「由比(ゆい)宿」の手前で電欠寸前。通り沿いの「駿河健康ランド」に滑り込んだ。途端に振りだす雨。天気予報を見ると、明日も雨......。
ソーラーバイク旅は、天気が悪いと1mmも進めない。ここはスッパリ諦め、目前に迫った「箱根越え」の作戦を練ることにした。
ざっと計算すると、県境を越えて神奈川県の「箱根宿」を通過し、次の「小田原(おだわら)宿」までたどり着くには3日かかる。しかし、あと10%充電量があれば、ギリギリ2日で行けるはずだ。何かいい手はないものか......。
今回の旅で使っているソーラーパネルとポータブル電源を監修してくれた、宮崎県の株式会社関谷に電話してみた。あのー、箱根越えの電気が少し足りないんですが、充電量を増やせませんかねえ?
「じゃ、走行中も充電できる補助パネルを追加しますか」
現状のシステムでは、200Wのソーラーパネルを毎時1500Wの容量があるポータブル電源につないでエネルギーを蓄え、そこから電動バイクのバッテリーを充電している。つまり、走っている間は電気を使うだけで、充電するには停車して大きなパネルを広げなければならない。
「トレーラーの上に20Wのソーラーパネルを追加すれば、走行中もポータブル電源に充電できます。これで少し足りない電気を補えるのでは?」
計算上、これなら走行距離は10%程度延びるはずだ。翌日、丸1日雨で足止めを食らっている間に、追加のソーラーシステムが届いた。
翌日、駐車場の屋上階にバイクを移し、東の駿河湾上に上る朝日に向けてソーラーパネルを広げた。チェックアウトの11時まで充電し、2日ぶりに走行開始。
次の「蒲原(かんばら)宿」には、天保年間の建物だという貴重な上旅籠(じょうはたご)が現存している。安政の大地震にも耐え、少々傾いた建物はオリジナルの姿のまま補修され、中も無料で見学できる。
「吉原宿」「原宿」を過ぎ、走行距離が40kmを超えても、まだバッテリー残量に余裕がある。補助パネルの充電効果は確かに出ているようだ。
次の「沼津宿」で一泊し、明日の箱根越えの準備に入った。各地で買ったお土産や資料、余分な衣類などをコンビニから自宅へ送り、荷物を軽量化。タイヤの空気圧を10%上げ、前後のホイール軸受部に給油を済ませ、少しでも走行抵抗を減らす。これでやれることは全部やった。幸い明日の予報は快晴だ!
■箱根峠の急勾配が電気をむしばんでいく
夜明けから午後1時までたっぷり8時間充電し、いよいよ正念場の箱根越えに挑む。「三島宿」の近くにある三嶋大社でお参りをしてから、意を決して峠道へと入った。
わかってはいたことだが、これまでの峠とは勾配が段違いだ。10kmほど進む間に約800mも標高が上がるのだ。補助パネルをつけた電動バイクは平地なら45kmは走れるはずだが、あっという間に電池残量が下がっていき、たった6km走ったらもう電欠目前。マジかよ......!
午後2時、日本最長のつり橋「三島スカイウォーク」の駐車場に慌てて滑り込み、ソーラーパネルを広げて補充電する。2時間ほど待つ間に観光名所のつり橋を渡り、さらにホットドッグとアイスクリームを平らげて大満足。
ところが......、バイクに戻ると、ソーラーパネルが足跡だらけになっていた。あぜんとしていると、中国人観光客とおぼしき親子がソーラーパネルの上に座り始めた。勘弁してくれ! これレジャーシートじゃないから!!(泣)
気を取り直して再出発。電気残量はマックスの3分の1ほどに回復していたが、ウィンウィンというモーターの苦しそうな音とともに、ゲージは見る見る下がっていく。約4km走ったところで、再び停止を余儀なくされた。
上り坂はあと4km。もし頂上までたどり着けなかったら、中途半端な路上での危険な野宿となる。緊急回避用の側道にバイクを入れ、再度補充電を行なった。とはいえ、時刻はもう午後4時過ぎ。日が傾くにつれ、充電効率は減っていく。
午後6時30分過ぎ、完全に日は暮れた。覚悟を決めて頂上を目指す。電池残量はマックスの約4分の1......。
夜になって交通量の減った上り坂に、ウィンウィンと小さなモーター音が響く。あと3km、あと2km、あと1km。頑張れ、あと500m! あと少し、頼む!!
急にモーター音が軽やかになったと思ったら、「箱根峠標高846m」の標識が現れた。やった! 「箱根宿」だ!!
電池残量はレッドゾーン。今夜は峠で野宿決定という悲劇的な状況だが、なぜか喜びに打ち震える。夜が明けたら一気に小田原まで駆け下りてやるぞ!