「ロンボク島は30年後ハワイになるからね......!」
そんな爆弾発言をしたのは、バリ在住カメラマンの中村ステフェン(インドネシア国籍)。彼は私の友人ソラ(コモド島を一緒に旅をしたヘアメイクの日本人女子)のビジネスパートナーであり、私たちはロンボク島のスンギギで合流した。
彼らがここに来た理由はロンボク島の不動産チェックだった。ロンボク島はバリ島から約50km東に浮かぶ、美しい海に囲まれた楽園。近年リゾート開発が進み、第2のバリ島として注目のリゾート島である。2021年にはサーキットができることもあり、観光客の増加が見込まれている。
大のハワイ好きである私は、「さすがにハワイはちょっと言い過ぎなんじゃない......?」と思ったのだが、あながちそうとも言い切れない。
崖の上から見下ろすとウットリするような美しい青い海が広がっていて、たしかに上手に開発が進めばいつかはハワイのようになるかもしれない......と。そこには夢があった。
ロンボク島は2018年にマグニチュード(M)6.9、今年3月にはM5.5の大地震があった。震源は島の北部で、地滑りに観光客らが巻き込まれ死亡したり、多くの家屋が被害を受け倒壊したのは記憶に新しい。
今後も地震については心配であるが、それは地震大国と言われるわが国ニッポンも他人事ではないし、自然災害に対応できる島作りを望むばかりだ。
「バリ島で400万円するサイズの土地がロンボク島なら50万円だからね。8分の1。あ、でもコレ言ったらみんなが狙っちゃうからな......(笑)」
「え! 本当? じゃあ私も買っちゃおうかな......」
思わず私が前のめりになると、「いや、インドネシア人じゃないと契約できないよ。国籍持ってる代理人とかに頼むって手もあるけど、なかなか信用できる人見つけるの大変だと思うよ」
そ、そうか。
「じゃあ、信用できる人......。友達......。アナタトモダチ。一口乗らせて......(笑)」
夜は彼らの知人でローカル向けの住宅開発をしている人たちとの夕食会に、同席させてもらった。ロンボク島で土地開発の仕事をする日本人男性とその奥さん(新婚さんでいきなりこの島に住むことに!)。そして施工に関わるインドネシア人のジャルさん。
「俺はロンボク島のジェームズ・ボンドだ! 日本の有名芸人M迫に似ているって言われるんだけどね。M迫ですっ!」
芸人顔負けのハイテンションでモノマネまでしてくれ、サービス精神旺盛にダジャレを連発する彼は、日本で介護や人材派遣などの仕事をしたこともあるそうで日本語がペラペラだ。
小学生の頃は朝4時から金持ちの家のお手伝いや管理をして働いてたそう。
「丁稚奉公(でっちぼうこう)してたのさ! 今はチンピラゴボウだけど!」
チンピラとキンピラをかけた渾身のダジャレで笑いを取ると、
「俺は子供の頃からずっと働いてきたんだ。いくら働き者と言われる日本人だって勝てっこないよ!」
ビジネスに対して気合い充分という意味であろうか、ジャルさんは一見チャラ男に見えるが、エネルギーに満ちあふれた熱い男であった。ひとたびビジネスの話になると、
「ロンボク島は地震で半年は死んだ。余震が続いてトラウマさ。掘っ建て小屋生活だ。復興したくても家作るのに材料がないんだよ。工場もないし。家は国で年間100万戸足りない。
俺は良い家が作りたいんだ。ここでは材料のブロックが1個2千ルピア(約16円)だったとしても1万ルピア(約80円)だったとしても、出来上がった家は同じ値段で売られたりする。
でも俺はお金儲けだけじゃなくて、信用できる素材を使って良い建物を作りたいんだ。地震が来ても崩れない、丈夫で良い家だ! そのために日本の技術や素材が大事なんだよ。俺はその架け橋となる!」
急にマジメな話をするジャルさんがなんだかおもしろかったが、その言葉は力強く、頼れる気がした。仕事の話が終わったかと思うとまた陽気なジャルさんに戻る。
「インドネシアは一夫多妻制オッケーイ。いっぱい働いていっぱいの女性を幸せにするんだよ。一夫多妻制と言ったら4人くらい? いや、俺は10人だ! ハッハッハ!」
豪快に笑うジャルさんは続けてこんなことも言っていた。
「ところで日本人は一生懸命な国。技術がすごくてなんでも作れるのに、どうして人間を作るのを忘れたんだ......?」
ふと、少子化問題についての鋭い呟きに、私はなんだかハっとさせられた......。
ジャルさんはしゃべり続けた。
「インドネシアはオランダ領だった350年間は奴隷のようだったし、日本に3年半統治されてる間も自由がなかった。でも日本が来てからはオランダから解放されたし、日本は仕事や勉強や戦いしろと言って厳しかったけど、それはこの国のためでもあった。独立させたいから。
だからみんな言ったよ、1に日本は光、2・日本は力、3・日本は......なんだっけ。忘れた~。ところでパンチャシラを知っているかい? インドネシアの多様性の中での統一をするための5原則だ」
インドネシアの学校教育では、パンチャシラを授業科目として学ぶそう。
「第1に唯一神への信仰、第2は公正で文化的な人道主義、第3はインドネシアの統一、第4は合議制と代議制における英知に導かれた民主主義、第5は全インドネシア国民に対する社会的公正」
原型は初代大統領になるスカルノ(デヴィ夫人は彼の第3夫人)が発表し、それを元に訂正されて現在のパンチャシラ、建国五原則が定められた。
「特に大事なのは神様を信じなきゃいけないってこと。宗教はどれかひとつ入らなきゃいけないし、身分証明書には宗教を書くんだよ」
インドネシアではイスラム教、プロテスタント、カトリック、ヒンドゥー教、仏教、儒教の6つの宗教が公認されている。無神論は違法であり、公言をすると逮捕される可能性があるんだとか。日本人から見ると、これはなかなかカルチャーショックである。
さて、いろいろな話を聞けた私はジャルさんにたずねた。
「ところでこの話やジャルさんのこと、書いてもいいですか?」
「ああ、もちろんさ! 俺はフリー素材だ! 写真も撮れ! 顔はチンピラゴボウだけど悪いことはしてないよ!」
「アハ! ジャルさんてギラギラしてるなぁ(笑)」
「ハハハ。ギラってクレイジーって意味だよ(笑)。まぁ、ある意味当たってるけど! ついでに教えると、枝豆を"エダメメ"って言ったらダメだよ! メメは@#%*のことだから......。それじゃみんな、カンパイオッパイ! カンパイスースー!」
ススとは牛乳(おっぱい)のことであり、そんな下ネタ風味のギャグも挟みながら、私たちは枝豆とビールやウイスキーをカンパイスースーした。
【This week's BLUE】
酔っぱらった私たちはこの魚のおもちゃを購入(4匹も)。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第239回「最高すぎるビーチ! 排気ガスが存在しない3つの秘境アイランド」
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】