来場者を130万人に伸ばし話題を集めた今年の東京モーターショーで、マツダの藤原清志(きよし)副社長を自動車ジャーナリストの小沢コージが直撃。今年発売になった新型モデルの話をたっぷり聞いてきた!
■マツダ3の苦戦は受注生産にあった
──まずお聞きしたいのはマツダの価格戦略です。今春登場の新型コンパクトハッチ&セダンのマツダ3。いよいよマツダ・スカイアクティブ革命の第2幕スタートって感じで、デザインは「スーパーカーか!」ってなほどカッチョいいし、走りも上質だし、名前もアクセラからグローバル統一名にしたのもいい。けど、少々価格がお高くないスか?
藤原 まず皆さんにご理解いただきたいのはCASE(ケース)の問題です。今後のクルマにはコネクティビティ、電動化、自動運転などの先進技術がベースとして当たり前に入ってきます。おのずと車両価格も上がる。それはどのメーカーも同じ。トヨタさんだって20万~40万円は上がっていますよ。
──今、クルマのベース価値自体が上がっていると。けど、トヨタ・カローラは190万円台スタートなのに、マツダ3は220万円台スタートです。国内の同じCセグメントなのに。
藤原 それはセダンの話ですよね? 5ドアハッチバックはカローラと同じ価格です。カローラ・スポーツは220万円弱ですから。価格が上がっていない他社モデルはハイテクを省いてるケースがあるかも。そこはちゃんと見て確かめていただきたい。
さらにわれわれは旧型から20万円上がることに対して、静粛性を上げ、標準オーディオのクオリティも上げています。価格が上がった分、価値の上昇も見ていただけないかなと。
──確かに装備の充実度は価格に影響すると思います。
藤原 それから今の日本におけるマツダの販売方法だと、ディーラーがクルマをオーダーするわけではないんです。お客さまがお申し込みしてくださったら生産をスタートさせる。
──えっ! ディーラーが在庫を持って売るんじゃ?
藤原 今ディーラーにあるのは試乗車だけです。ですから販売初期にドーンと販売台数が上がったりはしないんです。
──そりゃスゴい。たいてい発売日に合わせてクルマをドカドカ造って新車効果で売っちゃいますが、マツダは最初から受注生産方式だと。
藤原 実際、マツダ3も国内販売台数が上がってきているじゃないですか。直近の9月は7500台超です。
──これまたひとつのマツダ理想主義で、決して勢いでは売らないと。
藤原 マツダ3も国内販売台数が上がってきているのは、お客さまが「マツダは価格に見合った価値がある」と思っていただけている証拠だと思っています。ただし、新型エンジン「スカイアクティブX」の販売が遅れてしまったのは本当に申し訳ないと。
──一方、アメリカでは価格が高すぎて売れてないという報道があります。
藤原 そこも単純な話じゃありません。マツダみたいな小さな会社では、たくさんのモデルを造れないので、1モデルのなかにいろんな仕様やパワートレインをそろえて価格カバレッジ(帯)を引き上げています。
──具体的には?
藤原 新型マツダ3の場合、この北米市場のCセグメントのAWD車では、あまりいい競合がなかったので2.5LガソリンのAWD車を価格カバレッジを上げる要素に使ったんです。
結果、向こうで3万ドル(約330万円)以下のところではAWDがよく売れています。逆にその下の2万ドル(約220万円)ぐらいのところは激戦区なので少し苦戦しています。
──報道によると、北米でマツダ3は販売台数が前年割れとか?
藤原 正確にはアメリカではセダン全体の販売が落ちているんです。特にCセグメントはドーンと。
──アメリカや欧州は、コンパクトといえばSUVばっかり売れて、セダン離れが起きていると。確かにトヨタもカローラよりRAV4が売れているし、ホンダもシビックよりCR─Vが売れています。
藤原 カテゴリーの問題かなと思います。
──そこで根本的な問いですが、そもそもクルマの価格ってどう決めるべきだと思いますか。技術に対してお金を払うのか、それともデザインなのか。あるいはブランド力になのか。どうです?
藤原 今後は今までと変わってくるはずです。シェアリングなどが入ってきたとき、本当に地点をAからBに移動するだけだと大きく下がる可能性がある。
──クルマが保有するものから使用するものに変わることで価格破壊が起きると。
藤原 そうです。そしてそれは車両の価格ではなく、借りるクルマや、シェアリングの費用だったりします。
その一方でクルマを保有したい人っているじゃないですか。これから一度シェアリングに移って戻ってくる人もたくさん出ると思うんです。やはり所有の喜びはあるし、そこはやっぱりデザインだったり、乗ってるときの味つけだったり、そこに価値があると思うんです。われわれクルマ屋ができるところは唯一そこなんです。メガサプライヤーではできません。
──そこがマツダの存在価値だと。私はマツダを「いい人プレミアム」と勝手に名づけていまして、ドイツのプレミアムほどじゃないにせよ、価値あるものを納得できる価格で売るのはいいことだと思っているんです。ですから今回の価格アップも根本は正しい戦略だと思っていましたが、やっぱし価格の問題は難しいなと。
藤原 難しいんですが、マツダは企業としてこれからもずっと生き残らなければなりません。サプライヤーさんにもちゃんとお金を払っていかなければならない。これはぜひ知ってほしいのですが、日本国内で2番目に自動車を造っているのはマツダです。
──トヨタが国内300万台を維持し、マツダが90万~100万台を造っています。しかも売れ筋の軽を造らずに。
藤原 ということはですよ、それだけ日本のサプライヤーさんのビジネスを考え、その家族も養わなければいけない。そういうことを考えるとちゃんと価値を持った商品を世に送り出し、「安くはないけど、乗ってみる価値はある」とお客さまに思っていただけるクルマを造らなければダメ。
──安くて丈夫なだけだとそのうち中国や韓国に負ける日が来る。ということはやはりマツダはプレミアムに?
藤原 いいえ、プレミアムには決してなりません。マツダは基本的にお買い得でなければダメなんです。2012年に発売したスカイアクティブ第1弾のCX-5にしろ、2.2Lディーゼルはトルクが420Nmもあり、速くてカッコいい。なのにこの低価格かと言われました。マツダは価格を超える価値を常に生み出さなければ生き残れません。
■12月に追加されるスカイアクティブX
──ズバリ聞きますが、やっぱしマツダ3は12月に追加されるスカイアクティブXがキモになる? 2Lのガソリンエンジンなのに、パワーが異様にあって、燃費もディーゼル並みらしいじゃないスか。
藤原 そのとおりです。もちろん価格は上に行きますが、それだけの価値があるものであることは確認済みです。
──スカイアクティブXって挑戦ですよね。今までの自動車ブランドはメルセデスが世界で初めて自動車を生み出したように、ストーリー性を売っていました。ところが今、マツダは性能を上げることで価値を上げようとしているように見えます。
藤原 そこは続けるしかないんです。
──というと?
藤原 続けていけばマツダの価値は上がるし、われわれがいろんなストーリーを話すことでブランドが出来上がってゆくのかなと。
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