「カロライナ式」のバーベキューです

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。アメリカ育ちの彼女が「バーベキュー四大聖地」の調理法を紹介した前回に引き続き、アメリカのバーベキュー文化について語る。

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アメリカにおける「バーベキュー」は、日本のうどんのポジションに似ていると思います。シンプルな料理なのに地域によって作り方が違って、みんなすごくこだわりを持っている。四国の人は福岡の軟らかいうどんが許せないだろうし、関西の人は関東のしょっぱいだしが苦手ですよね。

アメリカにはバーベキューに命をかけている人々がいます。彼らが集って腕前を競うのが競技バーベキュー。アメリカでは州や街ごとにバーベキューの大会が開かれています。そして先日、私もそのひとつを見に行きました!

バーベキューでは、調理の中心人物を「ピットマスター」と呼びます。ピットとは肉を焼くグリルのことで、参加者たちはみな自前のピットを持ち込みます。陶器の窯(かま)や手作りのレンガを積み上げたピットもあれば、お金に物を言わせたハイテクなピットも見かけました。

私が驚いたのはルールの細かさ。「カロライナ式」や「ナッシュビル式」といったスタイルや、使用する肉の部位は大会によって決まっているんですが、付け合わせの野菜の種類までちゃんと決まっています。

理由はわかりませんでしたが、その大会では審査員に提出する際に肉の下に置けるのはレタスかパセリのみでした。ケールやキャベツを出すことはご法度。決められた箱の中に肉と盛りつけ用の野菜を入れるだけで、そこにアルミの仕切りなんかを入れたらアウトです。

さらにソースは、別の容器に入れて審査員に自由にかけてもらうのはダメで、ピットマスターが適量をかけた状態で食べてもらわないといけないなど、かなり徹底しています。

このルールの細かさを見ていると、大会の運営はバーベキュー原理主義者なんじゃないかと思わされます。一方、ピットマスターたちはみんなマンガに出てくるようなアメリカのおやじで、ごっつい見た目。全体的に、男性的なにおいのする世界です。

競技に情熱を注ぐアマチュアが多いなかで、お店をやっているプロの料理人も参加していました。そういったお店系の人に対して、競技系のピットマスターたちが「金儲けのためにバーベキューやってるやつなんて、どうせわかってないよ」みたいな対抗意識を燃やしていたのが面白かったです。コミケの同人作家たちが企業ブースに向ける目と近いものを感じました。

さて、バーベキューは人によってマリネにかかる時間や焼く時間、寝かせる時間がまったく違います。きっちりやると仕込みに4時間かかったりしますが、競技バーベキューはこの仕込みからスタートします。

朝から始めて肉が焼き上がるのは夜。私も最初から見ていたんですが、ほとんどのピットマスターたちが肉をピットに入れもしない段階で帰ってしまいました。だから、今回誰が勝ったかわからないんですよね。結果が気になります。

今回の観戦を通して、あらためてバーベキューをちゃんと追おうかなと思いました。アメリカのテレビで『BBQ Pitmasters』というピットマスターたちに迫るリアリティ番組が放送されていたので、一度見返してみようかなと思っています。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。競技バーベキューでは、4万ドル(約434万円)もの賞金が贈られることも

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!