旅を始めて早6年弱、ついに旅人は世界遺産になりました

バルセロナに住むアナの家にステイしていた私とゴンジー(チリ人男子)はある日、アナの運転でシッチェスという街へ向かった。

シッチェスは、バルセロナから南西へ車で1時間ちょいの地中海沿いのビーチリゾート。漫画『ジョジョの奇妙な冒険』実写版のロケ地となったり、国際映画祭やゲイカーニバルなどが行なわれ、アートやLGBTの街として知られている。

しかし今回の目的はそれらではなく、スペインのカタルーニャ地方で200年以上もの歴史を持つ「人間の塔(Castell)」を見るため。

「人間の塔」は人間の体を積み重ねて塔を作り競い合うもので、日本の組体操を思わせるが、こちらは2010年にユネスコの無形文化遺産として認められている。

シッチェスに到着し、白亜の建物が並ぶ路地道を抜けると、すでに「人間の塔」が始まっていた。

人々は赤や黄色などチーム別のシャツと白いパンツをはき、腰には黒い帯を巻いている。帯は「ファッシャ」といい、登る人の手がかりや足場になったり、また背中や腰を痛めるのを防ぐ役割があるそうだ。

ファッシャを巻いているところ

「人間の塔」は、「力」「バランス」「勇気」「知恵」がモットーで、活動をするチームは現在60を超えるそうだが、この日は3チームほどの様子。

それぞれのチームが順番に、まず塔の下部の基礎部分を作り、その上に人が登っていく。基礎部分は「ピーニャ(松ぼっくり)」と言われ、なんだかかわいらしく思った。

スピーディーに人々が登り始める

2段目が出来上がっていく

3段目が出来上がっていく

組み上げが始まるとともにバンドの演奏もスタートし、なかなかのスピード感で人間の塔ができていく。塔は6段とかなりの高さだが、大規模な大会では10段にも及び、数百人もが協力して出来上がるのだとか。また、塔のバリエーションも色々あって、構成人数や段によって呼び名が変わる。

バンド。無心でドラムを叩く手前の男の子がイケメンっていう

そして「アンチャネータ」と呼ばれる最後のひとり(子供)が登頂し、頂上で片手を挙げると組み上げは成功! その後、解体までで完成となる。ちなみに「アンチャネータ」は男の子をイメージしそうになるが、女の子の場合もある。

出来上がった塔は、実際かなりプルプルしているので見ていてハラハラする。塔の最上部に登る子供たちはヘルメットをかぶっているが、これは塔の上部から落下した子供が死亡した事故をきっかけに、2006年から導入されたそう。

「人間の塔」は命がけなのだ。

「アンチャネータ」が頂上で片手を挙げた瞬間!

上部に登る人もすごいけど、ピーニャを構成する人たちもかなり重要で、塔が崩れた時のためのクッションの役割もある。時には落ちた者よりもひどい怪我をすることもあるそうで......。

そんな命がけの組み上げが真剣に行なわれる中、私がふざけてピーニャに協力しているような格好をして写真を撮っていると、

「おい、おまえも参加しろ!」

なんとなんとなんと、まさかのスペシャルオファーがやってきた!

参加するフリをしてたら誘われて「え? マジすか?」っていう場面

「え? 冗談でしょ? こんな伝統的なグループごとのプライドをかけた儀式に、どこの誰かもわからないちんちくりんの私が参加していいの???」(ちんちくりんは関係ない)

オドオドしている私の背中をスペイン男がグッと押すと、そのまま私はピーニャの一部となった......!

アナとゴンジーはそれを見て、「さすがマリー・ポッター! 奇跡を起こしたわ(笑)!」と、ランチで起きたプチ事件のハリー・ポッターネタ(第250回参照)で爆笑。

観衆からは「ねぇ、あの子スペイン語できるの?」「ううん! 英語だけ! 指示は英語でしてあげて!」という会話が飛び交っていた。

「上を向いたらだめよ! 頭を下げて! じゃないと首折れるわよ!

ええええ。ちょっと! 全然やり方わからないし、どうしたらいいの?

とりあえず私は塔になるためにギュっと前の男たちに密着した。そして手の置き場に困り思わず......、そこにあった左横の男のお尻を掴んだ!

お尻に手を伸ばす瞬間。現行犯です

触られたおじさんびっくりしてる? ロ、ロシエント(ごめんなさい)

首折れないように顔埋めて! 「私、世界遺産になったんだー!」と感じている瞬間

痴漢か強盗かと思われてもしかたないような場所に手を置いてしまいあせったが、下手に動かすのも痴漢度が増しそうだし、そうこうしているうちに周りにもう一層人の壁ができたので手を動かすこともできず、この状態でキープ。

顔が埋まっているので何が起きているのかはわからないが、とにかくバンドの演奏と盛り上がる観衆の雄叫びを聴きながら、自分が世界遺産の一部となっているこの瞬間を胸に刻んだ。

「人生で自分が世界遺産になれるなんて、そうそうなくない? この旅、最高じゃない?

そんな高揚した気持ちでバルセロナへ戻ると、マリー・ポッターの奇跡は留まることを知らない。

アナの家の周りではパンパンッっと激しい音とともに火花が舞い散り、炎の火柱が立ち上がっていた。何かと思えば、これは「コレフォック」といい、悪魔や怪物の格好をした人達が街を練り歩き、花火や爆竹を振り回すという危険極まりないお祭り。私たちは運良くその時期と場所に当たったのである。

スペイン人て本当に(危険な)お祭り好きすぎるわ(笑)。

悪魔の火祭り・コレフォック

みんなワーキャーと逃げ回るなか、悪魔に突っ込んで行ったのは私たちの仲間(笑)

今日は「首が折れるかもしれないけど世界遺産になれた」「爆竹で火傷するかもしれないけどエキサイティング」と、1日に2度も貴重で危険な環境に晒されたけど......最高。

恋とは縁がないけれど、お祭りとは随分、縁がある私でした。

★旅人マリーシャの世界一周紀行:第252回「黒いマリア様のいるパワースポットでの出会い」

●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】

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