インスタントのマッケンチーズの定番「Kraft」。懐かしさのせいで味覚崩壊
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回はアメリカで定番の「おふくろの味」について語る。

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1月11日はマカロニサラダの日ということになっていると以前このコラムでお話ししました。今回は、マカロニ&チーズという料理のお話です。

マカロニパスタと、チェダーチーズなどの濃いチーズのソースを混ぜたこの料理。アメリカでは"Mac'n Cheese(マッケンチーズ)"と呼ばれています。カロリー的には危険ですけど、広く普及している、定番中の定番の「おふくろの味」です。

スーパーに行くとインスタントのマッケンチーズの棚が2列くらいあったりします。日本におけるインスタントラーメンのようなもので、ご飯を作るのが面倒な日や、子供のおやつとしても重宝されます。映画『ホーム・アローン』で、主人公が泥棒と戦う前に食べるシーンは有名ですね。

私もアメリカに帰国した際は大量に買って帰ります。いやなことがあった日にこの濃厚なマッケンチーズを食べると、ひと口ごとに傷が癒えていくのを感じます。私にとってのコンフォートフード(ほっとする料理)ですね。

日本の友人からは「マッケンチーズとマカロニグラタンの違いは何?」と聞かれたりしますが、ベシャメルソースを使用したグラタンと、チーズをたっぷり使用したマッケンチーズはまったく別物です。

味つけも塩気を効かせたシンプルなものが基本ですが、日本でマカロニ&チーズを頼むとブイヨンやローリエなどを使ったものが出てくることも多いです。だし文化の日本ではそれが料理の基本ですが、本来のマッケンチーズはもっとシンプルな味わいです。

パセリやブロッコリーを加えて野菜を取ろうとするのも邪道です。やはり、見た目が黄色っぽいオレンジ色をした、濃厚で酸味の効いたものでないと。

とはいえ、最近はアメリカでもロブスターを入れた高級路線のものなど、"大人のマッケンチーズ"とも言うべきメニューが定番になっています。さらには、マッケンチーズをコロッケのように揚げた「マック&チーズボール」や、パンケーキやワッフルの生地に混ぜ込んだ料理もあります。日本でもはやってもおかしくないと思いますね。

そんなマッケンチーズ、発祥については諸説あるんですが、アメリカ第3代大統領のトーマス・ジェファーソンが19世紀初頭に考案したものではないかといわれています。彼が大使としてフランスに赴任していたときにイタリアのパスタが気に入り、マカロニ製造機を持ち帰ってチーズをかけて食べたのが最初だと。

しかし、2019年に新たな事実がわかりました。ジェファーソンが所有していた奴隷プランテーション(農園)の資料が最近になって公開されたんですが、それによると、黒人奴隷のジェームズ・ヘミングスがマッケンチーズを作ったそうなんです。ヘミングスはジェファーソンに伴われてフランスに行き、そこで料理の教育を受け、アメリカに戻ってからマッケンチーズを考案したということです。

マッケンチーズは"ザ・アメリカン"な料理のひとつですが、それが実は黒人が作ったものだったというのは現代のアメリカらしい話だなと思います。このことを知って私はよりマッケンチーズが好きになりました。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)にレギュラー出演中。初の鉄道本『鉄道について話した。』3月5日(木)発売予定。日本で「これ!」というマッケンチーズにまだ出会ったことがないので、今のところは自分が作るのが一番

★市川紗椰初の鉄道本『鉄道について話した。』の刊行記念お渡し会を3月8日(日)に開催予定! 詳しくは、書泉グランデの公式HPをご覧ください!