「新型コロナウィルスで空港が封鎖された。日本もヤバそうだけど、大丈夫!?」
スペイン在住のアナやチリに帰国したゴンジーから連絡があったのは先週のこと。その後、スペインでは感染拡大が深刻になり、非常事態宣言が発令された。
私が今回の舞台であるサン・セバスチャンを訪れた頃、まさか数ヵ月後に"バルにピンチョスが並ぶ日常"が姿を消すなんて、誰が想像できただろうか。
今は旅人も旅に出るのが難しい状況。早く収束するよう願いを込めて、元気な頃のスペインの姿をお届けしたいと思います。
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北スペインのバスク地方にあるサン・セバスチャンは世界屈指の美食の街。
小さな旧市街パルテビエハには100軒以上のバルが密集し、ピンチョスやタパスを楽しむために世界からグルメな観光客たちがやってくる。
さぁ、私もずっと憧れていたサン・セバスチャンでハシゴ酒文化を堪能するぞ!
まず、バルのフードについて。
ピンチョスとはパンの上に具材が乗せられた一口サイズの軽食で、いわゆるフィンガーフード的なもの。
その名前は串や楊枝が刺してあることに由来するそうだけど、現代ではサンドウィッチのようなものや、小鉢やタルト生地を器にしたものなど、実に様々なスタイルがある。
そしてタパスとは小皿料理のことで、タパはスペイン語で蓋の意味。
かつて居酒屋でワインを飲んでいた客が、グラスにハエやホコリが入るのを防ぐために、パンや肉の切れ端などを蓋にしたことが、名前の由来だと言われている。
小皿料理といっても、店によってはボリュームがあったりサイズが選べたりとこれもまた様々。
私はこの街に2泊3日の滞在予定なので、時間と胃のキャパを考えてバルの下調べはマスト。評判の店を事前に15軒ほどリストアップして、行きたい順に攻めることにした。
まずは「サン・セバスチャンに来てこの店に行かない人はいないのでは?」というほど、何を調べても出てきた人気店「Borda Berri」へ。
店内に入ると基本はスタンディングのスタイルで、カウンターも壁側の台も客で埋まっていて、次から次へとオーダーする声が飛び交っている。バルといえばカウンターに作り置きのピンチョスが並んでいるのが一般的だが、この店は注文してから出てくる出来たてのタパスが売りだ。
注文はカウンターでするのだが、店員は常に忙しそうな様子で呼びかけるタイミングを見計らうも、なかなか隙がない。声をあげても気付いてもらえなかったり、チャンスが来たと思えばすかさず隣の客に抜かされたりもした。
仕方ないので私はついに背伸びをしながら、まるでバブル期の札束を見せてタクシーを止める行為のようにユーロ紙幣をヒラヒラとさせ、「オーダーお願い! お会計も即するよ!」と必死にアピールをした。
やっとゲットした戦利品は、狙っていた人気メニュー「牛ホホ肉の赤ワイン煮込み」。
小皿料理といってもけっこうボリューミーな肉の塊で、フォークで撫でるように触れるとホロホロと筋状に崩れていく姿が視覚ですでに美味しく、ヨダレが出る。口の中に入れると赤ワインソースと絡み合ったジューシーな旨味が広がり、ビールで流し込む瞬間が最高だった。
ところで、お酒の種類について。ビールはスペイン語で「セルベッサ」だが、生ビールを頼みたい時は「カーニャ」と言う。
しかしハシゴ酒するのにビールは腹のスペースを奪いがち。というわけで、ハシゴ文化のここでは半分サイズのビール「スリート」というものが存在するのである。ありがたし! 次からそれ!
......と言いたいところですが、他にも飲まなければいけないものがいっぱい。
バスク地方ならではの絶対飲みたいお酒「チャコリ」は、発泡性白ワイン。高い位置からグラスに注ぐ「エスカンシア」というスタイルで、店員さんがジャバジャバと豪快に注ぎます。
それから「シードラ」というリンゴのお酒や、赤ワインにフルーツが入った「サングリア」(これは日本でも有名よね!)、赤ワインをソーダー水で割った「ティント・デ・ベラノ」、バスク発祥のカクテル赤ワインとコカコーラを混ぜた「カリモッチョ」などなど、トライしたいものたくさん!
食べるだけじゃなく、飲むもしなきゃいけないから、こりゃ困ったなぁ(嬉)。
結局この店では他にも、バスク地方の伝統郷土料理「白身魚のピルピル」(白身魚のオイル煮。ピルピルはスペイン語の擬音で油がはねている音なんだって!)「お魚(スパイダーフィッシュとか書かれていた)とトマト」、最後の一皿はオススメをお願いして「ポークリブ」と思われる、合計4皿に舌鼓。
ふぅ! 念願だったサン・セバスチャンのバルの1軒目を終えて、私は思ったよ。
「腹パン......!(え?)」
もうひとつ、牛ホホ肉と並んで人気のシグネチャーメニュー、プンタレッテ(米粒の形をしたパスタ)とイディアサバルチーズ(バスク地方の羊の乳のチーズ)を使ったチーズリゾットも食べたかったけど、流石に米行ったらヤバイと思い、断腸の想いで店を後にした。
うーん、食べたいものはいっぱいあるのに1軒目でこれじゃ、先が思いやられるな。2泊3日で何軒行けるかしら。
「ギャル曽根になりたい!」
私は心底そう思うのだった。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第261回「美食の街、サン・セバスチャンで行っておくべきバル・ベスト3」
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
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