今週も「#おうちたび」と言うことで、昨年のスペイン旅をお届けしたいと思います。
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スペインの聖地巡礼路にある街、パンプローナからエステーリャまでは50km。巡礼者たちはその道のりを9時間かけて歩くのだが、私はもちろんバスに乗り、1時間で到着した。
エステーリャはナバーラ州の基礎自治体で人口は約1万3670人。17時半頃到着すると、バス停の目の前には小さな街にもかかわらず移動遊園地(「Barraca=バラック」と呼ぶらしい)があるぞ......。何か妙だと思ったが、荷物もあるしまずは宿へと向かうことにした。
街中に入ると、路上には髪の毛にカラフルな糸を編み込む商売をしている移民系の女性たちや、カバンやベルトを売る屋台などがあり、歩く人々の多くが白い服で首に赤いスカーフを巻いている。
この服装はパンプローナで行なわれる牛追い祭りの伝統的な衣装だ。とてもスペインらしい格好であるが、なぜこの街で? ふと店のショーウィンドウを見ると「フィエスタ・デ・エステーリャ」という文字が。さてはお祭り!?
街の中心にあるサン・ファン・バウティスタ教会の前を通ると大きな特設ステージがあり、何かイベントがあることを確信。宿に着くと、目の前の広場で人々がテーブルや椅子などの撤収作業をしていた。
「ここでも何かやってたっぽい! 一足遅かったか! ぐぬぬ!」
旅運がなかったことを嘆いていると、セニョール(おじさん)が話しかけてきた。
「お前は日本人か? 日本人だな? この街にもなんと日本人が住んでいるんだぞ! 連れてくるから、これ飲んで待ってろ!」
セニョールは私に赤褐色の液体が入ったプラスティックカップを渡し、しばらくすると日本人女性を連れてきてくれた。彼女はあお木たかこさんといい、セニョールのナイスマッチングのおかげで、私はこの街についていろいろ教えてもらうことができた。
「ナバーラ地方ではバスク語を話すのよ。その飲み物はパチャランって言って、彼が言ってる『ポリキポリキ』は、『ゆっくりゆっくりちょっとずつ飲みなさい』ってこと!」
パチャランとは、スピノサスモモ(ブルーベリーのような実)の香りを持つリキュールで、一般的には食後酒として、ナバーラ、バスク、リオハ地方で飲まれている。
中世から存在し、歴史的には消化を助ける薬として用いられているのだそう。先日のサン・セバスチャンではバル巡りで食べすぎていたし、『ドラクエ』で言うところの「やくそうを手に入れた」気分だ。
「今はエステーリャのお祭り期間でね、1週間続くの。お祭り中は細い路地にテーブルや椅子を並べて、朝から晩までずーーーっと飲んでおしゃべりしてるのよ!」
なんと! 祭りは終わっちゃいなかった! そしてさすがスペイン! 私はこれまでもいろいろな祭りを見てきたが、世界でもスペインのお祭りはとにかくパワフルで、いい意味でクレイジー(笑)。
お祭りのプログラムは朝から深夜までビッシリ。街中の各所では伝統的なセレモニーや歌や踊りに音楽。巨大な人形が街を練り歩いたり、闘牛ショーがあったりと休む暇がない。
「遊園地ではコンサートが夜9時から朝4時まであって、若者たちはもちろん朝まで、5歳くらいの子供だって深夜まで遊んでるのよ。日本だったらあり得ないでしょう(笑)?」
たかこさんはその遊園地の近くに住んでいるそうなので、きっと騒音でお疲れであろう......。
「あと朝と晩には街中に牛を走らせるのよ。『ミニ・パンプローナの牛追い祭り』ってとこね。見たかったらあとで行きましょう」
旅運キターーー! まさかパンプローナで見逃した「牛追い祭り」のミニ版が見れるとは!
「その前に、今から『LA BOTA』ってゆう、一般人の入れない地元の人たちだけが集まるソサエティの場に行くけど、みんながあなたもどうぞって!」
なんと、たかこさんのおかげで私も地元の集まりに特別参加! 向かった先には「LA BOTA」と書かれた横断幕が青空の下で揺らめき、子供達が水遊びをしている。
そして屋内に入ると、バーカウンターの前で大人たちがビール片手におしゃべり。この場所はお祭りの時などに、みんなでプライベートバルのように使うのだそう。飲み物の値段がバルの半分くらいと安いから。私もたかこさんの友人にご馳走になり一緒に乾杯した。
お祭りの時以外でも、地元の仲良しグループ(「Cuadrilla=クアドリージャ」といってバスク文化の友人グループのことらしい)がプライベートパーティーや誕生日に使いたい時に使用するそうだ。
「さて、もうすぐ牛が走るわよ! 混んでるから荷物には気をつけてね!」
時刻はもう20時頃であったが外はまだ昼のように明るく、沿道には木の柵が設置され観衆で埋まり始めていた。私は柵の最前列にへばりついていたのだが、いつの間にか子供たちに追いやられてしまう。するとその様子を見ていた大人たちに助けられた。
「よう、おチビちゃん! 消火栓の上に乗ったらよく見えるよ!」
そしてついに興奮の瞬間! 牛の首についた鐘の音とともに数十人ほどの男たちが必死な形相で目の前を走り抜け、それに続いて10頭ほどの牛が突進!
目の前を過ぎるのは15秒程度だろうか、一瞬であったが、本場の牛追い祭りでは危険すぎて近くで見るのは困難だろうものを、こんな目の前で見れたのはラッキーだ。牛追いは何度か目の前を往復し、私は満足が行くまでそれを見ていた。
そして21時頃になると、体力を温存していた人たちが街にあふれかえり、サン・ファン・バウティスタ教会前では派手な音楽とともに人々が踊ったり、22時頃には模型の牛に花火をつけて走り回る「子供用の牛追い」も行なわれた。先ほどの牛追いと比べ、模型の牛1頭に対して人間の数が圧倒的に多く、その様子は大運動会のようで愉快だった。
「ね。これからなのよ、この国は。夜9時とか10時に始まるの(笑)」
さすが、スペイン。私の体力は持つのだろうか......(笑)。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第269回「放浪の旅先でスローライフを選んだ日本人イラストレーター」
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
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