やばい、ヒゲ面の大頭に狙われている! 逃げなきゃー!

今週も「#おうちたび」と言うことで、昨年のスペイン旅をお届けしたいと思います。

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1週間続くエステーリャのお祭りの最後の日。祭りはいつも通り朝8時には始まっていたようだが、私は昨夜の疲れが残っていたのでお昼頃起床。窓の外を見ると、目の前の広場ではすでにイベントが始まっていた。

そのイベントとは、この祭りの最終日をスタートする「アホアリエロコンテスト」だった("アホ有りのエロ"......? んなワケではないです、もちろん)。

チェックアウトをしてその様子を見に行くと、それは、街のコシニーリャ(シェフ志望)たちが最高の「バカラオ・アル・アホアリエロ」(塩漬けの干し鱈を、油、ニンニク、赤唐辛子、トマトやパプリカのソース、じゃがいもなどで調理したもの)の味を競うものだった。

サンティアゴ広場で「アホアリエロコンテスト」が始まった

作り手によってバリエーションがあるようで、料理の行程をずっと見ていたい気もするが、街中の様子も気になるので私は街歩きを始めた。

最高の青空の下散歩していると、暑さのせいか人影はまばらで、路地裏には小さなお土産屋がポツンと開店していたり、聖ミゲル教会で休む人々や聖地巡礼者を見かけるなど、だいぶ穏やかな雰囲気。

「お祭り中なのに静かじゃないか。やっぱりこの国のメインは夜か......」

人気の少ない路地裏

聖ミゲル教会の下で休む人々

闘牛から逃れるための壁を利用したペストリー(パン菓子屋)のカウンターかな?

その時だった。どこからかマーチングバンドとバグパイプの音が近づいてきた。そして白服に赤バンダナの少年たちが逃げるように向かってきたかと思うと、その後ろを巨大な頭の張り子をかぶった人間が、先っぽにボールを付けたムチのようなものを振り回し、彼らを追いかけ回していた。

少年たちを巨大頭が追いかけ回している

「なにこの『なまはげ祭り』的なやつ(笑)!」

笑いながらその様子をセルフィーでカメラに収めようと背中を向けたら......、バッシーン!!

「ぎゃー!! イッターイ!!!!」

大頭が私のお尻にムチをフルスイング! 子供だけが楽しむ催しかと油断していたら、巻き込まれるなんて! ガチでまあまあ痛いんですけどっ(笑)!

さらに追いかけてくるので、私は逃げた。ハァハァと壁にもたれかかり様子をうかがっていると、高いところに控えていた大人や近くで見ていた警察も叩かれていた。無差別なのね!

高いところに控えていた大人も容赦なく叩かれる

続々とやってくる大頭たち

その後もこの大頭は数体やってきた。再び襲われないかと私がビクビクしていると、隣に立っていたマヌエルという名のセニョールに声をかけられた。

「ははは。大丈夫かい? 怖くないよ。これは『巨人と大頭(ヒガンテスとカベスドス)』と言って、巨大な張り子人形の行列が音楽とともに街を練り歩く伝統的な祝祭儀礼だよ。ほら、今度は巨人がやってきたぞ!」

「巨人と大頭(ヒガンテスとカベスドス)」について教えてくれたマヌエル

大頭に続いて、今度はかなり背の高い巨人の人形がクルクルと回転しながらやってきた。

「巨人の顔を見てごらん。肌の色が違うだろう? 世界平和を象徴するように、世界の王と王妃を模しているんだよ」

巨大人形「ヒガンテス」のパレード

巨人「ヒガンテス」は、1860年に考案され150年以上の歴史がある。全高4m、重量60kgの胴体に人が入って持ち上げているのだそう。

大頭の「カベスドス」は政治風刺的な意味を持ち、市長、市議会議員、老婆などに扮し、子供たちに愛想を振りまく。それよりやや小さい大頭「キリキス」が、子供を追いかけムチで殴りかかる役だ。

それから、腰に馬型の人形「サルディコス」をつけている少年もいた。これまた先っぽにボールのついたムチを持っていたので、叩かれないように要注意だ。

このサルディコス少年は強そうだ。狙われないように気をつけようっと

パレードが教会前の大広場にたどり着くと、街中の人が全員集まったのではないかというくらい、たくさんの人がいた。

そしてスペインの太陽がジリジリと照りつける中、巨人人形たちのダンスが始まる。木造の骨格の中に入った人が人形を背負い、伝統的な音楽のリズムに合わせてステップを踏む。

重量を考えたらかなりハードな仕事だろう。それを讃えるかのようにダンスが終わると拍手喝采。人形が入れ替わり、続けて何曲もダンスが披露された。最後まで見届けたかったが、あまりの暑さに数曲で私は撤収した。

この「巨人と大頭」、エステーリャの独特なイベントかと思っていたら、スペインのお祭りではおなじみらしい。なんと言ってもスペインはお祭り大国。最終日の最終プログラム、深夜1時には「desmayo」と書かれており、翻訳すると「失神」であった。そんなに盛り上がるのか(笑)。しかし、私は夕方にはこの街を出なければならなかったので失神することはなかった。

エステーリャは小さな街だったが、偶然お祭りの時に訪れ、街に住む唯一の日本人にも奇跡的に会うことができ、深く思い出に残る街となった。

ところで、後々このお祭りについて詳しく調べると、ムチの先のボールのようなもの、"豚の膀胱"という説が......。え、私は膀胱で叩かれたの!? (ちなみに豚の膀胱が本物かどうかの真偽にはたどり着きませんでした)

今年は新型コロナウイルスで中止だそうだが、またいつかこの楽しいお祭りで街が賑わいますように!

さらばエステーリャ! いつかまた来るぜ!★旅人マリーシャの世界一周紀行:第271回「巡礼者の宿・アルベルゲでの妙に落ち着かない一夜」

●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】 女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】

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