政府の行政部門「ビスケーフォーラルデリゲーションパレス」の前で。私、いるよ。

引き続き「#おうちたび」いうことで、昨年のスペイン旅をお届けしたいと思います。

* * *

ビルバオでの日々は、カウチサーフィンで知り合った仲間たちのおかげで充実していた。

ビルバオ・グッゲンハイム美術館を訪れた後は、オランダ人のギルバートと街を散策。

ビルバオを代表するスビズリ橋ではカールという名のバスカー(路上パフォーマー)が上裸でギターを演奏していて、「俺は意思を持って人生の選択をし今はこの街にいるんだ」というようなことをしゃがれ声で熱唱していた。彼のYouT ubeには『I miss Japan』という曲があったので、なんだか応援したい。

新市街を歩くと、氷山のようなデザインのガラス張りのビル「バスク保健衛生局」や、円形のモジュア広場には「チャバリ宮殿」など、印象的な建築が目に入る。

バスクの街並みに触れながら、私もカールと同じで「今、自分が選んだ生き方でこの街にいるんだ」なんて"旅して生きる実感"を感じたりして。

サンティアゴ・カラトラバ設計の「スビズリ橋」。バスカーのカールが熱唱

コル・バロー・アーキテクトス設計の「バスク保健衛生局」

ポール・アンカール設計の「チャバリ宮殿」はフランドル様式

オランダ人のギルバートとカフェで休憩

夜は夜で、連日にもかかわらずカウチサーフィン仲間の地元女子ロシが街案内をしてくれた。

「ここは『アスクナ・セントロア』ていって、昔ワイン貯蔵庫だったの。外壁を残して改装し、2010年に複合施設として生まれ変わったのよ。人が泳いでる姿が見える底が透明のプールや、43本の異なるデザインの柱がおもしろいでしょ? ジムに図書館、映画館やオープンテラスのバーもあるわ!」

改装デザインはフランス人建築家フィリップ・スタルクによるもの。浅草のスーパードライホールの金色のオブジェでも有名なデザイナーである。やっぱりビルバオはアートの見所が多い。

アスクナ・セントロアの外観

下から泳いでいるところが見えるプール。夜だったから誰も泳いでなかったけど

様々なデザインの43本の柱と光るベンチ

そして昨夜に続き旧市街へ向かうと、すでにシャッターの下りている建物を指してロシが言った。

「ここはチョコよ! 知ってる?」

「チョコ? 人気のチョコレート屋か何か?」

思わずそう聞いてしまいたくなるが、窓から中をのぞくと、チョコレート販売している様子はない。クッキング教室のような広くてきれいな北欧風ダイニングが見えた。

「ここは男性オンリーの美食の会『TXOKO(チョコ)』が使うレンタルスペースなのよ!」

チョコとは会員制の"美食の会"。男たちが定期的に集まって調理をして食べる社交の組織で、バスクの伝統であり、基本的には女人禁制なのだとか。

男性美食倶楽部チョコの外観

窓から中を覗いてみると北欧風のかわいいダイニング

バスクには多数のチョコが存在し、規模は様々。例えば約1万5千人が住むゲルニカという街では、9つのチョコがあり約700人が会員である。各チョコは最大80人のメンバーを持つことができるが、全員が同時に集まるわけではない。

元は1870年、サン・セバスチャンで始まった。基本的なシステムは、仲間を集め、共同資金や会費でレストランを借りたり、あるいは場所や設備を購入。会計や管理者など役割分担があるのだそう。

場所を購入した場合はメンバーで相談してインテリアや設備などを決めるので、まるで男だけのアジト作りのようで楽しそうである。また小さい町や郊外では、会場や食料などの経費を友人たちでシェアしたり、自宅を利用したりという規模のものもある。

私がここで見た施設は、チョコの時間貸しレンタルスペースというわけだ。伝統文化も時代とともに、より利用しやすいように変化しているのだろう。

男性美食倶楽部チョコのレンタル施設の値段表

各組織内には管理上ルールが存在する。おもしろいのは、ほとんどの伝統的なチョコは「政治の話は禁止」らしい。日本で言うところの「政治と宗教と野球の話はするな」的なものだろうか。まあ、お酒も入ってるし、議論が白熱して喧嘩にもなりかねないしね......。

チョコの意義は仲間たちと美味しいものを囲みながら男同士のコミニケーションを楽しむことであるが、一説によると家で尻に敷かれていた男性たちが恐妻たちから逃避する場として作ったのが始まりだとか......。どこの国にも似た部分はあるようだ。

「それにしても、男子だけ楽しそうでずるーい!」

と、ちょっとジェラシーを感じたが、一部の保守的なチョコを除いて、近年では女性の参加も許可されているらしい。ただし、食べたり飲んだりするだけで、厨房に入れるのはやっぱり男のみなんだとか。

「TXOKO」を動画検索してその世界をのぞき見すると、私が想像していた飲んで食べて騒げという雰囲気ではなく、食材へのこだわりや調理に関して真剣に向き合う様子が映し出されていた。

ドキュメントのようなその映像にタイトルをつけるならば「男だけの神聖なるテーブル」とでもいったところだろうか。(きっとドンチャンしてるのもあるだろうけど!)

そんなチョコの存在はバスクの食文化にも影響を与えてきた。スロベニアの一部の町にも広がりつつあるというが、私も日本で"女子美食会"の先駆者にでもなろうかしら?なんてね(すでにありそう)。

世界でも美食で注目されるバスクのユニークな食文化、是非とも体験したかったが、私は明日この街を去る。最後の夜は、カウチサーフィン仲間たちと乾杯して別れを惜しんだのだった。

ショットグラスじゃなくて割と大きめなグラスに注がれているお別れの酒

★旅人マリーシャの世界一周紀行:第275回「パリ弾丸20時間滞在で本場のアレを食べるはずが......!」

●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】

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