『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、研究の末たどりついた"市川流バーガー"について語る。
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連載204回目にして、謝罪から始めさせてください。「絵文字vs顔文字」の回で、一時期グーグル系端末に入っていたチーズバーガーの絵文字について、チーズが肉の下という順番に「ありえない配置」や「チーズバーガーへの冒涜(ぼうとく)」と表現しました。
しかし、あれから私にバーガー革命が起こりました。チーズバーガーと向き合ってない状態での浅はかな発言、申し訳ございませんでした。
そもそも私は、これまでバーガーに興味を持てませんでした。ハンバーグは大好物で、全国400軒ほど食べ歩いたけど、「ガー」のほうは......。
アメリカ時代、よく出されたがっかりバーガー。よく言うと肉々しい、悪く言うと歯応えだけのパテに、ぐんにゃりなバンズ、でかい割に味のないトマトと申し訳程度のレタスのカケラ。
当時、お肉が苦手だった私にとってはなおさら魅力ゼロ。そんな苦いバーガー原体験を持っている私は、ここ10年の「グルメバーガーブーム」にさほど心が引かれず、誇り高きバーグ派として過ごしてきました。
さて本題。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で予定していたアメリカ帰省も中止になったので、ホームシック解消と暇潰しを兼ねてアメリカ料理をよく作ってます。
いろいろ作った末、バーガーにも挑戦しました。インスピレーション源は、オクラホマ州のご当地バーガー、オクラホマオニオンバーガー。薄く切ったタマネギを大量に叩きつける伝統的なスタイルに工夫を加え、市川流バーガーが完成しました。
使うお肉は、ちゃんと脂身も含まれている牛ひき肉。タマネギはスライサーでできるだけ薄く、半透明な状態にカットします。ゴルフボール大にふんわりと丸めた肉を熱々のフライパンにちょこんと置き、塩をふる。そこに、お肉が隠れるほどの大量のタマネギをのせます(タマネギがあふれ返り、肉とタマネギが半々になる量がオススメ)。
そしてここがキモ! 穴がない重めのフライ返し(私はハンバーガー用のスパチュラを使用)でバン!と肉とタマネギをフライパンに叩きつけ、まん丸だった肉の玉を1㎝以下の薄さに広げます。
熱に直接触れてメイラード反応が起こる肉の面積を増やしたいので、できるだけ平らにして、タマネギと肉との一体感を目指します。叩く回数は少ないほうがいいので、力強くいくのがポイントです。
約45秒でひっくり返し、チーズをのせ、さらにバンズの下側をのせます。約40秒たったら上下を逆にしながらお皿へ。バンズの上側をのせたら出来上がりです! タマネギは、フライパンに触れたカリカリ群、肉の下で蒸された甘い群、そして食感が残るけど肉汁を吸ったちょいシャキ群の3タイプが共存するのが理想です。
そしてそうです、チーズはパテの下に来るのが最適というのが研究の結果。効果はふたつ。舌にチーズが先に触れるのでクリーミーさが高まるのと、下側のバンズとパテの間の壁になるので、バンズのぐんにゃり化防止です。ぜひお試しあれ。
私の中で、このレシピでバーガーは完成しつつありますが、アメリカの各地域には特有のバーガーがあります。次回はアメリカのご当地バーガーを取り上げます。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。チーズが肉の下にあるのがおいしすぎて、お店のハンバーガーは逆さまにしていただいている。公式Instagram【@sayaichikawa.official】