みなさん、こんにちは。旅をおあずけされた旅人マリーシャです。わん。
旅ができないなか始まった、旅人でも作れる簡単世界飯シリーズ「おうちで世界飯」第4回目となりました。前回は、アラブの国エジプトの国民食「コシャリ」を作り、「名前がいいよね」などとお話ししましたが、今回もまたユニークなネーミングのお料理です。
挑戦するのは、北スペイン・バスク地方の伝統郷土料理「ピルピル」!
オリーブオイルとニンニクで食材を煮込む料理でアヒージョのようなものですが、違いはオリーブオイルをトロトロになるまで弱火で煮詰めて「乳化」させること。
乳化とは、水と油のような分離して本来混ざり合わないものが、均一に混ざり合う状態のことで、エマルションとかエマルジョンて言うとカッコイイ(笑)! その「乳化」がこの料理のポイントであり、具よりもソースが主役と言っても過言ではない!?
ちなみに名前の由来は、調理する際に油がはねる音からきているんだって! 世界のオノマトペは面白いよね。実際どんな音がするのか楽しみです!
* * *
私とピルピルとの出会いは、スペインのバスク地方(フランスとスペインにまたがった地域)にある、サン・セバスチャン。
パンに具が乗せられた一口サイズの軽食「ピンチョス」や、小皿料理「タパス」など、バスク人が発展させてきた伝統的な食文化「バスク料理」で知られる世界屈指の美食の街です。
「バル巡り」で訪れた一軒目は、「牛ホホ肉の赤ワイン煮込み」が評判の「BORDA BERRI」。カウンターには人がひしめきあい、注文するのも一苦労。
「ウ、ウナ カーニャ イ 牛ホホ肉と、コレとコレとコレをポルファボール!」
グラスビールと牛ホホ肉、そしてメニューを指差しながら3品ほどのタパスを適当にオーダーすると、しばらくして出てきたのは黄色いソースに絡められた白身魚。それこそが「ピルピル」だったのです。
乳化でトロトロになったソースと絡んだ魚の身は、やたらニュルンッとしていたのを覚えている。初・食・感! ニンニクのきいた塩気のある濃厚なソースを味わいながら、ビールを堪能。記念すべきバスクデビューを飾る思い出の一皿です。
さて、その味を思い出すべく、さっそく作ってみよう! 材料はたった4つ! どん!
<材料> 1~2人分
・塩タラ(甘口)...二切れ(180gくらい)
・オリーブオイル...60g(タラの3分の1くらい)
・にんにく...2片
・鷹の爪...1本
*メモ
・塩タラを使用することで調味料なしで作れます。真タラでも代用可能ですが、その場合は味付けに塩を使うことになります。
・今回のポイントはなんと言っても「乳化」です。材料も少ないし、せっかくなので良いオリーブオイルを使うのがオススメ!
<調理>
1.ニンニクをスライスし、鷹の爪は割って中の種を取り除いておく
2.鍋にオリーブオイル、鷹の爪、ニンニクを投入し、中火で温める
3.ニンニクがきつね色になったら、鷹の爪とともに取り出してキッチンペーパーの上で油を切っておく
4.タラを半分サイズ(自由)に切って、皮目を下にして鍋に入れる
5.極弱火でゆっくりタラを温める。2、3分程度で白い泡(タラのゼラチン質)がプクプクと出てくるので、オリーブオイルと混ぜるように時々鍋を揺すりながら10~15分(熱々にせず、ゆっくり温める感じで煮る。揚げ物ではないので、温度が上がりすぎたら、たまに火から外してください)。
ピルピルと音が......? 言われてみればそんな気がしないでもない。
6.タラの身を一度取り出し、鍋に残ったオリーブオイルとゼラチン質を完全に乳化させるため、茶こしのような目の細かい網で勢いよく攪拌。トロみが出て黄色くなるまでしっかり混ぜる(泡立て器でもOKですが、私は茶こしタイプのほうが乳化しやすいと感じました)。とにかくカシャカシャカシャカシャと手早く攪拌!
7.タラの白身のほうを下にして鍋に戻し、全体に熱を入れてソースと絡める
8.タラ、ソース、ニンニク、鷹の爪の順にお皿に盛り付けて、出来上がり♪
<実食>
まず見た目。乳化が成功し、トロリとした質感と黄色く色づいたオリーブオイルのソースは、うまく盛り付けられればまるでフレンチのような映えの一皿を演出。そして鼻先をくすぐるニンニクの香りに食欲をそそられます。
タラの身をソースに絡め、いざ口へと運ぶと......、
「おお! 調味料は使ってないけど、しっかり塩味! そして、びっくり! 正直、現地で食べたものより好きかも!?」
というのも、現地のものはソースがニュルニュルしすぎて、粘度がトゥーマッチに感じていたんです。その点、今回は日本で揃えた素材だからか油の量なのか、タラの身がプリっとしまって美味しいし、ソースもちょうど良いトロトロ感! 見栄えも良いし、これは定番料理にしたいかも!
乳化は難しそうって思ってたけど意外と簡単だったし、材料も少なく手順もシンプル! なのに、すごい料理できる人みたく見えるから、おもてなしでドヤりたい人必見の料理(笑)。
実は今回の撮影で、ピルピルを作ったのは3回目(練習したからね!)。初回はビギナーズラックか、とてもきれいに作れて、先日、予約の取れないビストロでシェフに画像を見せたら、「飲食関係の方ですか!?」と言われ、「新たな才能が開花した!?」なんて、ブタもおだてりゃ木に登る状態でしたブー!
でも、2回目の時は、タラの皮が少なくゼラチン質が足りなかったのか、乳化失敗。ただオリーブオイルをかけたような見た目に。さらに、タラを買った切り身のまま盛り付けたせいか、まるで西京焼きでした。
なので、コツとしては「盛り付けのための魚の身の切り方」と、「乳化」はタラのゼラチン質がキモになるので、皮目部分の多そうな素材を選ぶのが大切かも。
サン・セバスチャンのバル街も今や閑散としているかと思うと寂しいけれど、またいつか賑わいを取り戻してほしいと思います。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第293回「おうちで世界飯。ウズベキスタン男の振る舞い飯『プロフ』は"にんじん油飯"?」
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】