ソ連も帝国もどっちも怖い ソ連も帝国もどっちも怖い
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、数奇な運命をたどったレーニン像について語る。

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前、南極に置き去りにされたウラジーミル・レーニン像の現状について語りましたが、さらに数奇な運命をたどったレーニン像がありました。

場所は、ウクライナ南部の黒海沿岸にある港町。ソ連崩壊後も、ウクライナにはたくさんのソ連遺産が残っていましたが、2015年の脱共産主義法によってモニュメントの撤去や、ソ連にちなんだ地名の変更が決定されました。

その対象のひとつが、今回紹介するレーニン像。撤去の発表を受け、アレクサンダー・ミロフというアーティストがレーニンの変身を提案。結果、ソビエトの革命家で社会主義の象徴レーニンが、資本主義ワンダーランドのハリウッドを代表する悪役、ダース・ベイダーに生まれ変わりました。

レーニンの力強く握られた拳には無理やりライトセーバーがハメられ、かっちりしたロングコートはベイダーの黒いマントでカバー。レーニンの威厳あふれる顔にはあのアイコニックなヘルメットがかぶせられ、黒海のダークサイドが誕生しました。元のレーニンはまったくいじらずにチタンのベイダースーツを着せているので、いわばボルシェビキがスター・ウォーズのコスプレをした格好で、素レーニンに戻すことも可能だそうです。

コミュニストの代表が、キャピタリストが考えた架空のファシストになるなんて、現代思想の渋滞のような作品。ダークサイド、ならぬ、レッドサイド! ブレジネフ、私がおまえの父だ! あはは。

おまけに、ヘルメットの中にはWi-Fi発信器が内蔵されており、像そのものが無料Wi-Fiスポットになっています。謎な実用性に脱帽ですが、無償で民にWi-Fiを提供できるのはレーニンにとっては本望なのかしゃくなのか、考えれば考えるほど結論が遠のきました。

さらに妄想すると、この"ダース・レーニン像"を未来の文明や異星人が見つけたときの混乱もツボです。世紀末後のがれきからこれを見つけ、①「ダース・ベイダー」という人物が実在した②その正体はレーニンだった③ジョージ・ルーカスはドキュメンタリー監督だった、と結論。異星人がスター・ウォーズという作品にたどり着けなかった場合は、①ウクライナという国のリーダーはめちゃくちゃ厚着だった、とだけ。

実際、われわれも古代文明の断片的な遺物から大きな物語を推測していますし、ゼウスやプロメテウスなどのギリシャ神話の石像が最初に発見された際は実在した人たちのモニュメントだと思われたといわれてますし......。

ちなみに、ウクライナにはダース・アレクセーヴィチ・ベイダーという政治活動家がいて、ダース・ベイダーに扮(ふん)して14年の大統領選に挑もうとしましたが、ヘルメットを脱がなかったため拒否されたそうです。本名はヴィクトル・オレクシーオヴィチ・シェウチェンコというそうですが、本人は別人だと主張しています。この情報が未来の文明に伝わってさらに混乱してほしいので、拡散希望です。

ほかにも、ウクライナでは脱共産主義法の下、「レーニン通り」がジョン・レノンにちなんだ「レノン通り」に変更されるなど、嘘のような決定が実行されたので、いつか検証の旅に出たいです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ソ連関連のネタが続いていて不安になっている。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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