2021年は三木道三の『Lifetime Respect』が発売されてから、ちょうど20年の節目だった。同作は日本のレゲエ史上、初めてオリコン1位を獲得。日本にレゲエが浸透したきっかけとなった歴史的作品だ。

しかし、当の三木道三は『Lifetime Respect』発売の翌年に突如引退。2014年にDOZAN11の名前で復帰するまで、ほとんど表舞台には姿を現さず、一時は死亡説も流れたほどだったが、何もしていなかったわけではない。

前編で、大ヒットした『Lifetime Respect』について、空白どころか濃密すぎた引退期間についてなど明かしたDOZAN11。前編記事に引き続き、この後編では、復帰までの道のりから、昨今レゲエ界で広まっている配信アプリ「Pococha」での活動についてなど、この20年を振り返った。

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――2014年に活動を再開されて。復帰作になったアルバム『Japan be Irie!!』では、どんなことを歌いたかったんですか?

DOZAN11 ダンスホールレゲエは、簡単に言うとアメリカではヒップホップで、レゲエはソウルやゴスペルに例えられると思っているんです。ジャマイカの宗教音楽の要素もあるレゲエを自分がやるのに、自分なりの解釈が進んだので、神道や仏教がテーマの歌など、レゲエのスタイルで日本のことを歌いました。

レゲエを素晴らしいなと思ったところのひとつが、自分たちを誇ることだったんです。そこに憧れたというより、共感したんですよね。ブラジルでサンバを好きになったのも、同じような感覚でした。「ブラジルばんざーい!」と歌っています。それを聞いて「そうだな、最高だな」ってなったんですよね。

――それで日本のことを最高だなと歌いたかった?

DOZAN11 そうなんですけど、僕は何か日本の伝統文化を背負って生きてきたわけではない。そこでもっとよい姿勢はないかなと探していたところ、出身地である奈良県に「若宮おん祭」というものがあることを知ったんです。年に1回、若宮さんを地上にお迎えして、24時間、芸能を奉納して、またお帰りになってもらうんですけど、900年くらい一度も途切れずにやっている。こんな神秘的な儀式が我が国にあったのかって、シビれたわけですよ。

いわゆる和風のものではなく、異国のエキゾチックな衣装で、見たことないような舞もある。それは長い歴史の間に、敦煌とか中国奥地の芸能もはるばる渡ってきて、奉納されるようになったからなんです。そのなかには、すでになくなった国の芸能もあるから、「おん祭」では見られるけど現地では見られないものもあって。つまり、日本が文化の保存箱になっているんですよね。一回も国が消滅していないから。

それで、我々がジャマイカから持ってきたレゲエを日本の神様に奉納しようと、「かしこみかしこみ」という歌を作って、最初のバンドのライブを伊勢神宮の外宮の奉納舞台で演奏させていただきました。そういうことが復帰してからの音楽活動のモチベーションでしたね。


――そこから2019年に『新しい未来』を発表するまで、5年かかっていますけど、その間は何をしていたんですか?

DOZAN11 いろんな人の曲にフィーチャリングで参加したり、普通に活動してましたよ。みなさんの触れている音楽ジャンルと違うから、何もしてないように見えますけど、我々は我々のエコシステムのなかで成立させてますから、間が空いたというわけではないです。

ただ、自分名義の作品というのは、1曲1曲迷いながら作るようにはなりましたから、ペースは遅くなりました。やっぱり大人になると、どんどん心が無口になってくるじゃないですか。「こうやないかい!」って思うものの、「いや、いろいろ事情はあるし」みたいな(笑)。

――そっちの立場もわかるしみたいな。

DOZAN11 そうそう。だから昔に比べて、すごく慎重になりました。あとやっぱり、体力が落ちてくると、歌詞を仕上げきるというのも、昔ほど集中力が保てなくなるんです。先ほど申し上げたように、思いついたものを書きなぐって作るわけじゃないんですよ。あるべき形が見えてから、頭の図書館にずっと検索をかけなきゃいけない。ライミングなので、音が揃った言葉で、自分の気持ちが表現できるところまで考えなきゃいけないので、この検索エンジンをずっとまわさなきゃいけない。疲れるんですよ。

■「ウケる≠売れる」先輩の言葉で理解した"レゲエの真髄"

――それでも音楽を続けるモチベーションは、やっぱり音楽が好きだからなんですか?

DOZAN11 そうですね。音楽はとても好きです。ライブも最高だと思っています。夢中になったらブラジルに行っちゃうし、トリニダードに行っちゃうし、バイーアまで行っちゃうし。ほかにもアルゼンチンやメキシコにも行ったし。音楽自体も大好きなので、それ自体もモチベーションになるし、自分も素晴らしい音楽人になりたいなという気持ちは強くあります。ポジティブなメッセージを発したいし、ポジティブな存在になりたい気持ちも強くあります。

ただ、先輩に昔、「自分の発したいメッセージを歌にできたら、それでいいんです」みたいなことを言ったら、即答で「いや、ウケなきゃダメだぞ」って言われたんですよ。それは自分のなかで扉がパンと開いた瞬間で。「ウケなきゃダメ」っていうのは、「売れなきゃダメ」とは違うんですけどね。

――その違いというのは?

DOZAN11 ジャマイカのレゲエDJは、ドカーンとウケる瞬間を作るんです。漫才みたいに歌詞でウケる場合もあれば、リズムでグルーヴを生み出すことであったり、クラッシュというMCバトルみたいな勝負で勝った瞬間であったり。そういうウケるものを求められる芸能の側面も強いんです。

だから『Lifetime Respect』とか、「かしこみかしこみ」とかでは、そういう要素は感じてもらえないかもしれないですけど、昔は毎回どっかんどっかんウケるライブをしていたんですよ。時事ネタを取り入れて、オチの部分でダジャレになっていたとか、自分の歌を毎回歌詞を変えて歌ったりしていました。たとえば、O-157が流行ったときは、「かいわれ食わんかい、ワレ」みたいな(笑)。あと、こういう(首を前後に振る)動きのビート音楽じゃないですか。

――はい(と頷く)。

DOZAN11 いま、納得して縦に首を振ったでしょ。ノってるところに納得が加わると、同じ動きの相乗効果でうおおおーってなるんですよ。

――なるほど!

DOZAN11 これがレゲエのウケさせる真髄なんだと思って。ビートに乗っているところで、歌詞の内容で納得させる。それで、うおおおおーってなる。

■ファンとのコミュニケーションを増やした理由

――身を持って理解しました。今後の活動についてもお聞きしたいんですけど、最近はPocochaでも積極的に配信されていますよね。始めたきっかけは、なんだったんですか?

DOZAN11 きっかけはコロナ禍と、更に同時期に発症したコリン性蕁麻疹です。

――また新しい病気が出てきましたね......。

DOZAN11 コリン性蕁麻疹は暖かさを感じると、体がピリピリ痛くなるんです。ヒドいときは蜂の大群に襲われたような感じで、去年の春は外に出られなかったんですよ。また引退もよぎったけど、オンラインでできることをやろうと思って、いろんな配信サービスを試したんです。そのなかでPocochaに出会ったんですよね。

歌手は若いときにファンをつくり、その人たちに支えてもらいながら一緒に歳を重ねていくのが王道ですから、少人数で成り立ち、かつマネタイズの早い投げ銭アプリはピッタリだと感じて、力を入れてやってみました。

――実際やってみてどうでしたか?

DOZAN11 すでにファンがいる人にとっては、とても早くて楽しいマネタイズだと思いますね。最初は自分も投げ銭アプリに対して偏見があったけど、これも1つのビジネスモデルだし、みんなでいろんなものをシェアできるシーンが作れるんじゃないかと思ったんです。それで、コロナ禍でライブが消滅していた仲間や後輩にもどんどん薦めました。

最初はパフォーマンスアプリだと思っていたんですけど、Pocochaはコミュニケーションアプリと謳っているんですよ。そもそも配信者も、我々のようなアーティストではない人たちのほうが圧倒的に多くて。たとえばママさんとか、一般の方なんですよね。

そこで何をしているかと言ったら、話し相手になってるだけだったりするんですよね。それで十分価値を感じる視聴者がいっぱいいる。みんなコミュニケーションに飢えてるんですよ。なので、僕も歌ったり自分で作った音楽をかけたりするときもありますけど、ただ単に雑談しているときもけっこうあります。

――形が変わったファンクラブのようなものですか?

DOZAN11 ファンクラブよりは、もっとパフォーマンス的な労力は使いますね。すごく時間も取られますし。Pocochaはリアルタイムの投げ銭なので、心が動いたら指が動く。話し相手というのも含めて、パフォーマンスに対しての対価を払っている。小さい劇場に近いものだと思っています。

■レゲエミュージシャンに新たな道を開拓

――そういうチャレンジは、病気でオンラインでしか活動できなかったこともありつつ、新しいものを試したい気持ちも強かったんですか?

DOZAN11 めちゃくちゃありますね。ダンスホールレゲエ自体が、世界でも日本でも、とても新しいことでした。そのときの常識を裏切った形の音楽スタイルだったので、これはおもしろい、新しいというのはありました。僕のやる気が起こらなくなっていったのは、ジャマイカのダンスホールレゲエ自体に、刷新がなくなっていったからということも理由のひとつだったので。新しいものが好きだけど、いまから自分がやろうとしているものが、新しいものではなくなっていった。

僕は新しいうえに、人類の次のステップだと思えるもの、みんなが幸せになるために有意義なものが好きなんです。この投げ銭アプリ、それとライブコマースは、これから世界中で来ると思うので、そういう未来へのツールを自分なりに使ってみたいっていうのはあります。

――他のレゲエミュージシャンにPocochaを薦めたという話も、まずは自分が試して、道筋を作りたかったのかなとも思いました。

DOZAN11 それはあります。いままでもデビュー以来、何回か扉を開ける作業をしてきたと自分では思っていて。そのタイミングがまた来たと思って、ばーっとやってみたというのはあります。

いま日本のレゲエ界は、アーティストもファンの人たちも、高齢化してきているんです。お客さんも子育てがあったり、体が悪くなってきたり、友達とバラバラになったりして、フェスやクラブに行きにくくなってきた。アーティストたちも年令を重ねて、若い人たちにバズるヒット曲が出なくなってくる。これはどんなジャンルの人でも長くやってると同じだと思いますけど。

そのなかでファンビジネスを続けていくために、この投げ銭アプリというモデルは向いていると思います。だから、「俺もそういう局面なんだ」と思って、まず自分がやってみて、みんなにも紹介していったら、またみんなで楽しく活動していけるんじゃないのかなって。

――その流れでMINMIさんともコラボして。

DOZAN11 MINMIも僕がPocochaを紹介したアーティストの1人です。彼女が配信中に作っていた曲がすごく良くて、それに乗っかる形で参加して、さらにPocochaのアイテムが投げたくなるような歌にしていきました。

それからPocochaから飛び出したヒット曲を狙おうと、他のライバーさんに参加してもらうMVを作って、その製作費とプロモーション費用をクラウドファンディングで募った結果、300万円集まりました。これは当座のお金を用意したという意味合いよりも、こういうことができるっていう可能性を示したくてやったんです。投げ銭アプリの弱点は外への広がりなので、その広がりを作るためのプロジェクトでもありました。

――ただの投げ銭じゃなくて、その先の可能性を開いたわけですね。

DOZAN11 まぁまぁ、そんな。かっこよさげに話して恥ずかしくなっちゃいましたけど(笑)。

――ちなみに配信で「道三ニキ」と呼ばれているのを見かけたんですけど、若い世代とはどういう距離感でいたいと思っていますか?

DOZAN11 先日、珍しくYouTube Liveをしてみたら、5ちゃんねるから大量に視聴者さんたちが流入してきたことがあって、そのときにその言葉を知りました。「ネットユーザー」と言うのは、ヘタしたら「テレビの視聴者」「マンガの読者」以上に広い定義だと思うので、若い世代かどうかも分からないし、どういう人たち、というのは定義できないですよね。いまはネットとプライベートの境目がどんどん混ざり合っているので、なるべくどんな場面でも、謙虚で人に優しくしていたいな、とは思っています。

――「Nippon!!」とか日本を誇る曲も、「大仕事」とかモチベーションを高める曲も、いまの若い子たちに響くんじゃないかなと思うんです。

DOZAN11 聴いてくれたらうれしいですが、そういえば若い人にアピールしていきたい、って動きは我ながらあまりしていないですね。そして、よく「若い人に」って言うけど、人生100年時代で本当にモチベーションがいるのは、40歳前後以上だと思うんです。IT化やロボット化で仕事の環境も変わってくるし、新しい世界に突っ込んでいくのは40代も20代も一緒で、「教えてください」って、どこにでも突っ込んでいけない分、40代以上の人のハードルは上がっていると思うんです。そういう人たちにも僕の動きを見てほしい気持ちはあります。それに40代以上の人が聞けば、おのずと後輩やお子さんの耳にも入ったりますしね。

■DOZAN11が今も歌を作るワケ

――この先の目標を聞かせていただけますか?

DOZAN11 社会が新しくなっていく、よくなっていくのを見たいんですよね。それに関与できるなら、自分なりに関与したいなと思います。でも、そういう組織づくりとか社会活動とかにアクセスしてきたわけではないので、まずは歌を作るところからですが。

――それこそ『新しい未来』で歌っていることですよね。

DOZAN11 はい。だからとりあえず歌を作りました(笑)。

――そういう新しいものを見たい気持ちと、自分ができることとを大事にしてやっていく。

DOZAN11 そうですね。たとえばマイケル・ジャクソンとか、ジョン・レノンとか、社会的なメッセージを強く発して、非業の死というか、早死にしましたよね。ボブ・マーレーにしてもそう。歌手の頂点、これの行く末って、すごく悲しいなって、かなり絶望的な気持ちになったんですよね。

だけど、やっぱり我々の心で生きていて、世界のマインドのトレンドには、大きな影響を与えていると思うんです。だから、歌を作るだけでも大仕事だとは思っています。それでもう満足していいとも僕は思っています。ただ、何か自分にできる役割をいただけるのであれば、是非やらせてくださいという気持ちはあります。

――今後レゲエ界を盛り上げるためにという視点では、何か考えられていることはありますか?

DOZAN11 スターがいればいい、スターになればいいというものではないと思ってます。日本でも世界でもスターが幸せに歳をとっていくのは相当難しいことだと思います。レゲエ界のことなんて小さなことでしょうけど、いままでできた仲間や後輩たちが、才能に見合った活躍ができて、人柄に見合った幸せな暮らしができるようでいればいいな、と思います。

そこに向かっていくのは、基本的には歌を歌ったり、プロデュースしたり、イベントを開催したりするのみなんですが、ジャンルの最年長級なので、その他でもなるべくインスパイアやモデルになる動きができたらいいな、と思います。

――『Lifetime Respect』が今でも愛されていることについて、どんな気持ちですか?

DOZAN11 ありがたいし、人様の人生の一部になれていることを光栄に思います。

――ご自身の人生において『Lifetime Respect』はどんな曲ですか?

DOZAN11 僕自身を日本の多くのみなさんに知ってもらうきっかけを作ってくれた曲ですね。