線路の幅が762㎜しかない四日市あすなろう鉄道にて 線路の幅が762㎜しかない四日市あすなろう鉄道にて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、前回に引き続き鉄道開業150年記念! 鉄道史で見落としがちな「線路の幅」について語る。

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日本の鉄道開業150年記念、その2! ディズニーファンを鉄道好きにしようとした前回の記事は強引だったのか、いまいち手応えがなかったので、今回は正統派の鉄道話で布教活動します。

日本の鉄道史に深く関わってきたものの、見落としがちな要素のひとつに線路の幅(軌間)があります。ホームから見てもわからないけど、日本の軌間は全部同じではなく、4種類。最も多く採用されているのは1067㎜の幅で、JRの在来線や多くの私鉄で見られます。

次に多いのは、新幹線とJR田沢湖線、奥羽本線の一部や、京成、京急、東京メトロ銀座線・丸ノ内線、京阪、阪急、阪神、近鉄の幹線・湯の山線、西鉄の天神大牟田(てんじんおおむた)線などが採用している1435㎜。その次は、井の頭線を除く京王電鉄や都電荒川線、東急世田谷線などの1372㎜。一番狭い762㎜を現在採用しているのは、三岐(さんぎ)鉄道北勢線や四日市あすなろう鉄道、黒部峡谷鉄道の3社4路線(かつては300路線の軽便(けいべん)鉄道がありました)。

さて、ここでクエスチョン。日本にある4つの中から「標準軌」と呼ばれるのは、どの幅でしょう。一番多く採用されている1067㎜を選んだあなた、スーパーヒトシ君没収です。正解は1435㎜。中途半端な数字と普及率のように思えますが、鉄道発祥の地・イギリスの基準に由来しており、現在も世界の鉄道の約6割がこの標準軌を採用しています。

じゃあ、なぜ日本は違うのか。明治初期、鉄道敷設のためにエドモンド・モレル率いるイギリス人鉄道技師団が招聘(しょうへい)されました。このときモレルがなぜ本国の標準軌を勧めなかったのかというと、日本の地理をしっかり考えたからといわれています。狭い軌間のほうが、山地が多い日本でも早く安く建設できる上、勾配や急カーブに適している。イギリスからの鉄の輸入が減る=本国の収益が減るにもかかわらず、この提案をしたモレル氏、素晴らしいです。

さらに日本の鉄道の発展を見据え、イギリスからの鉄製の枕木の輸入もキャンセルし、日本が自国で作れる木の枕木を提案。ちなみにモレルさんは来日中に肺結核が悪化し、日本の鉄道開業の前年に亡くなってしまいました。桜木町駅の複合ビル内にある「旧横ギャラリー」に記念碑がありますのでぜひ。

さて、1067㎜で普及した日本の鉄道ですが、「高速化を果たすにはもっと安定する大きな車体が必要だ」「線路の幅を標準軌にしよう」という声が上がります。やがて阪急、阪神をはじめ、ライバル関係にあった関西の私鉄、そして東海道新幹線が1435㎜を採用。一方、京王や都電は馬車鉄道から引き継いだ1372㎜を採用。さらに地方では低コストで建設できる762㎜が採用されたりと、線路の幅ひとつで現代日本の歩みがうかがえます。

近年は、他路線の直通運転も軌間に関係します。都営新宿線は、京王線と乗り入れられるよう1372㎜を。同じく都営浅草線は京急との直通運転を想定して標準軌を採用。ちなみに東急目黒線、メトロ南北線に乗り入れている都営三田線は1067㎜。同じ幅のほうが整備などは楽なのに、他社との直通を優先する都営の悲哀、たまりません。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。日本に数ヵ所ある、異なる線路の幅の車両に対応できるデュアルゲージもオススメ。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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