ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

仕事の資料で必要なものがあり、現在の住まいの隣駅である西武池袋線、大泉学園駅が最寄りの実家へ行った。

家までは歩いても30分くらいだろうか。ちょうどいい散歩になるし、ぷらぷらと歩いて帰るかと、歩みだしたところで気づく。今が午後の2時すぎ。そういえば今日はまだ昼メシを食べていないなと。

で、さらに思い出す。帰り道からはほんのちょっと逸れるけど、駅からそう近いわけでもない街道沿いに一軒、ぽつんと気になる町中華があったんだよな。自分が子供のころからあったのかどうか、記憶は定かではないけど、けっこう古そうで、なんともいい佇まいの。前から行ってみたいと思ってたんだけど、今日が絶好の機会かもしれない。と、向かってみることにした。

「明華」 「明華」

この「明華」という店がそれ。ふたりがけのテーブルがふたつある他は、5、6人も座れば満席になってしまいそうなカウンター席があるだけの小さな店だ。が、店内はとてもきれいで、そう遠くない昔に改装されたのかもしれない。加えて、厨房のなかが、天井に近いレンジフードにいたるまでピカピカだ。はい、いい店確定~。

というわけでいったんビールの大瓶を頼み、じっくりとメニューを検討していこう。

「ビール 大瓶」(580円) 「ビール 大瓶」(580円)
するとサービスの小鉢が、たっぷりのひじき煮だった。よく味の染みた細切りの油揚げもいいし、数粒のったむき枝豆がまた泣ける。それにグラスがサーモスの真空保冷タンブラーというのもおもしろい。僕と同世代くらいに見えるご主人は、2代目か3代目だったりするのだろうか。とにかくすでに、酒飲みに対するホスピタリティの素晴らしさが随所に感じられ、また実家に帰った際はぜひともまたここに寄りたいと思わされはじめている。

ほっと安心するひじき煮をつまみに、ごくっごくっとビールを。なんだって、町中華で飲むビールはいつもこんなに幸せなんだろうか......。

安定感のある漫画ラインナップのなかに「ワカコ酒」。ご主人、やっぱり好きだな...... 安定感のある漫画ラインナップのなかに「ワカコ酒」。ご主人、やっぱり好きだな......
おっと、そういえばまだメインを決めてなかったな。ラーメン類はもちろんどれも惹かれるし、「カレーライス」「カツカレーライス」「ドライカレー」のカレー3兄弟もいい。が、それ以上に気になったメニューがある。どんぶりの部の「中華丼」「天津丼」に続いて並ぶ「香港丼」なる一品!

「香港丼」!? 「香港丼」!?
香港丼あったっけ? そんなメニュー、中華料理に。いや~、自分の記憶にある限りは初めて聞いたはず。が、ここでネット検索なんてして、それらしきものがヒットしてしまったらそんなにつまらないことはない。気になるし、自分の目で確かめたい! 謎の香港丼の実態を!

もはや頼まないわけにいくわけもなく、香港丼を注文した。

すぐに厨房からは、なにかを揚げているようなジャーッ! という景気のいい音がしはじめ、続けておたまで中華鍋を叩くカンカンカン! という音もしはじめ、さらにけっこうな時間を経たのち、僕の前に、ついに香港丼は到着したのだった。


「香港丼」(780円) 「香港丼」(780円)
へ~......なんだろうこれは。知っている料理のなかでは「チンジャオロース」に近いだろうか。が、僕が人生で食べてきたどのチンジャオロースよりも、肉が太い気がする。チンジャオロースは漢字では「青椒肉絲」と書き、その最後のひと文字「絲」には「細切り」という意味があるのだそうだ。となるとこの香港丼は、正確に表記すると「青椒肉太」、ということになるのだろうか。まぁ、そんな御託はどうでもよくて、とにかくめちゃくちゃうまそうなことに変わりはない。よし、食おう!

青椒肉太丼こと香港丼 青椒肉太丼こと香港丼
付属の鉄製スプーンでがさっとすくい、大口でほおばる。具材は豚肉の他、にんじん、ピーマン、玉ねぎ、たけのこで、それぞれの食感の違いが味わいの楽しさを生んでいる。そして豚肉だ。太めの細切りにした豚肉を、片栗粉かなんかをまぶして揚げ焼き風に調理したのだろうか。むちむちと食べごたえがあり、噛めば噛むほど豚の旨味が広がる。こりゃあ豚好きの僕にとっては最高の料理だな!

また、味つけもちょっと独特で、見た目どおりの甘辛ベースではあるんだけど、酢豚ほどではないにせよ、ほんのりと酸味があって、そしてさらには、コショウがかなりしっかりと効いている。

ごはんはそこまで多くなくて、その上にごはんの倍以上の量があるんじゃないかっていう具がのっている。外食でごはんを少なめにしてもらうことの多い少食の酒飲みとしてはそれが嬉しいし、しかもその味つけのおかげで、最後までもたれることなくさっぱりと食べられる。

うまいうまい  うまいうまい
途中、試しにと思って、卓上のラー油や唐辛子、さらにお酢などもちょこちょことかけて味変を試みてみたんだけど、この香港丼に関しては、オリジナルの味が至上だと感じた。そのくらい、高度なバランスで成り立っている料理なのだ。

食べても食べても豚肉の天国! 食べても食べても豚肉の天国!
帰り際、香港丼の名前の由来を聞いてみようと思っていたら、常連さんんらしき男性がひとり来店され、ご主人はその調理で忙しそうになってしまった。

まぁ、たまに行く実家の近くでもあるし、その謎は次回までのお楽しみにしておくか。絶対にまた食べたいしな、香港丼。

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