『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、前回に引き続き「マクドナルドのキャラクターたち」について語る。
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前回から、いつの間にか消えたマクドナルドのキャラクターたちの世界を掘り下げています。かつてCMなどで目にしたロナルド(日本の表記はドナルド)とその仲間たちは、広告戦略の変更や健康意識の変化で、気づいたらしれーっと姿を消していました。そこで、アメリカで昔放送されたアニメシリーズを追ってみたら、数々の意外な設定を見つけました。
前回も触れた紫色のあいつ、グリマス。初期設定ではマクドナルドランドからマックシェイクを強奪する悪党で、なんとフルネームはEvil Grimace=邪悪なグリマス。ある時期を境に更生し、シェイクをただ飲みまくる愉快な紫のやつに生まれ変わりましたが、マックランドはほかにも悪者であふれてました。
その代表格は、白黒のシマシマ模様の服と仮面を身に着けた丸顔の男、ハンバーグラー。ハンバーガーと「burglar(泥棒)」の造語を名前に持つ彼は、その名のとおりハンバーガー泥棒。みんなからバーガーをかっさらうたびに捕まりますが、懲りずに何度も何度も悪事を繰り返します。調べると、ハンバーグラーの真人間への道のりはかなり長いようでした。
そもそも登場した当初は、魔女鼻×歯2本×ガリガリシワシワの不気味なおじいさん。その後、ローンジョガー(孤高のジョギング男)というストイックで健康的(?)な趣味をにおわせる異名を名乗る時期などを経て、80年代にあのおなじみのかわいらしい丸顔に。ジョギングもやめたようで、日々の行ないはおそらく盗み一本に。私が子供の頃には、盗みから足を洗ってロナルドと仲良くなっていましたが、名前と見た目のせいでずっと悪者だと決めつけてました。
彼は2000年代初頭にフェードアウトしましたが、2015年にその消息がつかめました。実写版ハンバーグラーが登場するキャンペーンで、アメリカの郊外に住んでいることが判明。ごく普通のお父さんとして暮らす傍ら、夜な夜なあのボーダーの服と仮面を身に着けて、再びバーガー盗みに手を染めてました。懲りない男ハンバーグラー、恐るべし。ちなみにこのキャンペーンはさほどバズらず、すぐ終わったそうです。
ほかには、キャプテンクルック(ペテン師船長)というストレートすぎる名前の悪党もいました。彼はフィレオフィッシュ専門の泥棒で、80年代にはフェードアウト(収監?)。モップみたいな見た目のフライキッズも、もともとゴブリンというポテトフライ強盗集団だったようで、とにかく泥棒の多さと専門性が目立つ世界でした。
ちなみに彼らを取り締まるのはビッグマックポリス。頭がビッグマックでできた安全と秩序の味方で、高カロリーで警棒を持つアンパンマンみたいな存在です。彼も80年代末にはフェードアウトしたので私にはなじみがないですが、「ビッグマックポリスの牢獄(ろうごく)」というシュールな遊具がショッピングセンターにあったことを覚えています。
カラフルな牢獄に入るだけのシンプルかつハードボイルドな遊具を前に、子供ながらに「なんでこんなものが!?」と思いましたが、マックランドの治安の悪さを知り、やっとその意味が理解できました。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。気づいたら消えてた『ドラゴンボール』のランチさんも気になる。公式Instagram【@sayaichikawa.official】