野島慎一郎のじま・しんいちろう
ライター、マンガ家、B級フード研究家。独創的な料理を続々と開発している。著書『世界一美味しい「どん二郎」の作り方』(宝島社)。YouTube『のじまちゃんねる』
今年、人気チェーン店のフードにカエルが混入する事件が発生。しかし、海外でカエルは人気食材で、ちゃんと調理すれば激ウマ確定の逸品。
そこで野食ハンター茸本 朗(たけもと・あきら)がバカレシピ研究所に殴り込み! 絶品カエル入りうどんだけでなく、身近な野草や生き物を使った簡単バカレシピまで大紹介ですッ!!
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「カエル入りのうどんをバカレシピで作りたいんですよね」
都内某所で開催された野島慎一郎と茸本 朗のトークライブ中、野島が唐突にそう漏らした。もちろん、これは今年発生した○亀製麺のテイクアウト用うどんや、サイ○リヤのサラダにカエルが混入していた事件のパロディ企画だ。
笑いに包まれる会場。しかし、野島は「Amazonでカエル肉を買えるんですよ」と大真面目に続ける。すると茸本も「カエル肉は新鮮だと本当に絶品なんですが、通販だと冷凍なんで鮮度が落ちてしまう」と反応。茸本も大真面目だ。
それならば野食ハンター茸本の力を借りてカエル肉を本当においしい状態で調達してもらい、最高に激ウマなカエル入りうどんを作ろうじゃないか。野食×バカレシピの壮大なロケ企画が突如として走り始めた。
茸本がターゲットに絞ったのはもともと食用として輸入された歴史を持つウシガエル。だが現在は特定外来生物に指定され、生態系に悪影響を及ぼすとされている。
「例の事件で混入していたのはアマガエルでしたが、アマガエルは皮膚から毒を分泌するので普通に危険。しかも毒を取り除いたとしても可食部が少なく、見た目にもインパクトがありません。特定外来生物のウシガエルなら駆除の必要性もありますし、味もいい。可食部の多さも申し分ありません」(茸本)
ウシガエルは全国の流れの緩やかな河川や池沼(ちしょう)などに生息する。9月某日深夜。多摩川沿いの水辺へと向かう茸本と野島。しかし猛暑の影響だろうか。一帯には2~3mクラスの雑草が生い茂り、行く手を阻んでいた。
「雑草の向こうにヤツがいるはずなんですが、これじゃアプローチできない!」(茸本)
「茸本さん、この野草も全部食っちゃってください!」(野島)
そんな冗談も笑っていられないほど絶望的な状況に、多摩川沿いでのハントを断念。車を約1時間走らせ、神奈川県の相模川沿いへと移動した。
「むう、ここも雑草がエグいことになってますね。ビッグモーターに電話して除草剤を撒(ま)いてもらうしか......」(野島)
「ビッグモーターは絶対除草業者にジョブチェンジしたほうがいいですよね」(茸本)
移動してもなお厳しいコンディション。しかしさらに場所を移動することは避けたい。必死に沼へとアプローチするルートを探す茸本。すると、過去に沼まで進んだ人の跡だろうか、雑草が倒された細い道を発見した。
「ここから行けそうです。足場が悪いんで気をつけて」と、茸本は網と釣り竿を手に雑草をかき分けて進む。必死についていく野島。しばらく進むと、暗闇の中に小さな沼が現れた。
「あそこにいますね。ウシガエルです!」
茸本はすぐさま沼の水面に顔を出して呼吸するウシガエルを発見。距離にして5mは離れていただろうか。さすが、野食ハンターのすさまじい嗅覚だ。
茸本は早速ハントを試みる。まずは釣り竿に疑似餌をセットし、ウシガエルの〝なんでも捕食する〟本能を刺激するように動かす。食いついたところを一気に釣り上げる作戦だ。
ウシガエルは音に敏感なため、野島は足音を立てないよう固唾(かたず)をのんで見守るのみ。もちろん、うっかり屁もできない。お口にチャック、下のお口にもチャックだ。
「釣れました!」
暗闇に茸本の声が響いた。野島が近寄ると、釣り針には頭から脚の先までで40㎝はありそうな巨大ウシガエルがゆらゆらとぶら下がっていた。まさか一発でウシガエルを仕留めてしまうとは! ハントの成功に安堵(あんど)した瞬間、野島はブーッと祝砲を放った。
特定外来生物のウシガエルは原則として生きた状態で運搬することが禁止されている。逃げてしまったらその場の生態系を乱す恐れがあるからだ。食用とする場合も、捕獲したその場で締めなければならない。
茸本が手際よく締めて皮を剥ぐと、ウシガエルはツヤツヤとしたピンク色のカエル肉へと姿を変えた。特に脚はアスリートのように筋肉質でむっちりしている。カエルがすさまじい跳躍力を持っているのにも納得だ。
「新鮮な状態だとこの脚が絶品なんです。でも、寄生虫がいるので生食は不可。必ず加熱する必要があります」(茸本)
加熱調理をするのなら、うどんとの相性を考えれば天ぷらがベストだろう。しかしせっかくのカエル肉。できる限り生に近い食感で食べたい。そこで今回は日本酒とごま油で酒蒸しにすることとした。
コンロで熱を加えること数分。蒸されたカエルの肉質は見るからにプルプル。ちょっと変な形の鶏むね肉といった風合いだ。
ここからは野島のターン。あらかじめ○亀製麺で購入したシェイクうどんを取り出し、調理済みのカエル肉を入れていく。
「カエル肉との相性を考えて、期間限定の『凍らせレモンのおろしぶっかけうどん』を選びました。レモンと薬味でカエルの生臭さを消せるかなと」(野島)
容器にフタをしてしっかりとシェイク! ドチャッ、ドチャッ、と重低音が相模川河川敷に響き渡る。薬味とつゆが全体に混ざったところで、いざ実食!
月明かりの下でふたりがシェイクうどんをすすり始めると、まず野島が「カエル肉、ウマッ!!」と驚きの声を上げた。
「想像をはるかに超えるウマさですね。かなりプリッと張りのある肉質なのにパサつきは一切なく、かといって脂身もないのに柔らかい。臭みも全然ない。ヘルシーだし、これは可能性の塊なのでは!?」(野島)
新鮮なカエル肉がこれほどまでにウマいとは。続いて、これまでに何度もカエル肉を食してきた茸本もうどんとの相性の良さに感嘆する。
「さっぱり系の味がカエル肉とここまで合うとは思いませんでした。カエル料理大国の中国では麻辣(マーラー)系の味が主流だったりしますしね。うどんの麺とも違和感ゼロです!」(茸本)
過酷なロケに疲れていたふたりは「ウマい、ウマい!」と一瞬のうちにカエル入りうどんを平らげてしまった。野食とB級フードのかけ合わせは見事に大成功。ちゃんと調理したカエル肉ならうどんに混ぜてもまったく問題ないどころか、激ウマ化されることが証明された!
では、ここからは通常のバカレシピっぽい野食ネタも紹介してもらいましょう!
助手 ウシガエルの肉が激ウマとはいえ、素人が捕獲するのは大変なんで、身近な野食のバカレシピも知りたいッス!
茸本 誰でも簡単に捕獲・調理が可能な食材だと、全国に生息するカワエビやアメリカザリガニです。カワエビは網で簡単にすくえます。ザリガニは背ワタを取る必要がありますが、おいしさは申し分ありません。
助手 ウゲーッ、どっちもドブ川と同じ色をしてて、とても食材には思えないッス!
野島 どちらも塩ゆでしてからカップ焼きそばの塩味と混ぜてエビペペロンチーノ風にアレンジしましょうか。
助手 ウハッ、塩ゆでしたら見た目が赤くなって一気にウマそうな〝食材〟になったし、味も完全にエビと一致! 特にカワエビはサクラエビとの違いがまったくわからないッス!
茸本 塩ゆでした後乾燥させれば、本当にサクラエビ同様に使えて重宝しますよ。
助手 そのへんに生えている草とかでちょい足し適性の高いものもあったりするんスか?
茸本 ノビルやカラシナが便利です。どちらも一般的な野草で、河川敷だけでなく道端にも生えていたりします。特にノビルは小ネギの代用に最適!
野島 というわけで、マルちゃん麺づくりに刻んだノビルをガッツリ投入しました。小ネギを使ってこれだけ盛ったら、おそらく300円以上かかると思う!
助手 うおお、これ完全にネギラーメンじゃん! くるまやラーメンとか山岡家みたいに〝ピリ辛ノビル〟にするのもウマそうッスね。これがそのへんで生えてるとか、日本もまだまだ捨てたもんじゃないッスね!
茸本 市場に流通しないだけで、食べられる食材ってそこらへんにいっぱいあるんです。多摩川河川敷なんて食料庫みたいなものですから。このカラシナも多摩川で採れるんですけど、十分レタスの代わりになりますよ。
野島 そしたらこれは〝モスの菜摘〟風にして食べますか。マックのエグチ(エッグチーズバーガー)の中身をカラシナで包んで食べてみましょう。
助手 イテテテッ! なんか舌にトゲみたいのが刺さった気がするんスけど!?
茸本 大きな葉は裏面のトゲがしっかりしてるので、小さめの葉や茎に近い部分を使うといいですね。でもこのピリッとした辛みがおいしいんですよ。
野島 うん、めちゃくちゃウマい! ハンバーガーと合わせるとマスタード的な役割も務めてくれる二刀流。ほぼ無味のレタスよりウマいまであるぞ!
助手 もはや多摩川河川敷はサラダバーじゃん!
野島 河川敷住人たちの立ちションもドレッシング的に作用して激ウマかもわからんね!
助手 汚え! 洗ってから食うに決まってるだろ!
●茸本 朗(たけもと・あきら)
野外で食材を採集して食べる"野食ハンター"として活動。YouTube『野食ハンター茸本朗(たけもとあきら)ch』は登録者28万人超え!
ライター、マンガ家、B級フード研究家。独創的な料理を続々と開発している。著書『世界一美味しい「どん二郎」の作り方』(宝島社)。YouTube『のじまちゃんねる』