ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

地元にある「福しん」の前を通ったら、今年も期間限定「ニラそば」の季節が到来していた。

もうそんな季節か~ もうそんな季節か~

ざっくりと説明すると、リーズナブルな価格と親しみやすい味わいの料理が人気の中華チェーン店、福しんが、毎年冬季限定で提供する名物メニュー。と言いつつ、僕が初めて食べたのは昨年のこと。それまでも何年か前から、友人知人の飲み好きたちが、「今年もニラそば来た!」などと盛り上がっているのを横目で見ては、「へ~そんなにうまいもんなんだ~」などと、他人事のように思っていた。が、そこまでなじみのあるほどでもない店。しばらくはスルーしていたものの、昨年、ついに"一度食べてみたい感"がマックスに達し、ついに初体験を果たしたのだった。

結果はどうだったか? まんまとハマった。その顛末はこの連載「ハマりメシ」第66回に記録されている。おいおいまた同じもんについて書くのかよ。と思われるかもしれないが、慌てないで。今年も僕は、無事、福しんのニラそばを食べた。うまかった。とっても美味しかった。だからこそ、昨年にも増して強まった思いがある。

「この季節が過ぎたら、また1年待たなきゃいけないのか......」 そりゃあ、日本には四季があり、食材には旬がある。あぁ、今年も山菜の季節か、とか、さんまの季節か、とか、初ガツオやら戻りガツオの季節か、とか、1年を通し、食材を通じて季節感を感じられることは酒飲みにとっての喜びだ。けれども、福しんのニラそばはうますぎるうえ、基本通年手に入るニラをはじめ、そこまで季節感の強い食材を使ったメニューではない。レギュラーメニューにしてくれたっていいじゃないか! ......まぁ、だからこそ熱狂的な支持を得、また、登場したときにファンのテンションが上がるのは確かなんだけど。

で、今回はけっきょくなにがしたいのかというと、福しんのニラそばが特別な存在であることは否定しようがない事実として、提供期間外に禁断症状が出たときのため、応急処置的に"ニラそば欲"を満たせるマイレシピを確立しておきたい。それを、つい先日食べたニラそばの記憶が鮮明なうちに考えておこう、と思ったわけだ。

福しんの「ニラそば」 福しんの「ニラそば」

ちなみに福しんのニラそばは、1辛ごとにプラス20円で辛さを増せ、昨年初めて食べたニラそばは、いきなりの「5辛」だった。ところがその記事を読んでくれた複数の友達から「5辛はやりすぎ。あれ、普通でもけっこう辛いよ」などの感想を頂いた。そこで今年は、オーソドックスな味わいを知っておくべく「普通」に挑戦(挑戦?)。確かに、ほんのりとピリ辛でうまかった。けれども辛いものが異常に好きな僕にはほんの少し物足りなく、個人的に2~3辛くらいが、ちょうどいいバランスを味わえるポイントなのかもな、と感じた。

昨年食べた5辛。色がぜんぜん違う 昨年食べた5辛。色がぜんぜん違う

ただ、2年連続で食べてみて、ひとまず福しんのニラそばの主たる特徴は把握できた。

・たっぷりのニラが入っていること
・スープが醤油ではなく、みそ味ベースであること
・坦々麺風と感じるくらい、ごまの主張が強いこと
・「普通」だと辛さはわりとおだやかなこと
・もうひとつの主役とも言える、細切りにしたチャーシューの切れっぱしのような肉がたっぷりと入っていること

当然本家には、僕には計り知れない味のバランスや隠し味があるには違いないが、このあたりをおさえておけば、ひとまず近いものができる気がする。

肉がごろごろ 肉がごろごろ

さて、いざ自宅にて、ニラそばお手軽レシピを作ってみることにする。

まずベースは、スーパーなどでもっとも手に入りやすく、気軽に作れるインスタント麺「サッポロ一番みそラーメン」を採用。そこに、ごま要素として「いりごま」。さらに、福しんのスープにはごまそのものに加え、もっと細かくごま風味が溶け込んでいた気がするんだよな。ただ、ねりごまを使ってしまうと担々麺感が強まりすぎてしまう気がする。そこで「すりごま」だ。加えて、旨味は強いが辛さはそこまででもない「韓国唐辛子」も加えてみよう。すべて僕の想像であり、福しんのニラそばに入っているとは保証できない食材たちだけど。

「サッポロ一番みそラーメン」を 「サッポロ一番みそラーメン」を

これらでアレンジしてみよう これらでアレンジしてみよう
チャーシューは、作って細切りにしてという工程が気軽ではないので、なるべく厚めにカットされ、脂身も多めな豚こま肉を買ってきて、細切りにしたもので代用することに。まずはそれをフライパンにひいた油で炒め、チャーシュー感を出すためにほんのりとだし醤油、チューブにんにくも加える。

また、肉に火が通るまでの間、今回加えるニラ(半束ぶん)を1cmほどの幅にカットしてゆき、根本付近の茎っぽい部分は、この段階で一緒に炒めてしまおう。そのほうが食べやすいだろうし。

炒めものとしてすでにうまそう 炒めものとしてすでにうまそう

肉に火が通ったら、そこに規定量である500mlの水を加えて煮立たせる。続いて、本来ならば麺をゆでてから加える粉末スープであるけれど、今回はスープ自体の味をまず確立させたいので、この時点で投入。そこへ、味加減を見ながら、いりごま、すりごま、韓国唐辛子を加えてゆく。あくまで僕の感覚ではあるけれど、いりごま大さじ1、すりごま大さじ2、韓国唐辛子大さじ1ほどで、かなりいい具合のスープになった気がする。

粉末スープを加えて 粉末スープを加えて

アレンジ調味料も追加 アレンジ調味料も追加
そうしたらそのスープで麺をゆで、器に盛る。もはやこの時点で、"ポロ一みそ"アレンジとして圧倒的にうまそうな仕上がりだ。

間違いない 間違いない

ところが今日の真骨頂はこれから。まだラーメンが熱々なうち、ざく切りにした残りのニラをこれでもかとのせる。食感を残すため、余熱で火を通すというわけだ。最後に白髪ねぎをトッピングすれば、ついに完成。マイオリジナル「サッポロ一番みそニラそば」!

「サッポロ一番みそニラそば」  「サッポロ一番みそニラそば」

インスタントラーメン1人前に対し、半束のニラはちょっと多すぎたかもしれない。どんぶりの上、見渡す限りのニラ。それをまだ熱いスープに沈めつつ、まずはそのスープをひと口。

いただきます  いただきます

おお! なんだろう、あともうひとつ"本家マジック"とでも言うような深みが欲しい気がするものの、それを差し引いてもめっっっちゃくちゃうまい! れんげでひとすくいするごとにずぞぞと口に入ってくる、ザクザクのニラ。たっぷりの豚肉。しゃきっとした白髪ねぎのアクセントも欠かせないことが実感できるし、それらをまとめるピリ辛コク深スープ! もはやこれ、麺がなくても料理として成り立ってる気がするぞ。

とか言いつつ、作ったのはニラそばだ。麺を掘り出し、えいやっとすする。あぁ、これまた素晴らしい。本家福しんともっとも違うのはこの麺かもしれない。中華生麺とは違う、細くてぷりんとしていて、けれども時間の経過とともに"やわみ"も出だす、インスタント特有の麺。ただ、どちらも甲乙つけがたく、こっちはこっち! という感じで、問答無用にうまい。

いいぞ! 家ニラそば いいぞ! 家ニラそば

店であれば1辛ごとに20円プラスされる「辛さ」も、家ならば一味唐辛子で加え放題。しかも、途中から味変できるのが嬉しい。今回、たったひとつだけ改良の余地があるとすれば、ニラの量は半束と言わず、1/4束くらいでもじゅうぶんだったかもしれないくらいか。

とはいえ、すくってもすくってもざくざくのニラがなくならない&食べるほどクセになる味わいで、つい最後までスープを飲み干してしまった。塩分量的に、あまり体に良くないだろうし、このメニューのために「穴あきれんげ」を買うべきなのかもしれないな......。

やっぱり辛いのが合う やっぱり辛いのが合う

思わず飲み干してしまうスープ 思わず飲み干してしまうスープ というわけで、福しんのニラそばに想いを馳せつつ家で食べるにはじゅうぶんすぎる一杯をぞんぶんに堪能。よく考えたら、全国的に見て、家の近所に福しんがないという人のほうが多いだろうし、そもそも"ポロ一みそ"のアレンジとして、圧倒的におすすめできるこのレシピ。個人的にこれからもしばしば作ってしまいそうだし、けっこう本気でおすすめします。

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パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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