福岡うどん(左)と武蔵野うどん(右) 福岡うどん(左)と武蔵野うどん(右)

福岡うどんの名店「資さんうどん」が関東進出で讃岐うどん1強だったうどん勢力図に激震! やわもち麺にごぼう天、甘いだしの福岡うどんと、超極太&ガチガチ麺を肉汁で食す武蔵野うどん。全国ご当地うどんの新興勢力に注目せよ!

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■甘いだしともちもち麺。福岡うどん関東上陸!

日本各地にはさまざまな種類のうどんが存在しているが、圧倒的知名度と人気を誇るのはなんといっても讃岐うどん。だが、その牙城がいよいよ揺らぎ始めるかもしれない。それを予感させるのが、福岡うどんの名店「資さんうどん」のすかいらーく傘下入りと関東進出という大事件だ。

資さんうどん(福岡うどん) 資さんうどん(福岡うどん)

関東1号店となる八千代店には関東一円から福岡うどんを求める人たちが殺到! 長時間待ち必至だが、その味と満足感は唯一無二だ 関東1号店となる八千代店には関東一円から福岡うどんを求める人たちが殺到! 長時間待ち必至だが、その味と満足感は唯一無二だ

昨年12月に関東1号店が千葉県八千代市にオープンすると、福岡うどんになじみのある人が多くない土地のはずなのに平日でも大行列が発生する盛況ぶり。2月には東京・両国にも出店が決まっているそうだが、都心の店舗ならいっそう注目を集めることは間違いないだろう。

記者も1月に入ってから日曜午前に資さんうどん八千代店まで実際に出向いてみたところ、ピーク時には待ち時間が2時間を超える大混雑! 記者は運良く60分程度で入店できたが、途中で諦めて帰る人は少ないようで、待合所は常に熱気にあふれていた。

そして一番人気の肉ごぼ天うどんを食べてみると、やはりインパクト絶大なのは麺の食感。ふわっと柔らかいが、伸びたうどんのようにプツッと切れることはなく、もちもちとした弾力が感じられる。

サバや昆布、シイタケなどから取っただしはやや甘口で、これを麺がたっぷりと吸収しているのもたまらない。食感を楽しむたびに優しい味がジュワッと口の中いっぱいに広がっていくのだ。

また、食べ進めるにつれて牛肉やゴボウの味がだしに溶け込んでいくグラデーションも最高。並盛りでも満腹になれるほどボリュームもあり、これは確かに並んででも食べたくなるような満足度であった。

この福岡うどんの魅力について、ご当地グルメに詳しいライターの宮武和多哉氏はこう語る。

「とにかく麺がだしと具のうまみを吸いやすいんです。特に福岡うどんの三大チェーンのひとつ『釜揚げ牧のうどん』は、食べ進めるごとにだしを吸って膨れるので、横にだしをつぎ足す用のやかんが用意されるほど。

また、ごぼう天は福岡うどんのアイコン的に扱われますが、これもゴボウのうまみがだしに溶け出しやすく、麺の味の変化を感じやすいからなのかもしれません」

釜揚げ牧のうどん(福岡うどん) 釜揚げ牧のうどん(福岡うどん)

確かに資さんうどんのごぼう天は厚みのあるスティック状に揚げられていて、存在感がすさまじかった。このごぼう天も各店舗が個性を出すポイントとなっているようだ。

「東京・高田馬場にも出店している『大地のうどん』のごぼう天は薄くスライスしたゴボウをかき揚げ状にし、見た目も華やか。一方、同じく福岡うどん三大チェーンの『ウエスト』は斜め薄切りにした無難な形です」

福岡うどんを食べる際にはごぼう天のこだわりも意識してみるといいかもしれない。

大地のうどん(福岡うどん) 大地のうどん(福岡うどん)

■福岡うどんブームは全国に拡大するか?

資さんうどんの関東進出をきっかけに、福岡うどんのブームは起こるのだろうか。宮武氏はこう予想する。

「資さんうどんは創業前に讃岐うどんを参考にしたせいか、割と麺にコシがある部類なので、どの地域の人でもすんなり受け入れやすいはず。すかいらーくのノウハウを生かして全国に展開する可能性は高そうです。

個人的に注目しているのはウエスト。実は資さんうどんに先駆けて千葉の一部や東京・町田に進出していて、いっそう〝やわもち〟な麺と甘めのだしを味わえます。ほかのチェーンがさらに全国展開するのは現実味がなさそうですが、新たに福岡うどんのチェーンが誕生するようなことはあるかもしれません」

ウエスト(福岡うどん) ウエスト(福岡うどん)

ご当地以外でも福岡うどんを食べられるようになる流れは加速していきそうだ。

■ゴワゴワ食感の武蔵野うどん

一方、関東圏で勢力を拡大しているご当地うどんが「武蔵野うどん」。東京の多摩地域や埼玉西部で古くから食べられてきた手打ちうどんで、加水率低めのゴワゴワ麺を冷水で締め、豚バラ肉を入れた汁につけて食べる、つけ麺のようなスタイルが一般的だ。

この武蔵野うどんの専門店が東京都心部でもどんどん増殖中なのだが、ゴワゴワ食感をさらに際立たせるためか、超極太でガチガチに硬い麺を採用している店が多い。

麺のコシは強いほどいいと考えるコシ至上主義の人にとってはまさに最強の麺。つけ汁はそんな主張強めの麺に合わせるためなのか、基本的に豚肉のうまみと醤油がガツンとくる濃厚仕立てとなっている。

全体的にガッツリ系で、福岡うどんとはまるで対照的。このパワフルさにハマる人もまた続出しているのである。

武蔵野うどん本来の定義からは外れつつあるが、超極太でガチガチの麺を味濃いめの肉汁で提供する専門店が急増中。パワフルなご当地うどんだ。写真は高円寺の「肉汁饂飩屋 とこ井」 武蔵野うどん本来の定義からは外れつつあるが、超極太でガチガチの麺を味濃いめの肉汁で提供する専門店が急増中。パワフルなご当地うどんだ。写真は高円寺の「肉汁饂飩屋 とこ井」

ところがルーツをひもとくと、武蔵野うどんは必ずしもガチガチに硬いとは限らないという。うどんアンバサダーとして活動し、自身も武蔵野うどんの店を開店予定という林 雅一氏は次のように語る。

「武蔵野うどんの定義はあくまでも武蔵野台地で作られた地粉(地元産の小麦粉)を使用した、少しくすんだ色の手打ちうどんのこと。本来硬さは店舗によってまちまちで、武蔵野地域で古くから営業しているうどん屋では柔らかめの麺が提供されることも少なくありません」

実際これはよくある話で、記者も武蔵野うどんの店だと思って入ったら、柔らかめのうどんが提供されて面食らった経験がある。

しかし、たとえ麺が柔らかくても満足度が下がるとは限らない。東京・清瀬の「うどん亭 なべきち」などはまさに柔らかいタイプの武蔵野うどんなのだが、小麦の風味が強く感じられ、ほかのご当地うどんにはない唯一無二の魅力が感じられた。

「私の好きな東京・小平の『手打ちうどん 福助』もただ硬いうどんではなく、その弾力と喉越しと小麦を心地よく楽しむ武蔵野うどんです」(林氏) うどん亭 なべきち(武蔵野うどん) うどん亭 なべきち(武蔵野うどん)

手打ちうどん 福助(武蔵野うどん) 手打ちうどん 福助(武蔵野うどん)

柔らかい武蔵野うどんを好む人は意外にも多いようだ。記者(『週刊プレイボーイ』本誌で『激ウマ!! バカレシピ研究所』を連載中のB級フード研究家・野島慎一郎)の実父で、幼少期から武蔵野うどんを食べて育った野島誠太郎氏もそのひとり。

近年は埼玉・三芳の人気店「永井」や、埼玉の大宮と川越にある「藤店うどん」などに毎日のように通っているが、必ず少し長めに麺をゆでてもらうようにお願いし、通常より柔らかめで食べているのだという。

永井(武蔵野うどん) 永井(武蔵野うどん)

藤店うどん(武蔵野うどん) 藤店うどん(武蔵野うどん)

「永井の麺は特に弾力もコシもかなり強め。でも麺自体がそもそもウマいから、柔らかくしても味は落ちないし、むしろつけ汁となじみやすくなるんですよ。

これらの店はつけ汁も濃すぎず、かつおだしをベースにした昔ながらの素朴な味。豚肉や野菜のうまみもくっきりしていて、武蔵野うどんの魅力が凝縮されているんですよね」(誠太郎氏)

ガチガチの食感を楽しんでもいいけど、柔らかくても地粉独特の風味がウマい。実は守備範囲が広く、懐が深いのが武蔵野うどんの特徴なのである。

余談だが、林氏もどちらかというと柔らかめ派とのこと。案外、武蔵野うどんのご当地でも、やわやわの福岡うどんが受け入れられる土壌ができているのかも。

また、硬い麺と柔らかい麺のどちらが出てくる店かを見極める方法についても林氏が伝授してくれた。

「食べログやGoogleマップの口コミを見るのが確実ですが、古くからの店は武蔵野うどんを名乗らず〝手打ちうどん〟と掲げていることが多いですね。武蔵野うどんという名前が定着したのは平成以降ですから。これは参考にできると思います」

食感ハードな武蔵野うどんを食べたいのならば、新しめの店を選べば確実か。

いずれにせよ、うどんといえば讃岐うどんが当たり前だった時代から変化し、いろいろなご当地うどんが気軽に食べられるようになる可能性は高そうだ。福岡うどんと武蔵野うどんの躍進に期待!