「こんな時代だからこそ、言論人は当然のこと、誰もが言葉に責任を持たなければならない」と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、SNS時代の言論のあり方について問題提起する!

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イギリスの左派野党・労働党のジェレミー・コービン党首は旧共産圏のスパイだったーー先日、そんな疑惑が英メディアを駆け巡りました。

内容は、コービン氏が1970年代から80年代にかけて旧チェコスロバキアの諜報員と密会を繰り返し、国家情報を漏らしていたというもの。結論から言えば単なるネガティブキャンペーン以外の何物でもありませんでしたが、コービン氏の社会主義的なスタンスからするといかにも「ありそう」な話だったため、タブロイド紙の記事から始まった疑惑はどんどん巨大化。

「諜報員とお茶をしたらしい」→「情報提供を疑われても仕方ない」→「それを否定できるのか」...と、漠然とした嫌疑はすぐに雪崩(なだれ)を打ち、SNS上で右派系アカウントが拡散。さらには一部の大メディアもそれに乗り、あろうことか保守系政治家までもが"コービン叩き"に参戦しました。

こういう汚い政治ゲームは珍しいものではありませんが、昨今ではSNSがその加速装置として機能してしまっています。かつては「タブロイドはタブロイド」「大手メディアは大手メディア」「政治は政治」と、ある程度のすみ分けがありましたが、今やSNSがそれらの"接着剤"兼"発火装置"となり、たとえ嘘でも加速度的に拡散されてしまうのです。

それを良識的なメディアがマジメに検証し始めても、また次のデマが出回る。あるいは、出始めは"タブロイドの与太記事"であっても、他媒体やSNS、政治空間をくぐることで情報がロンダリングされ、いつしか正当化されてニュースサイトや報道番組の一等地に陣取る...。

そうして広まった情報を信じ込んだ人たちが義憤にかられ、危険な行動に出てしまうケースも増えています。最近のイギリスではムスリム過激派によるテロのみならず、白人至上主義者による"極右テロ"が頻発していますし、アメリカの白人による銃乱射事件も同じ構図でしょう。

「白人至上主義や極右を取り締まる必要がある」

先日、英警察のテロ対策責任者だった人物が「白人至上主義や極右を取り締まる必要がある」という旨の発言をし、話題となりました。いわく、ラディカルなのはイスラムのジハーディストだけではない。われわれ白人のなかにも情報によって過激化された人間が増えているという現実を見つめるべきだ。そんな状況を助長しているネット企業が一切の責任を持たないのはおかしいーー。

言論の自由に敏感なイギリスで、警察側の人間によるこれほど踏み込んだ発言は異例です。テロを引き起こすのは特定の宗教や集団だけではなく、あなたの隣人、あるいはあなた自身かもしれない。「権力による言論統制だ」との批判も覚悟の上で、彼はあえてそう警告したのです。

2月23日、東京の朝鮮総連中央本部で銃撃事件が発生し、右翼活動家ら2名が現行犯逮捕されました。これは日本人による「テロ」です。ちょうど北朝鮮の工作員に関する話題が世間をにぎわせていた頃でしたが、軍事的危機やグローバル経済による生活不安といった社会的ストレスがかかる現代では、単なる与太話ですら凶行を呼ぶ"犬笛"になりかねません。

こんな時代だからこそ、言論人は当然のこと、誰もが言葉に責任を持たなければならない。僕もメディアで発言する人間のひとりとして、より強く意識していきます。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。

■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(小社刊)が好評発売中!

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