1月24日には県内の市町村議員、県会議員、国会議員100人余がキャンプ・シュワブゲート前に集まり、座り込み抗議に参加した

新基地建設に揺れる沖縄・辺野古(へのこ)。必死の抗議活動を続ける市民の抵抗も空しく、辺野古の海上についに大型作業船が投入された。

ノンフィクションライターの渡瀬夏彦氏による現場レポート第3回!(PART2はコチラ

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政府関係者は、例えば地元・辺野古を含む3区では同意している住民が多いという言い方をする。「金目」の補償話攻撃で、落とせた気になっている。しかし「辺野古3区」を籠絡(ろうらく)して得た「新基地容認」だけが地元の民意ではあり得ないこともまた明白なのだ。

新基地の滑走路の図面を見れば、V字形に2本並んだ滑走路の被害を受けるのは、むしろ大浦湾を挟んだ「二見(ふたみ)以北10区」であることは一目瞭然。

安倍首相は、昨年暮れに「普天間の騒音被害の対象は1万戸だが、移設先ではゼロになる」などという愚かにもほどがある子供だましの官僚作文を公の場で読み上げたことがあるが、それこそ基地被害についての無理解を露呈しただけだった。

くしくも大浦湾に大型作業船を強引に投入したこの日、辺野古3区の代表が沖縄防衛局の招待で、ヤマト(日本本土)への「旅」に出た。

「本土の基地所在地の住民補償例等を理解してもらうため」という理屈からである。その厚顔無恥ぶりには、開いた口がふさがらない。

世界に問題提起する「二見以北10区」を当局も警戒

一方、まだほとんどのメディアにも報じられていない事実も判明した。

28日の午前中5時間ほど海上で惨憺(さんたん)たる現状を取材し、汀間(ていま)漁港で市民の抗議船から下ろしてもらったその足で、わたしは新名善治汀間区長や「辺野古・大浦湾に新基地つくらせない二見以北住民の会」の松田藤子会長に話を聞くことができた。

新名区長は「ケネディ大使やアメリカ政府に対して、地元住民からの質問状を出したいと思います。稲嶺(いなみね)市長とも相談しましたが、市長もぜひやってほしいと言ってくれました」と語っていた。

つまり、名護市民、沖縄県民が選挙で示した「新基地建設は駄目です」という正当な民意をこのような形で無視し、工事を強行することを民主主義国家のアメリカ合衆国としてはどう考えるのですか、という質問状だ。

わたしも即座に賛同した。公開質問状として、全世界のメディアにも国連にも知ってもらうぐらいでちょうどよいのではないか、と僭越(せんえつ)ながら申し上げたぐらいである。

また新名区長は、26日に「二見以北住民の会」が防衛局に「最低でも県の検証委員会の結論が出るまでは作業を中止してほしい」と要請に行ったときには会えなかった井上一徳沖縄防衛局長が、27日に突然、挨拶(あいさつ)に訪れたことも明かした。

この井上局長の行動は、住民の7割が新基地反対署名をしている「二見以北10区」が、地元の民意を世界に問うべく立ち上がることへの懸念があって、様子をうかがいにきたということだろう。それほど地元のこの行動には、当局も関心を持って見ているのだ。

全国民が被害者になりかねない!

最後に、この二見以北の住民であり、名護市議会議員、沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団団長でもある東恩納(ひがしおんな)琢磨氏の話に耳を傾けていただきたい。

「沖縄の民意が踏みつぶされようとしていることを、全国の皆さんはどう考えているんでしょうか。もしもですよ、自分の住む地域に何か重大な問題が起きて、それを争点にした選挙で明確な意思表示を何度もしたとします。

しかし、それを政府が完全に無視して、強引なやり方で住民を踏みつぶそうとしてきたらどうしますか。今の安倍政権のやり方を認めてしまったら、全国の誰もが被害者になりかねません。この国は、いま民主主義国家といえるんでしょうか」

17年前の名護市民投票で「新基地反対の民意」を示した頃、東恩納氏は、新基地容認派の土木会社の有能な現場監督だった。しかし、子供たちに誇れる生き方がしたいと退職し、地元・大浦湾の瀬嵩(せだけ)集落にエコツーリズムの拠点「じゅごんの里」をつくり、その後、市議会議員に当選して、いま3期目である。もちろん、稲嶺市政を支える地元のホープだ。

いま、わたしたちは、何を守らなければいけないのだろうか。沖縄からは、辺野古・大浦湾からは、この国の姿が鮮明に浮かび上がってみえる。

(取材・文/渡瀬夏彦 撮影/森住 卓)

■週刊プレイボーイ7号「政権の言うことを聞かない沖縄が“武力”で圧殺された日」より