トルコのクーデーター未遂事件で重要なポイントは? 鈴木宗男氏(左)と佐藤優が分析する! トルコのクーデーター未遂事件で重要なポイントは? 鈴木宗男氏(左)と佐藤優が分析する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

前編の『相模原大量殺傷事件で佐藤優が警鐘!「世の中の極端な人たちを刺激して、もっと恐ろしい危険性が…」』に続き、今回は7月15日に起こったトルコのクーデーター未遂事件によって増すロシアの中東での影響力、さらにはそのロシアが絡んで大混乱の様相を帯びるアメリカ大統領選にも言及する!

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鈴木 次はトルコの軍のクーデター未遂事件に関してですが、私の考えでは、エルドアン大統領がホテルから退避するのが5分遅れていれば、拘束されて生死に関わる事態が起きていたと思います。

佐藤 そのとおりです。大統領の拘束と殺害に成功していれば、今、トルコは軍政になっていました。

今回のクーデターは、軍のトップが命じて起きたものではありませんが、軍のトップクラスは絶対に一枚噛んでいます。

このクーデター未遂の何が重要か。今までイスラム諸国のほとんどは「宗教」と「政治」を分ける体制でやってきた。それに対し、イスラム原理主義をもとに政治をやろうとするグループがクーデターを起こしてきました。しかし今回は逆で、トルコのエルドアン大統領が宗教と政治を分けるのをやめて、国をイスラム原理主義の方向へ持っていこうとしていた。そこで軍部の一グループが、トルコの建国理念は世俗主義(政教分離)で、イスラム原理主義ではないとして、クーデターを起こしたわけです。

トルコでは、このクーデターの黒幕は、エルドアンともともと確執があるアメリカ在住の宗教指導者ギュレン師で、その後ろにはアメリカがいると思われてます。トルコは当然、ギュレンの身柄引き渡しを要求していますが、アメリカはこれを認めない。すると、両国の関係は最悪になります。

そこに目をつけたのが、ロシアのプーチン大統領。ロシア空軍の戦闘機がトルコに撃墜(げきつい)されて以来、プーチンはエルドアンを「死んじまえばいい」と思ってた。ところが今回のクーデター未遂後、プーチンはエルドアンに真っ先に電話して「支持する」と表明している。

なぜか? プーチンがシリアのアサド大統領を支持しているのと同じで、ロシアはとにかく中東の安定が欲しい。今、エルドアン体制が壊れると中東は大混乱になる。これはロシアにとっても悪影響なんです。これでシリアのアサド、トルコのエルドアンは、ロシア側につきました。中東でのロシアの影響力はさらに大きくなりましたね。

世界を巻き込んだ、トランプとヒラリーの足の引っ張り合いが始まる

■アメリカ大統領選もロシアが絡んで大混乱?

鈴木 アメリカの大統領選で、民主党全国委員会のシステムにロシアの情報機関がハッキングしたという報道が出るなど、世界情報戦の様相を帯びてきました。

佐藤 はい。ヒラリーとトランプの戦いは、今後スキャンダル戦になります。ヒラリーの最大の爆弾は、「メールゲート事件」と呼ばれる、私的メールアドレスを使用して国家機密を含む6万通のメールを送受信したことです。そして、そのうちの3万通をヒラリーは必要ないとして消去しました。

これでもし仮に、10月頃に「ヒラリーの私用サーバーから消えた3万通のメールはこれだ!」という記事がロシアの新聞にでも出れば、アメリカ世論は「ヒラリーは売国奴」だとして雰囲気がガラッと変わるでしょう。

現在の国際秩序の変化を望んでいない日本や韓国、ヨーロッパはヒラリー支持、今の秩序が変わったほうが得をすると考えている中国、ロシア、北朝鮮はトランプ支持です。またトランプのほうも、「ロシアが、クリントンの失われた3万3000通のメールを持っていることを祈る」と発言しており、米大統領選にロシアを巻き込もうとしている。

プーチンも、オバマのように優柔不断で決断力がなく外交も理念でゴリゴリ通そうとするリーダーよりも、タフネゴシエーターだけど、約束したことはきちんと守る、ビジネス的な取引ができるトランプに好感を持っている。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)がトランプに好感を持っているのも同じ理由でしょう。

だからこの先、世界を巻き込んだ、トランプとヒラリーのとんでもない足の引っ張り合いが始まるでしょう。

●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。詳しくは新党大地のホームページへ

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)