世論調査によると、韓国も核武装すべきだという意見が51.5%、反対は42.1%だったという

北朝鮮は9月9日、過去最大規模とみられる5回目の核実験を実施した。これに対し、米軍は戦略爆撃機B1を韓国に派遣するなど、朝鮮半島は緊張状態が続いている。

10月1日に朴槿恵(パク・クネ)大統領が北朝鮮の住民に脱北を呼びかけたことに対しては韓国国内でも賛否両論があるようだが、果たして韓国の市民は北朝鮮の暴走をどのように見ているのか? そして東アジア情勢で日本に期待される役割は?

「週プレ外国人記者クラブ」第50回は、「朝鮮日報」東京支局長、金秀恵(キム・スヘ)氏に話を聞いた――。

***

―今年1月の「水爆実験」に続き、北朝鮮が5度目の核実験をしましたが、韓国の市民はこれをどう受け止めていますか?

 9月9日に核実験がありましたが、その3日後の12日朝に韓国全土でマグニチュード(M)5.1、そしてM5.8の地震が起き、国民は大きなショックを受けています。日本の人からすれば驚くかもしれませんが、韓国は地震が少ないですから、震度3程度の地震でも大混乱となるんです。

核実験については、マイケル・ヘイデンCIA元長官も産経新聞のインタビューで、北朝鮮の核開発を止める策はないと言っています。現在、韓国軍は52万人いますが、核爆弾となるとこれまでの軍事戦略とは意味が違います。相手が“普通の国”なら交渉もできるだろうけど、話し合いもできない。今回の核実験については、韓国市民は傍観するしかなく、仕方がないという感じです。

前回のインタビューで金さんは、韓国と北朝鮮は同じ国だと言っていました。その意識の中での北朝鮮による核実験・核開発は、韓国にとって何を意味するのでしょう?

 日本人とは考え方がちょっと違うと思いますが、私たちにとって朝鮮戦争は終戦したのではなく、1953年から“休戦状態”にあるという認識なのです。教科書でも自国の歴史や社会について学びますが、韓国の定義はこの休戦なしに語ることはできません。

先ほど地震の話をしましたが、この休戦状態は日本人にとっての休火山に例えられると思います。つまり、コントロールできないけれど、防災の準備はする。いつかまた勃発する可能性があるということです。ただ、大概の人が休戦状態は終わらないと思っている一方で、軍事的に緊張状態が続いているのは確かです。

同じ民族なのに、私たち韓国を敵と見ているのが北朝鮮なのです。その国がソウルからほんの40km程度のところにある。北朝鮮は米国を主要な敵としていますが、実はその同盟国である韓国が目的なのです。

「核武装」賛成派は高齢者に多い

―北朝鮮の核開発はミサイル技術も含め、相当進歩しているとみられていますが…。

 今までとは違いますね。これまでは各国との対話や経済的支援によって、北朝鮮が“普通の国”になるだろうと楽観視されていました。ところが今や冗談ではなく、核弾頭が弾道ミサイルに搭載される実現性が高まってきています。

韓国の市民もこれまでの休戦状態とは違う段階にあるかもしれないと感じているばかりか、「米国の核の傘の下に安泰していていいのか」と疑問を持ち始め、韓国も核武装すべきではないかという意見が高まってきています。

9月26日の朝鮮日報でも報道した世論調査では、韓国も核武装すべきだという意見が51.5%、反対は42.1%でした。世代間での賛否を見ると興味深いのですが、20代では36.6%、30代が38.2%なのに比べて、60代以上では73.1%の人が賛成しています。韓国人は感情的だけど、攻撃的ではありません(笑)。それなのにこの結果となったのは、韓国人の不安を表わしていると思います。

―日本では、70代以上で戦争を知る世代のほうが反核や反戦の意識が強いですが、韓国は逆なんですね。

 朝鮮戦争は、わずか3ヵ月で人口の大部分が今の釜山まで移動させられたイデオロギー戦争だったので、戦争中も戦後も北に対しての反感やわだかまりが強いんです。特に60代、70代の人は共産主義者たちが同じ民族なのに侵略してきて、本当に大変な経験をしました。

日本人の前で失礼ですが、「日本人よりもっと悪い」と言っていたほどです。戦争のトラウマは非常に強く残っていると思います。その一方で20代、30代は経済的な豊かさの中で育ったので、独裁政治や戦争の経験や記憶がないんです。

基本的には南北が統一されるべきというのが国民的総意ですが、韓国の右派は、戦争責任は北にあり統一のプロセスは韓国が主導すべきであり、金正恩政権は処罰すべきだと考えています。右派の基本的な歴史観は、朝鮮戦争休戦直後には北朝鮮のほうが経済的に強かったので、韓国は軍事政権下で安全保障(国民の命)と経済成長(食)を優先し、その後に民主主義に至ったというものです。

一方の左派は、韓国主導の統一は必要だが、その実現には対話を重視し北朝鮮を支援すべきだと主張します。イソップ物語の「北風と太陽」に由来する太陽政策ですね。制裁という形の圧力をかけて抑えるから、北朝鮮は反発して核武装につながるという論理です。

右派の目にはこれは甘い考え方に映ります。例えば、自爆テロ犯から脅かされている状況でも「テロ犯が豊かになれるように支援すれば自爆テロをあきらめるだろう」「私たちが強く出れば、彼らは本当に自爆テロを行なうかもしれない。だから彼らを強く刺激するほうが悪い」と考えているのが左派だ、という視点です。

右派は、太陽政策という名の支援が核開発につながったとして、対案を提示できなかった左派の責任を追及しています。右派のほうがリアリストと言えますね。

日本と韓国の同盟を阻む歴史認識問題

―対案を示せないというのは、まるで日本の民進党のようですね(苦笑)。朴槿恵大統領が金正恩氏を呼び捨てにしたりすることからもわかるように、韓国は態度を硬化させています。

 朴大統領は、北朝鮮が核開発を中止することを対話の条件としています。しかし、朴政権下では対話がストップした状況。中国の態度が南北統一を左右すると言われている中で、中国との関係改善を重要視していますが、これはあくまで対北朝鮮を想定しています。

そして韓国と米国の合同軍事演習も対中ではなく、あくまで北朝鮮を視野に入れたものですが、これは韓国市民が自国の核武装を必要だと思っている要因になっています。

5回目の核実験の後、米軍はグアムから戦略爆撃機B1を韓国に派遣しましたが、B1はグアムから北朝鮮まで2時間かかるといわれています。「それでは間に合わないから意味がない」というわけです。また、パトリオットミサイルの迎撃成功率は100%ではありません。

これでは不十分、韓国も核武装すべきだというのです。また、そういう世論が高まることによって米国の軍事政策が強化されるわけです。

―ここに日本の存在はどう関係してきますか。

 北朝鮮の攻撃の対象になり得ますが、日本の態度は明確ではないですね。韓米、米日という同盟関係はありますが、韓日は戦略的利益を共有しているにもかかわらず、歴史問題がネックとなって今でも同盟関係にはありません。

前回も話しましたが、朝鮮半島が有事の場合、韓国の合意を得ずに日本が独自の行動をとる可能性は否定できない、という元防衛相の中谷元氏の発言は物議を醸(かも)しました。韓国の合意がないうちは、北朝鮮に対して行動をとらないということが確認できなければ、韓日同盟は実現可能ではないでしょう。

今、安倍総理は海外諸国を訪問し、北朝鮮の核実験について非難していますが、これが韓国にとって今後の利益になるかどうかは疑問です。歴史認識が違ううちは難しさが残りますね。いつ、どのテロリスト集団が北朝鮮の核技術を手にするかという危険も伴う中で、多くの学者が言うように、必要なのは東アジア協定のような集団安全保障システムではないでしょうか。

●金秀恵(キム・スヘ)1973年韓国ソウル生まれ。「朝鮮日報」東京支局長。2012年寬勲(クァンフン)クラブジャーナリズム賞、2001年、2008年サムソンジャーナリズム賞受賞。朝鮮日報で初の女性“機動取材チーム長(警察キャップ)”となり、2015年3月に東京支局就任。

(取材・文/松元千枝)