昨年12月、トランプ大統領は「核戦力を大幅に強化する」と発言。現有兵器の改良に加え、敵の地下施設を壊滅させる「核搭載貫通爆弾」の実戦配備も近い

トランプ米大統領の就任で、米露両国の強権型リーダーが並び立った。彼らに共通するのは「力こそすべて」という思想、そして、その力を裏づけるための核戦力の増強を目論んでいることだ。

現状のパワーバランスを大きく変えかねない新兵器の開発と、核使用も辞さない“瀬戸際外交”が新たな恐怖の幕を開ける!

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広島と長崎で、人類史上初めて核兵器が実戦投入されてから71年後の昨年12月22日。第45代アメリカ大統領就任を間近に控えたドナルド・トランプの突然のツイートが波紋を呼んだ。

「世界が核に関して良識を取り戻すまで、アメリカは核戦力を大幅に強化して、拡大する必要がある」

これは単なる思いつきの発言ではない。政権移行チーム(当時)の広報担当ジェイソン・ミラーも「(トランプのツイートは)核拡散の脅威を念頭に置いたもの。(中略)力(パワー)によって平和を追求する上で、アメリカの抑止能力の改良・刷新は必要不可欠だと強調したのだ」と、その内容が次期政権の方針に沿っていることをはっきりと認めている。

元時事通信ワシントン支局長の小関哲哉(おぜき・てつや)氏は、トランプの心境をこう解説する。

「トランプはオバマ政権が採ってきた従来型の外交・軍事政策を信用していません。核戦略、通常兵器戦略の両面にわたって抜本的な見直しを行なうつもりでしょう」

元米陸軍情報将校の飯柴智亮(いいしば・ともあき)氏は、新たな米軍の総司令官トランプのツイートの意味をこう読み解く。

「『良識』とは、核兵器関連のLaw and Order(ロー・アンド・オーダー/法と秩序)の再構築を指しているのでしょう。現在の国際社会は、核兵器不拡散条約(NPT)が有名無実化した無法状態。その時計の針を戻し、『どの国が核を何発持てるのか』という秩序を立て直すということです。もちろん、その場合でもアメリカだけはなんでもありの例外ということになるでしょうが」

“脅し兵器”から“実戦型兵器”へ

一方、トランプのツイートとほぼ同時期に、くしくもロシアのプーチン大統領も自国の核兵器について次のように発言していた。

「アメリカが主導する欧州のMD(ミサイル防衛システム)に迎撃されないよう戦略核戦力を強化する必要がある」

「核の(陸海空の)3本柱の近代化を進める。われわれのシステムは(アメリカ主導の)MDよりずっと効果的だ」

2014年に突如としてウクライナ東部のクリミア半島を“強奪”し、その後も核使用をチラつかせて周辺国を恫喝(どうかつ)するプーチン。そして、オバマ前大統領とは対照的に、世界最強の核戦力を前面に押し出して主導権を握ろうとするトランプ。同じベクトルを向く米露の指導者が立ち並んだ今、世界は「核兵器新時代」に突入したのだ。

では、米露のトップがブチ上げた核軍備の増強とは、具体的には何を指すのか? 米軍の核戦力の現状について、米国防系シンクタンクで海軍戦略アドバイザーを務める北村淳(じゅん)氏が解説する。

「オバマ政権の8年間、米軍の核兵器の近代化は完全に滞(とどこお)りました。このツケはかなり大きく、例えばICBM(大陸間弾道ミサイル)本体、発射サイロ、基地設備は多くが老朽化しています。

これでは抑止力としての“脅し”の威力も下がってしまうため、戦略原子力潜水艦に搭載されているSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)とともに、早急な近代化が望まれています。さらに、デコイ(おとり弾頭)も含めた核弾頭の数の増加、その弾頭の大気圏再突入段階での制御機能の精密化といった施策も必要でしょう」

また、前出の飯柴氏は、米露の核兵器の「質」の違いをこう指摘する。

「米軍の核戦力の多くは都市を丸ごと壊滅させるような戦略核弾頭で、威力が強すぎて使用場面がかなり限定されます。対照的に、ロシアは破壊力を抑えた戦術核を多数保有しており、“使いやすさ”では一歩先を行っている。トランプ大統領は、目標によって核爆発の威力を調整できるように弾頭の規格統一化も進めたいはずです」

重厚長大な“脅し兵器”から、精密で使いやすい“実戦型兵器”への転換が行なわれるということだ。

米軍のICBM「ミニットマンⅢ」はミサイル本体、発射サイロ、基地設備の老朽化が進み、近代化が急務となっている

マッハ5以上で飛ぶ無人グライダー兵器

■マッハ5以上で飛ぶ無人グライダー兵器

加えて、こうした既存兵器の改良のみならず、新たな核兵器の開発にも乗り出す可能性が高い。軍事評論家の嶋田久典氏はこう語る。

「米軍が新型核兵器を投入するなら、以前から開発を進めているMOP(大型貫通爆弾)の核弾頭型、通称“核弾頭型バンカーバスター”でしょう。MOPはB-2爆撃機に搭載する直径80cm、重量13・6tの超大型GPS誘導爆弾で、落下エネルギーだけで岩盤70mを貫く。これに核弾頭の破壊力を加えれば、他国の核施設や、独裁者やテロ指導者の潜伏場所など、たいていの地下施設は破壊できます」

一方、プーチンの言う「迎撃されない核戦力」とは何を指すのか? 嶋田氏が続ける。

「現在、米露などの弾道ミサイルは単弾頭ではなく、多弾頭型のMIRV(複数個別誘導再突入機)という形態です。プーチンが言及しているのは、これをさらに進化させたMaRV(機動式再突入体)のことでしょう。まだどの国も実用化には至っていませんが、MaRVは個々の弾頭が大気圏再突入時にバラバラになって機動して迎撃を避ける仕組みで、SM-3(艦船発射型弾道弾迎撃ミサイル)やTサードHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)など既存のMD網を打ち破るには必須の技術です

核兵器の攻撃力の向上とそれに対する防衛策は、まさにイタチごっこなのだ。

MIRV化された多弾頭型弾道ミサイルを配備しているのはアメリカ、ロシア、フランス、イギリス、中国の5ヵ国(写真は米軍による着弾イメージ

さらに、既存のMD体制を根底から覆す新たな兵器も各国で開発されているという。前出の北村氏が解説する。

「ロケットで打ち上げられ、そこから切り離されてマッハ5以上で飛翔(ひしょう)していく『極超音速兵器』という構想があります。超高速の無人グライダー型兵器といえばイメージしやすいと思いますが、そこから小型核弾頭搭載ミサイルなどを発射するわけです。

開発の先鞭(せんべん)をつけたのはアメリカですが、すでにロシアや中国も開発に着手しています。既存のMD体制では迎撃不可能な兵器だけに、ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相の言葉を借りれば『その国の軍事力に革命をもたらす』ほどのインパクトがあるシロモノです」

近い将来、世界の軍事バランスは大きく変わる!?

★後編⇒パワーバランスに変化? 米露の核使用の可能性と「米中核戦争」恐怖のシナリオ

(取材・文/小峯隆生 世良光弘 写真/U.S.NAVY U.S.AirForce DoD)