原発の未来を語る、新潟県知事の米山氏

新潟県知事に当選した米山隆一(よねやま・りゅういち)氏は、東京大学医学部卒業後、医者、弁護士を経て、国政選挙で4度の落選という異色の経歴の持ち主だ。

柏崎刈羽原発を抱える新潟の県知事として、その動向に注目が集まる米山知事を、軍事ジャーナリストの小峯隆生(こみね・たかお)氏が直撃インタビュー。

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■柏崎刈羽原発と北朝鮮のテロ

小峯 これまで4回、衆議院選と参議院選に落選し、そして2016年にいきなり新潟県知事選で当選。あらためておめでとうございます。勝因はなんだったのでしょうか?

米山 ありがとうございます。勝因はやはり、原発でしょうね。日本には高度経済成長期の開発経済的な枠組みがいまだに根強く残っています。それを象徴しているのが原発です。

ただ、実際は高度成長なんてもうとっくに終わっていて、もはや日本は成熟社会になっていますよね。

有権者の方々も、今は開発経済的な政治ではなく、個人の暮らしや生活に密着した政治を求めるようになっています。しかし、そのニーズに今の政治は十分に応えられていない。そうした状況で、県民ひとりひとりの命や暮らしにフォーカスを当てようという私の思いが、原発再稼働問題をシンボルとして結実して、有権者に受け入れられたのだと思います。

小峯 選挙中はどんなメッセージを発信していたんですか?

米山 現代の日本には企業に対しては公助が与えられる一方で、個人に対しては自助努力を求めがちな風潮があると感じています。

企業に対しての公助を全面的に否定するわけではないですが、これからは企業に対して自助努力を求めて、個人にはもっと公助を与えていいと思うんですよね。だから私は、公助と自助のバランスを現代にマッチさせたい。そう思って、命と暮らしを守る県政を訴えました。

小峯 なるほど。

米山 また、有権者から私に対して「この人なら、変えてくれそう」みたいな期待感があったのだと思います。それこそ昨年の都知事選のときの小池百合子さんみたいな。

2012年に安倍政権が誕生したときは社会のなかに「何かが変わるんじゃないか」って雰囲気がありました。でも結局、世の中はそこまで変わらなかったですよね。それに民進党も期待できない。だから今、社会全体に諦めの雰囲気が漂っている。そして地方は都市より強い閉塞(へいそく)感に覆われています。だからこそ、「変える」というのは、地方にとって重要なキーワードなんです。

小峯 県民の中には米山知事がきっと原発問題を変えてくれると思っている人も少なくないでしょうね。

米山 その期待は感じています。

柏崎原発はテロにつながりかねない小さな事件が起きている

1月に横田めぐみさんの母、早紀江さんと面会した米山知事。拉致被害件数の多い新潟県にとって、問題の解決は急務だ

小峯 しかし柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発はほかの原発と比べてもやっかいな問題が多いですよね。

まず、立地が非常に特殊です。日本海を隔てた対岸には北朝鮮がある。この国は、いつどこにでも派遣できる総兵力13万の特殊部隊と、いつでも発射できる長距離弾道ミサイルを大量に保有しています。

米山 ええ。そして射程も日本全土をほぼ含んでいますね。

小峯 ここで重要なのが柏崎刈羽原発の弱点の話です。

柏崎刈羽原発と同じく日本海に面している敦賀(つるが)原発には近くに舞鶴海上自衛隊基地があるので、海と空からの攻撃に自衛隊が対処できるようになっています。しかし、柏崎刈羽原発はミサイル攻撃への防御策がない。非常に無防備なんです。

日本人の拉致被害者たちが北朝鮮に新潟の海岸から連れ去られたケースもありますし、新潟に北朝鮮の特殊部隊が上陸して、テロ作戦を実行する可能性もありますよね。

米山 可能性はあります。

小峯 さらに、日本の原発の防衛能力は他国と比べても非常に低い。日本の原発は民間の非武装の警備員が防衛していますが、例えばフランスには、原発警備を専門とするPSPG(=特殊防護小隊)という、警察と軍隊が合体したような特殊部隊があります。PSPGは対戦車兵器に対空ミサイル、そして軍用小銃まで持つ重武装部隊です。

柏崎刈羽原発にも、運転上の安全だけでなくテロ攻撃やミサイル攻撃などへの対策が必要だと思うんです。

米山 確かにテロの可能性がないとはいえません。ただ、そうした対策は、どちらかといえば国がすることでしょうね。

小峯 なるほど。しかし、なぜかあまり報道されていませんが、柏崎原発は施設内で、不審火、モノが盗まれるといった、テロにつながりかねない小さな事件も起きています。

米山 ええ、こまごまとありますね。

柏崎刈羽原発に十分な安全性が確保されない限り再稼働は認めません

小峯 そうした状況を見ると、有事の際の被害を最小限に抑える方法を考えておくべきだと思うのです。例えば、柏崎市と刈羽村に現在住んでいる計9万人を分散移住させて、原発周辺を無人地帯にするってどうですかね?

米山 といいますと?

小峯 福島を見てもわかるように、いったん原発事故が起きれば、移り住んだ先でいじめに遭ったり、放射能で故郷に帰れない人がたくさん出たり、といったことが起きます。

こうした問題を生まないようにするには、いっそ原発周辺の半径15kmを無人地帯にしておくしかないと思うんです。その環境のなかで、柏崎刈羽原発も廃炉にできればいい。

そうすればミサイル攻撃、地震、津波、操業上の事故などがあっても、人への被害は少なくなりませんか。

米山 それはダメです(笑)。住んでいる方々もおられますし、仮にやろうと思っても日本の法律では無理です。ただ、柏崎刈羽原発に十分な安全性が確保されない限り再稼働は認めません。もちろん電力会社だけではなくて国も相手にします。

小峯 よろしくお願いします。しかし、柏崎刈羽原発の問題はなかなか手ごわそうですね。

米山 確かに、非常にこじれてますね。そういう意味では、医者というより弁護士としての経験が生きるかなと思います。弁護士の仕事はこじれたものを直すことですから。

正しいほうが勝って、正しくなかったほうにはそれを納得してもらう。双方ともそれなりの言い分があるならば、双方とも歩み寄れるようにする。それがこじれたものを直すということです。

原発でもそうで、その都度適正な回答・解決を見いだすのが、弁護士を経験した知事としての、僕の仕事だと思っています。

◆後編⇒落選を乗り越えた新潟県知事が救われた、きれいなお姉さんたちとの合コン「煩悩を持って人生を楽しむことも大切」

●米山隆一(よねやま・りゅういち) 1967年9月8日生まれ。国政選挙で4度の落選を経験しながら、無所属で立候補した2016年の新潟県知事選で当選。原発問題の解決や人口減少対策などの政策を掲げ、県民の生活に密着した政治を目指す

●小峯隆生(こみね・たかお) 筑波大学非常勤講師。世界各国の軍事兵器、軍事作戦、スパイ行動に精通する。著書に『新軍事学入門』(飛鳥新社)などがある

(インタビュー/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)