「沖縄に応答する会@新潟」が開催したイベントのチラシ 「沖縄に応答する会@新潟」が開催したイベントのチラシ

5月20日、東京都内で市民団体「沖縄の基地を引き取る会・東京」(浜崎眞実、飯島信共同代表。以下、「引き取る・東京」)主催のシンポジウム「基地はなぜ、沖縄に集中しているの?」が開かれた。

沖縄の米軍基地を引き取ろうとの市民運動は2015年の大阪を皮切りに、同年に福岡、2016年に新潟、そして今年の東京と立て続けに立ち上がっている。

なぜ米軍基地を引き取るのか。第1回は大阪の市民団体「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動」(以下、「引き取る・大阪」)を設立した松本亜希さん(34)の話からその経緯と理念を紹介。

 第2回は著書「沖縄の米軍基地 『県外移設』を考える」(集英社新書)でも米軍基地を本土で引きとるべきと主張する高橋哲哉教授(東京大学大学院。哲学)と「本土に沖縄の米軍基地を引き取る会福岡の会」(以下、「引き取る会福岡」)を設立した里村和歌子さん(41)の話を中心にこの問題を考えた。

里村さんが引き取り論を展開する根拠のひとつは、日米安保を是認する国民が9割近くもいる事実だ。

「そうならば、本土でこそ米軍基地を応分の負担で引き受けるべき。それは可能な選択肢です。その議論がないまま沖縄の基地反対だけを訴えるのは違和感を覚えます。よく『沖縄と連帯を』と言いますが、連帯って共に悩むことです。今、どの市民運動が悩んでいるのでしょうか?」

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引き取る運動が集会を催すと、常にふたつの質問が寄せられる。

ひとつが、「引き取ったあと、米兵犯罪にどう責任を取るのか」ということだ。特に女性への性的被害は議論を避けて通れない。だが里村さんは「では沖縄での米兵犯罪にあなたはどう対処しているのですか?」と反論する。

松本さんもこう考えている。

「女性はこの問題に敏感です。基地を引き取る上で対策を講じることは必要です。ただ、犯罪が起こるからという理由で沖縄に基地を置いたままにしておくのは別問題。私にも小さな子供がいるから、彼らには静かな環境で育ってほしい。でも、それも今の沖縄では叶えられない。沖縄の子供たちは生まれながらにして基地を押し付けられている。だから逆に尋ねたいんです。あなたは沖縄の犯罪に責任を取れるのかと」

これこそ、引き取りを主導した団体の責任問題ではなく、まさに全住民で考えるべき問題だと里村さんも松本さんも考えている。

そして、もうひとつの質問は「どこに引き取るのか」ということだ。高橋教授は、本土であれば移設はどこでもいいとは考えていない。例えば、すでに米軍基地がある地域にはできるだけ避けたいと。

一方、米軍専用施設が全くない府県は33、その一時施設すらない府県が18もある。この中での自衛隊と米軍との併用の可能性は検討すべきとする。だが、それでももちろん、どこが引き取るにせよ、必ず強い反対を伴う議論が起こるはずだ。

「引き取る・大阪」は、府内に8ヵ所の引き取り候補地を挙げている。辺野古新基地と同程度の面積を有する埋め立て地「夢洲(ゆめしま)」、飛行機の離発着に余裕のある「関西国際空港」や「八尾空港」「伊丹空港」など。同時に「押し付け」を避けるため、被差別地域は候補地から除いている。

 「大阪行動」のチラシ裏には大阪のグループが作成した「引き取り候補地・地図」もある 「大阪行動」のチラシ裏には大阪のグループが作成した「引き取り候補地・地図」もある

沖縄を差別しているのは本土の普通の市民

一方、「引き取る会福岡」ではいまだ候補地の選定をしていない。当初から議論はあったが、それに時間を割くべきではないと判断した。「どこにするのかを決めるのは政治」だからという理由だ。

実は、冒頭の東京集会でも会場から「では、どこに基地を引き取るのか」との質問が出た。「引き取る・東京」では「どこに引き取るかについては、私たちはそれを政治課題にします。ここに全力をかけます」と回答している。

会場に座っていた高橋教授も「これは必ず出てくる質問です。しかし、どこにどう引き取るかは運動体に問うことじゃなく、自分自身に問われていることです。まずは、基地を沖縄に押し付けてきた責任は私たちヤマトにあるとの同意を取ることが先です」と発言した。

もちろん、「引き取る・大阪」が8ヵ所の候補地を挙げていることにも意味がある。具体的に挙げることで、他人事から自分事へと意識を向けることができるからだ。

それら候補地の近くで街宣を行ない、引き取る可能性を市民に訴えているが、そのひとつ、八尾空港は住宅に近く、数年に一度はセスナ落下事故があるだけに、ビラを読んで「あかん、あかん!」と反応する住民も…。そこで松本さんらは「米軍基地はないほうがいい。でも、日米安保を支持している以上、まずは沖縄に基地を押し付けている差別を解消するのが先です」と訴えるが、そうした積み重ねで少しづつだが、街宣でも「なるほど」と反応を示す人が増え、今では噛みついてくる人はほとんどいないという。

ただし、最終的にどこにするかはやはり政治になる。つまり、今後、いかに地方や国の議員を動かすかも問われているわけだ。

16年11月から新潟県でも「沖縄に応答する会@新潟」(以下、応答する会)が引き取り活動を開始している。16年2月、新潟県立大学の福本圭介准教授ら5人で設立。きっかけは前年12月、政治学者ダグラス・ラミスが新潟での講演で「引き取り」を提案したことだった。

福本准教授が強調するのも「沖縄を差別しているのは本土の普通の市民」であること。応答する会の設立趣意書にはこう書かれている(要約)。

「誰が沖縄に基地を押しつけているのでしょうか。私たちは、本土に暮らす普通の市民だと考えます。9割近い人が日米安保を支持しています。にもかかわらず、私たちは沖縄に押しつけて他人事のようにふるまってきました。私たちは、『沖縄と連帯しよう』と呼びかけたりもしますが、ここに欺瞞(ぎまん)があるのではないでしょうか。問題の本当の当事者は私たち自身だからです」

新潟県民も当事者意識を持った時期がある。50年代まで新潟空港が米軍に接収されており、当時、多くの県民にとって基地問題は自分事であり、空港の拡張計画もそれに反対する知事を当選させるなどして食い止めた。その歴史を振り返ることで、今や他人事となった意識を見つめ返したいと福本准教授は考えている。

今年1月22日には「ワークショップ:本土への基地の引き取りに賛成? 反対? ~少人数で基地問題を語り合う~」を開催。参加者26名が何度も小グループを変えながら約2時間、話し合った。引き取り「反対」は20人以上いたが、これまでなかった議論が2時間もなされたことに意義があった。その狙いは、議論する中で参加者が「自分こそが当事者だ」と自ら気づくこと。

「ここからです。基地問題の原因が自分たちである以上、自分たちが変わらなければ何も変わりません」(福本准教授)

 記者会見。左からふたり目が新潟代表の福本圭介氏 記者会見。左からふたり目が新潟代表の福本圭介氏

自分のところに基地は来ないだろう?

 沖縄の知念ウシさん。著書「シランフーナー(知らんふり)の暴力:知念ウシ政治発言集」では基地問題の根底に日本人の見て見ぬふりをする姿勢が横たわっていると描いた 沖縄の知念ウシさん。著書「シランフーナー(知らんふり)の暴力:知念ウシ政治発言集」では基地問題の根底に日本人の見て見ぬふりをする姿勢が横たわっていると描いた

そして、これら3団体に加え、冒頭で紹介した「引き取る・東京」もこの4月に活動を開始。共通の課題は今後、どれだけの「引き取る」運動が全国で立ち上がり、一般市民に関心を持ってもらうかだ。その先に地元政府、そして国会への働きかけも見えてくる。

「政府は普天間飛行場の移設は『辺野古が唯一の方法』と言います。でも、本土で『引き受ける』と声を上げればそうは言えなくなる。そのためには、国会議員を動かすまでに運動を拡大するのが目標です」(「引き取る会福岡」里村さん)

「引き取る・大阪」の松本さんの元には辺野古で世話になった人たちから連絡が入る。基地は本来は否定すべきものだが、引き取る運動に踏み出すに至った思いについては理解してくれているという。同様に「引き取る会福岡」にも随時、沖縄から応援の声が届くという。沖縄の高校2年生が15年3月、沖縄タイムスに以下の手紙を寄せた(要約)。

「学内で辺野古移設反対の人、賛成の人もいます。家族や親戚の間でも。仕方ありません。ですが県民として辺野古の海を破壊したくはありません。普天間も危険です。一番の解決策は里村さん方のような団体が増えていき、少しずつ本土に移設、そして沖縄と本土の均一な基地保有を実現していくことが、沖縄と本土の平等に繋がっていくと思います」

沖縄県民も今、「引き取る」行動に初めて「連帯」を感じ取っているのかもしれない。なぜなら他人事ではない運動だからだ。

今回、東京での集会には沖縄で県外移設を訴えている知念ウシさんの姿があった。日米安保を多くのヤマトンチュが支持しているのなら、ヤマトが責任をもって基地を引き取るべきだとの持論を持つ知念さんはこう発言した。

「私たちは辺野古の工事を止めたい。辺野古に基地ができたとしても引き取ってほしい。沖縄の大学生と話すと『基地廃止なんてどうやってできんの? できっこないよ』と言います。また、これまでは県外移設案は『基地はいらない』運動には聞き入れてもらえませんでした。でも、私たちの県外移設の訴えを聞いてくれるのがこの『引き取る』運動です」

2009年、鳩山政権の「最低でも県外」を多くの沖縄県民が期待した。言い換えるならば、沖縄県民が他県に向かって「米軍基地を引き取れ」と意思を示したのだ。引き取る運動はまさしくその声に応えるものに他ならないと捉えることができる。

高橋教授もこう訴える。

「いざ引き取るとなると当然、賛否双方の激しい議論が起こるでしょう。でも、これまで、米軍基地問題は自分たちの問題なのに沖縄だけの問題のようにして議論がなかったのがおかしいのです。その議論を通じ、私たちは加害者であることをやめ、米軍基地がなくなるとすれば、米軍に依存し従属する安保体制を見直すこともできる。引き取り運動はその一歩です」

日本人の9割が米軍基地の駐留が基軸となる日米安保を支持している。そのほとんどが「自分のところに基地は来ないだろう」との他人事の安保支持だ。まず、この意識に揺さぶりをかけて、自分事として問題を捉えてもらうーーそれが「引き取る」運動の第1ステップだ。

もちろん、読者にも賛同できる人とできない人の両者がいるだろう。大切なのは、これまで沖縄任せにしていたことで、起こらなかった議論を両者で起こすことである。米軍基地問題は沖縄ではなく日本の問題なのだ。

(取材・文・撮影/樫田秀樹)