「メディアが積極的に汚職や権力濫用を追及することを、政府自ら促してほしい」と語るデービッド・ケイ氏

6月15日、「共謀罪」法案が参院で可決・成立した。

この法案をめぐっては、国連特別報告者、ジョセフ・カナタチ氏が安倍首相への「公開書簡」で、プライバシーや表現の自由を制限することになると懸念を表明。これに対し日本政府は「書簡の内容は明らかに不適切」と強く抗議した(5月22日)。

日本政府vs国連特別報告者のバトルはまだある。5月29日、「表現の自由」に関する国連特別報告者、デービッド・ケイ氏が昨年の訪日調査報告書の全文を公開し、政府によるメディアへの圧力や自民党の改憲草案などに懸念を示した。すると、やはり政府は「誤解に基づくと思われる部分がある」とすぐさま反論したのだった。

いずれのケースでも、政府の反論に同調する声が多く見られ、日本人の中で国連特別報告者に対する不信感が高まっているように思える。そこで、そのデービッド・ケイ氏に独占インタビューを敢行。前回(「生かすか殺すかは日本の皆さんと政府次第」)に続き、国連特別報告者としての活動目的、そして日本が目指すべき道を語る――。

***

―ケイさんの報告書では、日本のジャーナリズムについての懸念も示していますね。

ケイ ジャーナリズムは権力を監視する“番犬”で、政治家や官僚の責任を追及するのが役割です。そして、ジャーナリズムと政府は緊張関係にあるのが当たり前。だから、政府高官と報道機関の経営陣が個人的に会合することは好ましくありません。馴(な)れ合いの関係になってしまうからです。

日本では、ジャーナリストが政府から圧力を受けたとき、それを押し返せるような横のネットワークがない。これはメディア側にも問題がある。特に大手報道機関の記者は、ジャーナリスト間の連帯感よりも会社への忠誠心のほうが強い。日本では表現の自由は保障されていますが、それを強化するための法的、構造的な枠組みなしには、他国に比べても政府からの抑圧をはね返す力は弱いでしょう。

日本のジャーナリズムは、ほかの民主主義国家と同レベルの水準にはありません。例えば、アメリカのトランプ大統領の圧力は相当なものですが、ジャーナリストたちは確固たる調査に基づく報道で反撃している。日本でも素晴らしいジャーナリズム活動を目にすることがありますが、ほかの民主主義国家のような調査報道はあるのでしょうか。

「表現の自由が世界中どこにおいても成熟し、確保されることが目標」

「北朝鮮による拉致問題についての報告書など、国連は日本にとっていくつもの重要な役割を果たしてきた」と語るケイ氏

―特別報告者と政府の対立もあり、日本では国連そのものへの不信感が高まっているように感じられますが。

ケイ 国連は日本の安全保障、あるいは日本が持つ価値観にとって、いくつも重要な役割を果たしています。北朝鮮による拉致問題についての報告書がその好例でしょう。

日本政府には、日本の人々が国連への信頼を損なわないよう、報告書について異論を言いすぎないようにお願いしたい。これはとても重要なことです。特別報告者はその専門性をもって国連人権理事会から任命され、それぞれが任務を真剣に受け止めています。

国連への不信感が高まることで、人権調査の性質が損なわれることになれば、人権を強化するために尽力している日本の市民の努力が無駄になってしまいます。

―最後に、国連特別報告者の存在意義とは?

ケイ 私の場合は、表現の自由が世界中どこにおいても成熟し、確保されることを目標としています。独裁主義国とは違い、日本のような民主主義国に着目する理由は、表現の自由や知る権利を保障することで、日本がより成熟した民主主義国家として世界をリードするように促すためです。

報告書でも触れていますが、日本は他国と比べて、インターネットにおける表現の自由は広く保障されています。日本は世界におけるインターネット規制の議論に参加し、日本が検閲を禁止する制度をどう維持しているかなどを説明するべきです。

そして、日本政府が私の勧告に異を唱え、メディアの独立性は十分に保障されていると言うのならば、メディアが積極的に汚職や権力濫用を追及することを政府自ら促してほしいと思います。

(取材・文/松元千枝 撮影/本田雄士)

●デービッド・ケイ米国カリフォルニア州ロサンゼルス出身。カリフォルニア大学アーバイン校教授(国際人権法、国際人道法)。2014年8月、「言論の自由・表現の自由」に関する国連特別報告者に就任。2016年4月、日本政府からの公式招聘を受け訪日。その調査報告書を今年5月に公開し、6月12日の国連人権理事会で公式に発表