外務大臣に就任した河野太郎氏に単独インタビューを申し込みたいと語る「フェニックステレビ」東京支局長の李淼氏

安倍首相が「結果本位の仕事人内閣」と述べた改造内閣には、稲田前防衛相や金田前法相らの教訓からか、閣僚経験者の入閣が目立った。

中国メディアはこの改造内閣、とりわけ“知中派”と言われた河野洋平氏の息子、河野太郎氏の外相就任をどう見ているのか?

「週プレ外国人記者クラブ」第89回は、香港を拠点にする中国唯一の民間放送局「フェニックステレビ」東京支局長の李淼(リ・ミャオ)氏に話を聞いた――。

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─8月3日、「第3次安倍第3次改造内閣」が発足しました。一般的な日本人の感覚から言えば、たいして大物でもない政治家を入れ替えただけなのに大手メディアの扱いが大袈裟すぎる気もしますが、中国ではニュースになりましたか?

 もちろん、中国でも報道されました。ただし、それがどういう視点での報道だったかと言うと、以前、森友学園問題についてこのコラムで論じた時と同様に、中国が注目しているのは「安倍首相が政権を維持できるか?」という点です。今回の内閣改造は果たして「支持率の回復につながるか?」という焦点に絞って中国では報道されていました。

そういった視点で組閣から閣僚人事の発表といった一連の動きを観察して、今回、特に興味深かったのは、閣僚の顔ぶれを発表した記者会見での安倍首相の発言内容です。会見の司会者が「只今から安倍内閣総理大臣の記者会見を行ないます。始めに総理から発言がございます」と前置きして、安倍首相は閣僚人事を発表する席でまず陳謝したのです。

「先の国会で森友学園問題・加計学園問題・防衛省の日報問題などを指摘され、国民から大きな不信を招く結果となったこと」にお詫びを述べたのですが、極めて異例な記者会見だったと思います。

新たな内閣を発表する場で、安倍首相はまず陳謝した。つまり、それだけ支持率の低下を深刻に受け止めていることを顕著に示す記者会見だったと受け止めています。そういった姿勢は閣僚の顔ぶれにも表れていると見ることができます。

自民党総裁の座に対する野心を隠さず、次の総裁選でも対立候補になる可能性がある野田聖子氏を総務大臣に起用し、外務大臣にはこれまで政権と距離を保ってきた河野太郎氏を起用しました。ひと言で表現するなら、「お友だち人事」と言われてきたこれまでの安倍内閣とは正反対の姿勢を示す狙いを持った内閣改造だったと言えるでしょう。

─河野太郎氏については、かつて「河野談話」を発表した河野洋平元外務大臣の息子ということで中国では特に注目度が高かったのでは?

 仰る通りで、中国では河野洋平氏の知名度は非常に高い。それは彼が河野談話によって日本の戦争責任に深く言及したからで、その息子である河野太郎氏も親中派の政治家として広く知られています。

実は、河野太郎外相は“中国版Twitter”として知られる「微博(ウェイボー)」にアカウントを持っていて、過去に4千回近くも更新しています。そういった背景もあり、中国メディア『環球時報』は河野太郎氏が安倍内閣の外相に就任したことを「タカにハトの羽をつけた」という表現で伝えました。しかし私は、この見方はあまりに表面的だと思います。

単純にハト派と色分けするのは表面的過ぎる

─産経新聞も河野太郎氏の外相就任には河野談話を覆したいという安倍首相の狙いがあると伝えていました。つまり、息子である河野太郎氏ならば、外相として河野談話を覆せるのではないか、と。

 河野談話については、安倍首相は過去に「見直しは考えていない」と発言しています。また、河野太郎氏も外相就任の記者会見で2015年に安倍首相が発表した「戦後70年談話」につけ加えることはないと発言しています。

私がタカ派の安倍内閣にハト派の河野太郎外相が入ったといった表現を安易なものに感じたのは、現在の政界はそのようにひと言でタカ派・ハト派と色分けできるほど単純ではないと考えているからです。

確かに中国との関係に関して言えば、過去に河野太郎氏は公式ブログで「日中関係を良好に保ち…」といった発言をしています。このことだけを取り上げればハト派と見ることも可能でしょう。脱原発など安倍政権の基本的なスタンスと異なる主張も少なくありません。しかし一方で集団的自衛権に関しては、2014年の閣議決定で新たな憲法解釈が示され行使が容認される以前から「認めるべきだ」という発言をしています。

私は『共謀者たち 政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊』(講談社・牧野洋との共著)をはじめ河野太郎外相の著書を何冊か読みましたが、やはり彼を単純にハト派と色分けすることはできないと思います。

─外務省で開かれた河野太郎大臣の就任記者会見は、李さんも取材されたんですね?

 これまでも新内閣発足の際の記者会見は何度も取材していますが、今回の外務省での会見はまず河野大臣の就任が決まってから時間を置かずにすぐ開かれたという点で、過去と比べて異例の印象を受けました。過去の新大臣就任の会見では、組閣人事が確定してからも私たち報道陣は会見場で2時間程度待たされるのが普通でしたが、今回の河野外相は本当に“直後”と言っていいタイミングでカメラの前に姿を現しました。

また入閣以前も河野太郎氏には、例えば原発問題などで「自分の言葉で語る政治家」というイメージを持っていましたが、今回の就任会見でも官僚の用意した原稿を読み上げるのではなく、外交政策の基本方針を語り始めたのが印象的でした。

ただし、私が日中間にある「尖閣諸島の領有権問題について」「その他、どのような課題があると認識しているか」「中国・韓国との関係について、どのような見識で臨むか」といった内容の質問をすると、やや歯切れが悪くなった印象を受けました。「歯切れが悪くなった」という表現が適切でなければ、それまで自分の言葉で具体的なヴィジョンを語っていた大臣が、個別の案件を持ち出された途端に抽象的な一般論を語り始めた…と言えばいいでしょうか。

私の質問に対する河野外相の答えは、まず「近隣諸国と友好関係を築いていこうという時にどのような問題があるかを最初に考えるのではなく、どのような未来を作っていくかを考えるべきだ」という言葉から始められたのです。

日中国交正常化以来、最悪の状況を象徴

─しかし、本来は「まず、今ある課題を解決した先に未来がある」というのが、具体的な外交の考え方かもしれないですよね。

 この質問に対する応対から私が感じたのは「ひとりの政治家・河野太郎と、安倍内閣の閣僚の一員という立場を使い分けようとしている?」という印象です。もしそうだとすれば、過去の“ひとりの政治家・河野太郎”としての発言と今後の閣僚としての言動に矛盾が生じる危険もあると感じました。こういった点を考えても、河野外相を単純にハト派と色分けするのは表面的過ぎると私は思うのですが、就任直後の中国での反応は概(おおむ)ね好意的なものでした。

─その後、8月7日にフィリピンで開催されたASEAN関連外相会議で中国の王毅外相と河野太郎外相の会談がありました。

 はい。この会談を機に中国での好反応が大きく揺らいだと言っていいでしょう。中国の南シナ海でのガス田開発などに対して、河野外相は厳しい姿勢を示しました。これに対し王毅外相は「失望した」と発言し、それを中国メディアも一斉に報道しました。中国の人々の反応は「王毅外相、よく言ってくれた!」というものでした。私としては、そもそも河野外相をハト派と色分けすることに疑問を感じていたので失望はありませんが、今後さらに注視を続ける必要があると考えています。

今年2017年は、1972年の日中国交正常化から45周年に当たります。しかし、外務省はロゴマークまで作って自治体などに周年事業の開催を呼びかけてはいるものの、私の知る範囲では政府間レベルの大規模な祝賀イベントは特に予定されていません。「日中国交正常化以来、最悪の状況」と言える、今の両国の関係を象徴する現象かもしれません。ぜひ、河野外相に単独インタビューを申し込もうと考えています。

(取材・文/田中茂朗)

●李淼(リ・ミャオ)中国吉林省出身。1997年に来日し、慶應大学大学院に入学。故小島朋之教授のもとで国際関係論を学ぶ。2007年にフェニックステレビの東京支局を立ち上げ支局長に就任。日本の情報、特に外交・安全保障の問題を中心に精力的な報道を続ける