「北朝鮮核ミサイル問題」に日本はどう対応するべきか? 内田樹氏(右)×姜尚中氏が緊急トーク! 「北朝鮮核ミサイル問題」に日本はどう対応するべきか? 内田樹氏(右)×姜尚中氏が緊急トーク!

アメリカ本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射と核実験で、国際社会への挑発行為を繰り返す北朝鮮。

日本では「Jアラート」が鳴り響き、憲法改正どころか日本の「核武装論」まで飛び出している。北朝鮮情勢はこの先、どんな展開を見せるのか? 

新刊『アジア辺境論』(集英社新書)の著者、内田樹(たつる)氏と姜尚中(カン・サンジュン)氏が、この緊急課題に立ち向かったトークショー(9月19日)の模様をお届けする!

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内田 最近、北朝鮮関連で一番驚いたのが、アメリカの国際政治専門誌『フォーリン・アフェアーズ・リポート』が9月号に「金正恩というのはなかなかの人物だ」と書いてあったことです。

あれがアメリカ企業のCEOだったら、アメリカ人は拍手喝采するはずだというんですね。優れたCEOの条件は、「この企業は何を実現するために存在するのか」というビジョンが明確で、そのガイドラインを明示し、実現を妨げるものは手段を選ばずに排除する。

北朝鮮の場合は、経済成長と核武装が国家目標として明確に示されており、この目標に向けて脇目も振らずに驀進(ばくしん)している。あれほどリソースの乏しい国が、今や国際政治のキープレイヤーになって、世界最強国相手に「五分の喧嘩(けんか)」をしているように見せている。金正恩が北朝鮮の最高指導者ではなく、アメリカの一企業家であったらアメリカ人は絶賛するだろうとやや皮肉な筆致で書かれていた。

確かに金正恩のやり方には規則性があります。彼なりの合理性と一貫性がある。だから、そのロジックを理解できれば相手がどこまで突っ張るか、どこで手を打つつもりかは予測可能だという。

メディアが言い立てる「金正恩政権は崩壊間近」だというのは希望的観測にすぎず、金正恩は過去6年間統治に成功してきており、政権は長期的に存続すると思われると記事は結んでいました。まず日本の新聞では読むことのできない記事だと感心しました。

 僕もその記事は読みました。「刈り上げ」の独裁者は残忍極まりないでしょうが、クレイジーではないし、ある部分、狡猾(こうかつ)に動いていますね。日本でそうしたリポートを発表したら、ツイッターが大炎上でしょうね。

内田 永久凍結されちゃうんじゃないですか(笑)。『フォーリン・アフェアーズ』にちょっと手触りの変わった記事が出るときは、どうも政治状況に「潮目の変化」が出てきたときだという印象が僕にはするんです。だから、僕はこの記事を見て、「アメリカは水面下で米朝交渉を進める気だな」という気がした。

金正恩体制崩壊による最悪シナリオとは?

 僕も現実的に考えるとアメリカは今、戦争に耐えられないと思います。実際に戦争となれば韓国だけでなく、当然、米軍基地のある日本やグアムは北朝鮮の攻撃対象になる。沖縄はもちろん、日本のすべての米軍基地がミサイルの標的になるでしょう。

現在、韓国に暮らすアメリカ人の数は在韓米軍とその家族も含めて約20万人、在日アメリカ人は民間人と軍人合わせて約10万人だと思います。朝鮮半島有事になれば日韓で30万人ものアメリカ人の命を危険にさらすことになる。そう考えるとアメリカの先制攻撃はまずありえないと思っていたんですね。なぜなら、この人々を退避させるにはかなりの時間が必要で、その動きは北朝鮮に悟られてしまう。

しかし、これはある歴史家の方が言っていたのですが、もし軍事衝突となった場合、唯一の方法は「日本海海戦」だと。アメリカの潜水艦がある日突然、日本海からミサイルを発射して平壌(ピョンヤン)に奇襲攻撃をかける。北朝鮮の首脳陣が集まる場所を見つけ出して、そこを一挙にという……。

内田 でも、平壌にミサイルを撃つといっても、北朝鮮のミサイル基地を一瞬のうちにすべて破壊するのは不可能でしょう。残された連中はやけくそで「アメリカと刺し違えて死ぬなら本望だ」と核ミサイルを撃つ可能性がある。米本土まで飛ばすのが難しいなら狙うのは米海兵隊の基地がある沖縄でしょう。

先日、ブログに「米朝戦争のあと」というコラムを書いたんですが、仮にアメリカの軍事オプションが成功し、反撃されることなく金正恩を政権の座から追い払ったとして、そのあと何が起きるのか?

最悪のシナリオとして考えられるのは、軍閥がミサイルをもって国内に割拠し、それぞれ中国、ロシア、アメリカ、韓国がバックについて代理戦争が始まること。かつての朝鮮戦争やベトナム戦争の再演です。半島の住民が一番苦しむのはこのシナリオでしょう。金正恩がどれほど極悪非道な独裁者であっても、とりあえず国内は統治されている。

でも、行政機構や軍隊を解体してしまうと北朝鮮国内はコントロール不能になる。イラクの場合、かつてのフセイン政権下の共和国防衛隊7万人の軍人や行政府高官たちはISに流れ込み、その中核を担った。朝鮮人民軍は現役が120万人、予備役470万人、労農赤衛隊350万人、保安部隊20万人、総計で1000万人近い軍人・兵役経験者がいる。

北朝鮮の兵役期間は11年。現役の軍人以外に、人を殺す技術を習得していてイデオロギー的な洗脳を受けてきた人たちが1000万単位でいるわけです。この旧軍人たちが流民化して四方の国に散らばっていった場合のリスクを、誰も真剣に考えていません。

★後編⇒内田樹×姜尚中が北朝鮮問題での官邸の思惑を読み解くーー不愉快でも隣人との共生の道を探るべき

●内田樹(うちだ・たつる 神戸女学院大学名誉教授、思想家。1950年生まれ、東京都出身。近著に『聖地巡礼 コンティニュード 対馬紀行』(東京書籍、共著)、『街場の天皇論』(東洋経済新報社、10月6日発売予定)など

●姜尚中(カン・サンジュン) 東京大学名誉教授。1950年生まれ、熊本県出身。近著に、内田氏との共著『世界「最終」戦争論』(集英社新書)、『国家のエゴ』(朝日新書、共著)、『見抜く力』(毎日新聞出版)など

『アジア辺境論 これが日本の生きる道』 (集英社新書/740円)