『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、自民党がやっている日本の"延命治療"について語る!
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前回配信記事の最後で、自民党がこれまでやってきたこと、そして今回の衆院選で掲げた公約の多くは、日本の現状を打開する本質的な施策ではなく"延命治療"にすぎない、と述べました。その点についてもう少し掘り下げてみましょう。
例えば、「消費増税分を子育て支援に回す」という話。もちろんやらないよりはやったほうがいいでしょう。ただ、実際には少子化問題の構造は相当複雑かつ深刻です。あえて厳しい言い方をしますが、皆さん、本当にこの程度のことで「子供を産みやすくなる」「少子化は解決へ向かう」と思いますか?
あるいは、「自衛隊を憲法9条に書き加えるだけ」の消極的な改憲案もそうです。自衛隊の存在を憲法で認めるかどうかという、外国から見ればまったくわけがわからない議論に終止符を打つことにはひとつの意味があるのかもしれませんが、それで何かが打開できるわけでもない。あくまでも現状を追認しましょう、というだけの話にすぎません。
つまり自民党は「国難突破」と言いながらも、提示しているのは「現状維持案」なのです。今日と同じ明日が永遠に続いてほしい、という切なる(しかし現実的ではない)願いを抱く人々に向かって、「これだけは食べましょうね」と説得しながら、元の形がわからなくなるほど煮込み、栄養価も大半が失われた流動食を与えているようなものでしょう。
では、それに対して野党は何を国民に提示したかといえば、残念ながら突き詰めれば「反安倍」という点で熱くなっていただけでした。
リアリズムのなかった選挙戦
例えば、日本を取り巻く経済的問題は、まずグローバリズムによる世界的な格差の拡大があり、そこに少子化が加わって複雑化している、というのが基本線のはずです。これは安倍政権がいいとか悪いとかいう類いの問題ではない。また憲法改正の議論にしても、その背景には北朝鮮問題や中国の軍拡という地政学的な変化があるのに、立憲民主党は「安倍政権には改憲させるな」という奇妙な論陣を張るばかりでした。
安倍首相を嫌うのは構いませんが、「安倍政権のせいで日本社会が悪化している」と言うのは、率直に言えば『ドン・キホーテ』の風車に向かって突撃する主人公のようなものです。こんな物言いでもし政権交代を実現したとしても、安倍政権に不満を抱く人々が幸せになるような社会を実現できるはずがありません(首相が安倍さんではなくなっただけで幸せを感じる人はいると思いますが、その幸せは長続きしません)。
与党も野党もそんな状態ですから、選挙戦で小泉進次郎氏の言動があれだけ注目されたのも無理はありません。マスコミの追及から逃げる安倍首相と、ある程度本音を言う(少なくともそう見える)自分をコントラストさせて、"党内野党"的な立ち位置を確保していますから。
「格差? 縮まりっこありませんよ。少子化? もう移民しかありませんね。戦争? まあ、この時代ですから起きるかもしれませんね」
このくらい「現実的」なことを言って議論を焚(た)きつけるニュータイプの政治家が出てきたら、たとえそれが筋金入りのポピュリストだとしても、日本社会は一気に揺さぶられてしまうのではないか。そう思えるほどリアリズムのない選挙戦でした。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。10月より日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論煽動の時代を生き抜け』が好評発売中!!!!