北朝鮮との戦争は遠ざかりつつある、その理由とは? 鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が分析する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

昨年12月、ノーベル平和賞をICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が受賞したが、自民党は核廃絶に後ろ向きの姿勢を維持している。しかし、ICANが公明党の支持母体である創価学会と密接な関係にあることはほとんど知られていない(前編参照)。

今回の受賞を機に自民党も変わるしかない、と佐藤氏は語るが、今後の北朝鮮との関係、そして日本の「核廃絶」への動きの行方はーー?

* * *

佐藤 「核廃絶」の動きはアメリカから出てくるでしょう。今のアメリカには、中東と北朝鮮を相手にした二正面作戦の全面戦争を戦う力はありません。すると、中東情勢がひどくなれば、北朝鮮とは手を握らざるをえなくなります。これは、中東の人々には申し訳ないけど、われわれ日本にとってはラッキーなことです。

というのも、分析家として率直に言わせていただくと、朝鮮半島で戦争が起きれば200万人が死ぬと想定されています。もし核兵器が使用されれば、その数は1千万人を超える。日本国内でも数千人単位で死者は出ます。しかしその戦争は今、遠ざかりつつあります。

その一方で、中東情勢は悪化しつつあります。昨年の12月6日にアメリカのトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と正式に認め、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移設するよう、国務省に指示をしました。これでフェーズが変わった。

ただし、この件においてトランプ大統領は「法的」には特に新しいことをしていません。というのも、アメリカの議会ではユダヤロビーが強いため、すでに1995年10月の連邦議会では「イスラエルの首都はエルサレムです」と議決しているんです。つまり、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移設することは法律ですでに決まっている。しかし歴代の大統領は「これを実行すれば戦争になる」と考え、半年延期するという大統領令を今までずっと出し続けてきたわけです。

トランプ大統領も2017年6月には同様の大統領令を出していました。しかし、12月はその大統領令を出さず、「ゲームチェンジだ」と言ってエルサレムを首都に認定したのです。

そして、その「ゲームチェンジ」の理由は、中東ではなく別の場所にあります。

鈴木 それはどこですか?

佐藤 アメリカ国内です。昨年の12月1日、フリン前大統領補佐官が、ワシントン連邦地裁に出て「FBI捜査官に嘘の証言をした」と、自分の罪を特別検察官に対して認めました。その代わりに、フリンは自分の脱税と、会社を継がせた自分の息子には手をつけないという司法取引をしています。

この司法取引によって、フリンはロシアゲートに関して特別検察官に証言することになったわけです(*編集部注:アメリカ大統領選挙中、トランプはロシアに、自分にとって有利になる情報工作するように頼んだといわれる。フリンは、大統領選挙後の2016年12月に当時の駐米ロシア大使と接触し、この問題について協議したとの疑惑がある)。

すると、トランプはどうするか? 歯が痛いときに足の親指が切れるくらいのケガをしたら、歯の痛みなんか忘れる。だから、中東でエルサレムを首都にすればフリンの話なんて吹き飛ぶと考えたわけです。事実、アメリカは中東のニュースでいっぱいになりました。トランプのゲームチェンジは中東ではなく、自分の置かれている環境のためだったのです。しかし、これがうまくいかなかった。

「核廃絶」への動きも、日本で強まる?

■エルサレム認定の重すぎる代償

鈴木 どうなったのですか。

佐藤 トランプは、中東でデモが起きる程度だと思っていました。しかし、現実は思ったより大変なことになったのです。

まず、ロシアのプーチン大統領がこの隙を縫って、シリア、トルコ、エジプトとの関係を強化。トルコのエルドアン大統領は「イスラエルは侵略国だ。パレスチナの首都は東エルサレムだから、そこにわが国は大使館をつくる」と大演説をした。

中東で次々と導火線に火がついて、トランプはどんどんそちらに振り向かざるをえなくなっています。そして、アラブ諸国は強国イスラエルを相手に負け戦はしたくないため、その代わりに非対称戦を仕掛けてきます。つまり、インティファーダ(イスラエルの占領に対するパレスチナ人の抗議運動)では投石を中心とした反イスラエル闘争が起き、ハマスはロケット攻撃や自爆テロを実行する。

そして、アフリカやヨーロッパにあるアメリカ大使館、総領事館にISの残党を含め、イスラム過激派がテロ攻撃を仕掛けてくる。今後、アメリカは全世界の大使館や領事館で起きるテロ攻撃と、国内でのテロ、さらには中東での混乱の対応で北朝鮮どころではなくなります。

そして北朝鮮は、アメリカ自らが生んだこの隙を最大限に利用してくるでしょう。金正恩は12月1日のエルサレム首都認定を事前には知らなかったと思いますが、11月29日に火星15号を発射している。推定射程1万3千km、ワシントンまで届く能力を持っています。

しかし、CNNの報道によると、大気圏に再突入した際に火星15号の弾頭はバラバラになっています。つまり、北朝鮮のミサイル弾頭の大気圏再突入技術は、今は未完成であり、アメリカとしてはこれが完成する前に北朝鮮と手を打つことを考えているでしょう。

このように「対話と妥協」も重要なキーワードになってきます。まずはアメリカと北朝鮮の間で始まりますが、やがて日本もそれに続かなければならなくなる。そして、冒頭に申し上げた「核廃絶」への動きも、日本で強まるとみています。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。昨年、公民権が7年ぶりに回復し、衆院選に出馬。衆議院議員の鈴木貴子は長女

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として精力的に活動中

■東京大地塾毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室で行なわれる新党大地主催による国政・国際情勢などに関する分析・講演会。参加費無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人前後の聴衆が集まる大盛況ぶりを見せる。詳しくは新党大地の公式ホームページへ