『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、就任から1年が経ったトランプ大統領の支持率が史上最低の中、熱狂的に支持している層について語る。
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トランプ米大統領の就任から1年がち経ちました。彼は2016年の大統領選からずっとアメリカ社会の分断を煽(あお)り続け、主要メディアとの対立も深まるばかり。
つい先日には政権の内幕を綴(つづ)った暴露本『Fire and Fury』が出版され、その中でセンセーショナルな告発を行なっているスティーブ・バノン前主席戦略官が連邦大陪審に召喚されたことが報じられるなど、"ロシア疑惑"も終わりそうもありません。政策面でも富裕層優遇の大型減税は決めたものの、労働者層へのボーナスになるはずの超大型インフラ投資の話が進む気配は見えません。
そんなトランプ大統領の就任1年後の支持率は、調査主体にもよりますがおおよそ30%台後半。同時期としては(比較可能な統計のなかでは)史上最低の数字ですが、それでも、まだ以前と変わりなく熱狂的に支持している層ーーその多くは現代社会から取り残された"忘れられた人々=白人労働者層"ーーがいます。
現実的に考えて、トランプ政権が彼らを救ってくれる見込みはありません。では、いったい何が彼らを駆り立てているのか? 「物語」というのがひとつのキーワードになると僕は考えています。
ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ロバート・シラーは、「人間の脳はnarrative=物語を強く欲する」と指摘し、この点を突いたトランプの出現を"revolution=革命"と評しています。僕なりに解釈するなら、トランプは白人労働者層に対し、自分たち自身を誇らしく思えるような"物語"を提供し、そこから生まれる熱狂を支持基盤にしているということです。
トランプや彼を支援する一部のメディアは、ほかの主要メディアが報じる現実そのものを遮断し、支持者たちが信じたい"alternative fact=もうひとつの現実"を提供し続けています。特にトランプはツイッターを使い、メディアの報道をバイパスして直接語りかける。悪いのは移民だ、非白人よりも白人を経済的に優遇しろ。その言葉を聞く支持者は"自分が主役"だと思い込み、どこまでも現実逃避していく...。
経済的なトリクルダウンはこの後も起きません
この手法の最大の問題点は、アメリカ社会の強みだったはずの「議論」が成り立たなくなっていくことです。(ロシアの関与をとりあえず脇に置いておけば)投票という民主的行動によって選ばれた大統領が、じっくり時間をかけて民主的な政治や社会を破壊しているーーこれは将来に禍根を残すことになるでしょう。
おそらく、トランプ支持者が期待している経済的なトリクルダウンはこの後も起きません。「偉大なアメリカが戻ってくる!」などとトランプがいくら吠(ほ)えてみたところで、そもそも現在のアメリカは格差を解消できる社会構造になっていません。今秋の中間選挙は、このままいけば上院下院とも民主党が多数派となり、(もしトランプが弾劾されたり大統領を辞任しなければ)現政権の残り2年はさらに実りの少ない"妥協の政治"が続くことになります。
そんななか、現実を無視したまま膨らんだ支持者たちの期待がやがて泡のように消えたときーー後に残るのは火がついた差別意識と破壊衝動だけです。トランプ大統領の"遺産"は将来にわたり、米社会を苦しめ続けることになるのかもしれません。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。10月より日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。
■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(小社刊)が好評発売中!