ヒップホップが政府によって"抹殺"された――。どこの独裁国の話かと思えば、これは今や超大国となった中国の話。背後には、もはや隠し切れない「世界制覇」への野望が...!
『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る!
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中国政府がヒップホップアーティストのテレビ出演の全面禁止を通達――。1月下旬、こんなニュースが話題となりました。報道によれば、中国当局は「入れ墨のある芸能人、ヒップホップ文化、不健全な文化は番組で扱わない」ことを求め、国営メディアも"ヒップホップ叩き"を強化。ある大物ラッパーは「リリックが低俗だった」と公開懺悔(ざんげ)を強いられました。
中国では昨年6月からラップバトル番組『The Rap of China』がオンライン上でスタートし、最初のシーズンで視聴者数のべ30億人を記録。今最も勢いのある大衆娯楽が突然、お上によって抹消されたわけです。
言うまでもなく、これは習近平政権による一種の言論統制の強化です。中国ではAIによる人民監視も相当進んでいますから、今後はヒップホップに限らず、少しでも「反体制をにおわせる」「社会風紀を乱す」と判断されうる文化は逐一チェックされるでしょう。まるで昭和日本の風紀係の先生が女子生徒のスカートの丈を測って回るような異様な"管理"を、最新技術を駆使し、13億人超に対してやろうとしているわけです。
もっとも、共産党政権は締めつけを強化するのみならず、巧みに人民の心を掌握しています。その象徴が昨年公開され、中国の興行収入記録を更新したアクション映画『戦狼2』。内戦下にあるアフリカの架空の国を舞台に、人民解放軍の元特殊部隊員である主人公が、現地に取り残された同胞を救う物語です。映画の最後には中国のパスポートが大写しになり、「海外で危険に遭っても必ず助けてくれるから希望を捨てないで」とメッセージが流れる――露骨なプロパガンダです。
ただし、見逃せないのは従来のプロパガンダとの方向性の違いです。かつての中国のプロパガンダ映画は、どこかに"被害者としての視点"が落とし込まれていた。加害者は時に欧米であり、時に日本であり...と様々ですが、「ヤツらのせいでわれわれはここまで落とされた」「もっと自信を取り戻そう」という文脈があったわけです。
ところが、今や経済的にも地政学的にも大きな影響力を持つ正真正銘の大国となった中国は、もはや被害者視点を持つ必要がなくなりました。日本なんて目ではない。アメリカでさえ急激に弱体化している。世界の中心は中国になっていくのだ――と。
『戦狼2』の根底にあるのは、一帯一路構想の延長にある"中国的帝国主義"のナショナリズム。そしてもちろん、中国のそうした野望は海外にも着実に広がっています。
★この続き、後編は明日配信予定!
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日本テレビ)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)、『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)などレギュラー・準レギュラー出演多数。
■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(小社刊)が好評発売中!