鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が米朝首脳の動向を分析する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

連日、国会とお茶の間は森友問題で持ち切り状態…。そんななか、確実に現実味を帯びてきているのが、アメリカと北朝鮮の首脳会談、そして韓国と北朝鮮による南北首脳会談だ。

トランプと金正恩が手を打てば、予期せぬことが起こりうると佐藤氏は警告する。

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鈴木 今回のテーマは、南北首脳会談と米朝首脳会談です。

それにしても、世界が大きな動きを見せているときに、日本だけがドメスティックで重箱の隅をつつくような議論ばかりしていると思うんです。外交や国防などといった、もっと大きなテーマがあるわけですからね、骨太の議論をしてほしいなと、こんなふうに思っております。

それでは佐藤さん、よろしくお願いします。

佐藤 はい。まず、南北首脳会談と米朝首脳会談は分けて考える必要があります。南北会談は、大してインパクトのある話ではない。重要なのは、今までの北の指導者は平壌(ピョンヤン)まで来るよう命じていたのに、金正恩(キムジョンウン)は板門店(はんもんてん)の38度線の南側にある韓国側の施設「平和の家」で会談をやるということです。

自分のほうから挨拶に行く姿勢を取ったことは、政治家としてはなかなかのものだよね。おそらくは「韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は金正恩委員長より年上ですから、年長者に対して礼を尽くすのは朝鮮民族として当然のことであります」という考えでしょう。すると韓国内では、北の委員長は礼儀正しいと評価される。こうして南北融和が始まります。

続いて米朝会談についてですが、今回の北朝鮮の意思決定に、日米などによる圧力はそれほど効果を与えていないとみていい。圧力で音を上げて対話を欲したのではなくて、前々から普通に対話を望んでいた。そこに、今まで食らいつかなかったアメリカが食らいついたということです。北朝鮮は、トランプの「何かをやりたくてしょうがない」という意思をうまく読んだと思います。

でも、普通の外交の文法だと、この状況でトランプが会談に乗ってくるということはまずない。普通なら、韓国の代表団の話を聞いて「ちょっと考えさせてくれ」と言って、それで放ったらかしにする。ところが、米朝会談に乗ってきたということは、トランプは何も考えていない。ゆえに、予測不能だったわけです。

そして問題は、この会談を韓国がセッティングしたということです。安倍さんとはうんと親しいはずのトランプが、北朝鮮との会談をセッティングする際に日本と相談をせず、韓国とやった。これは、日本の外務省の判断におごりがあったとしか言いようがありません。

外務省は「韓国の文在寅政権は反米政権だから、トランプに近寄れるはずがない。東アジアで、日本よりもアメリカに近寄れる国はない。トランプ政権と日本の関係は盤石だから、心配しなくていい」と頭から決めていたんでしょう。ところが、韓国は独自のルートを使ってトランプの側近にがっつり食い込んでいたわけです。

そして、トランプが米朝会談のことを自分のツイッターで発信する前に、韓国の代表がマスコミの前でそのことをしゃべったでしょ? これはすごく重要なことなんです。ストレートに公表すると周囲に悪い影響が及ぶような場合に、こういうやり方をすることがあります。

2001年のアメリカ同時多発テロの後に、親露国家であるタジキスタンの軍事基地をアメリカに貸し出すかどうかという交渉のときもそうでした。当時のラフモン大統領は、自らの決断で、アメリカ軍に基地を貸し出そうとしたのですが、そのときに、日本政府の特使として赴いていた鈴木先生が「私のほうから記者団に話していいですか」と言い、ぶら下がり会見で発表した。このことは、AP通信もロイターも、各国の新聞も大きく取り上げました。

どういうことかというと、ラフモンはアメリカに基地を貸し出すことで、ロシアとの関係を気にしていたわけです。だからロシアとの関係が良好な鈴木先生に話をしてもらってから、自らも話すということをやった。

トランプも、韓国を味方につけないといけないから、「アメリカは韓国と綿密にやっていますよ」ということを示すために、韓国に先に言わせたわけです。しかしこれは、日本にとって大変な外交敗北を意味します。

★後編⇒北朝鮮が親米国家になる日ーー森友問題で大騒ぎする間に進行する“恐ろしいシナリオ”

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。昨年公民権が7年ぶりに回復し、衆院選に出馬。衆議院議員の鈴木貴子氏は長女

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として精力的に活動中

■東京大地塾毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室で行なわれる新党大地主催による国政・国際情勢などに関する分析・講演会。参加費無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人前後の聴衆が集まる大盛況ぶりを見せる。次回は、4月26日(木)16時~。詳しくは新党大地の公式ホームページへ