「あらゆるパワーバランスが崩れ始めているなか、日本の政治は些末な議論に終始していていいのか」と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、イエスマン一色となりそうなトランプ政権の危うさについて語る!

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自分とソリの合わない人間は排除するーー「トランプらしい」と言えばそれまでですが、こうした動きが中長期的に見てアメリカの外交上の利益、そして国際社会の安定に及ぼす影響は計り知れません。

3月13日、トランプ大統領はティラーソン国務長官の更迭を発表。また、安全保障問題を担当するマクマスター大統領補佐官も4月9日付で解任した。イラン核合意や北朝鮮問題に関して、国際協調も見据えながらジワジワと状況をチューニングしていきたい"現実派"の彼らの声はトランプには受け入れられなかったのでしょう。

一方、次期国務長官に任命されたポンペオ前CIA長官は、中絶反対、LGBT反対、銃規制反対...という過激な右派。北朝鮮やイランに対しても強硬で、トランプへの"忠誠心"も高い人物です。また、マクマスターの後任となったボルトン元国連大使も、イランや北朝鮮の核問題について「先制攻撃論」を主張する強硬派。政権の暴走を食い止めるストッパーを外し、加速装置を取りつけるような人事です。

加えて一部報道では、ロシア疑惑への対応でトランプの不興を買っているセッションズ司法長官、トランプの言動を抑制してきたケリー大統領首席補佐官も解任の可能性が伝えられており、このままではホワイトハウスはイエスマン一色になります。

彼が重視するのはアメリカの長期的な利益や国際平和ではなく、直近の国内事情であり、ロシア疑惑の払拭(ふっしょく)であり、11月の中間選挙。極めて内向きの理由で、長年積み上げられてきたアメリカの"外交貯金"を取り崩そうとしているわけです。

もちろん、この動きは東アジアや中東でも新たな不安定要素となるでしょう。直接的な"戦争リスク"が上がるのみならず、アメリカのあらゆる外交決定が場当たり的になることが予想されるからです。

まともな反対意見を言う人間はもうホワイトハウスにはいない

例えば27日に行なわれる南北首脳会談で、韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が成果を焦るあまり、金正恩(キム・ジョンウン)委員長に対して「アメリカまで届く核ミサイルを放棄するなら、朝鮮半島からの将来的な米軍撤退に向けて規模縮小を検討する」などと勝手にハードルを下げたとします(その可能性はあると僕は思います)。

その後に予定されている米朝首脳会談では、トランプもこの危険な"取引"に乗ってしまいかねない。根本的にはなんの解決にもならず、日本や韓国にとっては大きなリスクとなり、安保同盟に危機が生じるとわかっていても、です。国内向けに「とりあえずの成果」を示せますし、まともな反対意見を言う人間はもうホワイトハウスにはいませんから。

また、トランプが主張するようにイラン核合意をアメリカが破棄すれば、イランは間違いなく核開発を再開します。北朝鮮はすかさず技術を提供し、見返りにイランから燃料の提供を受けるでしょう。そうなればサウジアラビアも核保有に動き、中東情勢は液状化する。そして当然、燃料を得た北朝鮮は水面下で軍事力強化へと邁進(まいしん)できるわけです。

あらゆるパワーバランスが崩れ始めているなか、日本の政治は(こう言っては悪いですが、国際社会から見れば間違いなく)些末(さまつ)な議論に終始していていいのか。僕はここ最近、そのような思いにとらわれています。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『けやきヒルズ・サタデー』(Abema TV)などレギュラー多数

■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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