今の時代、どんな国でもプロパガンダは知らぬ間に人々の心に寄生し、社会を蝕んでいくと語るモーリー氏。

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン

誰もが気軽に利用するSNS。そこから個人情報が抜かれ、詐欺に利用された…といっても今や驚きはないかもしれない。だが、その詐欺の中身が「政治」ーーそれも、国のトップを決める選挙だとしたら?

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■バノンが見いだしたゲイの天才分析家

皆さんはフェイスブック(以下、FB)で流れてくる“性格診断クイズ”に答えたことがありますか?

クリックすると外部アプリに飛び、無料で自分の性格を診断でき、その結果を共有して「いいね」を押し合うーーそんな楽しいお遊びは、世界中の人々に親しまれています。でも、もしその際、あなたや友達の個人情報がごっそり抜かれていたら? そして、それが政治を歪(ゆが)めることに使われていたら? …今回はそんなお話です。

2014年に開発されたある性格診断クイズを通じて収集された約5千万人分の個人情報が2016年の米大統領選でトランプ陣営のキャンペーンに使われていたことが判明しました。問題の本丸は、イギリスに本拠地を置くデータ分析企業「ケンブリッジ・アナリティカ社」(以下、CA社)。同社の創業メンバーのひとりであるデータサイエンティストのクリストファー・ワイリー氏が先日、内部告発を行なったのです。

ワイリー氏によると、クイズを作成したのは英ケンブリッジ大学の心理学者。回答した約27万人のデータと、そのFB上の「友達」の公開データ、合わせて5千万人分のデータが別の調査会社を通じてCA社に不正に売却され、フェイクニュースや選挙広告の“狙い撃ち”という形で米大統領選に活用されたといいます。「CA社は選挙結果をねじ曲げた」と言うに等しい、衝撃的な告発です。

報道によれば、カナダ出身のワイリー氏は現在28歳。ADHD(注意欠陥・多動性障害)と読書障害を持ち、ゲイということでいじめに遭うなど、少年時代はつらいことも多かったようです。

しかし頭脳は極めて明晰(めいせき)、というより天才的で、16歳で高校を自主退学した後、17歳でカナダ自由党のオフィスに入り、データサイエンスを学びつつ同党のネット戦略業務に従事。そして19歳からコーディングの独学を始め、20歳で英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに入学します。この頃から野党候補者のために、「正しいターゲットに正しいメッセージを送る」べくデータを使う試みを始めたそうです。

猛烈な勢いで成長する天才データサイエンティストに目をつけたのは、後にトランプ政権の上級顧問となるスティーブ・バノン(現在はすでに退任)。一般的に保守層はLBGTに冷たいものですが、ワイリー氏はバノンとジェンダー問題について長々と議論を交わし、彼を信頼してCA社の共同創業者になったといい、「ここまで自分のセクシャリティを人に話したことはなかった」とふり返ります。

極右メディア「ブライトバート・ニュース」の会長でもあったバノンは、ゲイの先進性やクリエーティビティを「政治的に利用しがいがある」として注目してきたフシがあります。彼の下で極右政治運動「オルト・ライト」を盛り上げたコラムニストのマイロ・ヤノプルスも、やはりゲイでした。若きワイリー氏にとって、自分の個性や才能を認められ、その“発明”を好きなだけ実験できる環境は極めて魅力的だったのでしょう。

今回の告発にあたり、ワイリー氏は“ゲイらしさ”を演出するため髪をピンクに染めました。これは一時的にとはいえ、アンチゲイの差別主義者の政権が誕生する手助けをしてしまったことに対する贖罪(しょくざい)意識の表れでしょうか。

どんな国でもプロパガンダは知らぬ間に人々の心に寄生し、社会を蝕んでいきます

■バカげた陰謀論でも「右の人」の心は動く

CA社は米大統領選のみならず、イギリスのBREXITを問う国民投票など複数の国の選挙で暗躍していたようですが、その戦略ははっきりしています。どんな手段を用いても人の心を動かし、大衆を扇動する―。

すべてはデータで解析され、実際に世論が動きました。ワイリー氏によれば、SNS上では「左のネタ」より「右のネタ」がよく飛び、どんなにバカげた陰謀論でも響くことがデータではっきりと示されたといいます。

注目すべきは、この戦略モデルがトランプの出馬以前に完成していたという事実です。つまり、バノンらは「大統領選に勝てるタマ」をデータから逆算して探し、それがたまたまトランプだったのかもしれない。もしそうであれば、勝ったのはトランプというよりバノンだったわけです。

もうひとつ重要なのがFBの責任です。そもそもFBがユーザー情報を第三者に受け渡さなければ起こりえない問題でした。しかし、FBのマーク・ザッカーバーグCEOは同社が不正使用を引き起こすような「間違いを犯した」ことは認めつつも、自分たちも被害者であるとのスタンスを崩しません。われわれは交流の場を提供しただけだ、今後はこうしたことが起こらぬよう善処する…。過去に何度も聞いた弁明ですが、大統領選への不正利用という今回の問題は極めて深刻で、今後は規制や処分の対象となる可能性も十分にあります。

ただし、フェイクニュースやプロパガンダへの対応という点では、今回問題視されているFBだけでなく、グーグルやツイッターなどもやはり不誠実だと言わざるをえません。先日、グーグルはニュースメディア企業を支援するため総額3億ドル(約316億円)を投資すると発表しましたが、この金額はグーグルが直近3ヵ月で稼いだ広告収入の約1%でしかありません。

今の時代、どんな国でもプロパガンダは知らぬ間に人々の心に寄生し、社会を蝕(むしば)んでいきます。そして今のところ、それに対抗できるのは個々の自己防衛でしかありません。

空気に流されないこと。気持ちいいニュースや言説を疑うこと。白か黒、敵か味方かという二元論に堕(お)ちないこと。日本においても当然、それは人ごとではありません。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『けやきヒルズ・サタデー』(Abema TV)などレギュラー多数。

■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!