『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、米新興右派メディア「プレイガーU」の正体について語る!
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少し前の話ですが、アメリカの超大物ラッパー、カニエ・ウエストが突然、トランプ大統領を称賛する発言をし、騒動となりました。カニエの不規則発言は珍しいことではないにせよ、最も成功している黒人アーティストのひとり(Twitterのフォロワー数は2800万以上)が人種差別発言を繰り返す大統領の応援団に回ったわけですから"ご乱心"と言っていいでしょう。
実は、この事件をここぞとばかり利用した勢力があります。『プレイガーU(ユニバーシティ)』という右派ウェブメディアが、公式インスタグラムでカニエの写真に「黒人が自分を犠牲者だと思うのは病気だ」というニュアンスのコピーをつけてアップし、広くシェアされたのです。
「プレイガーU」は、保守系ラジオ司会者デニス・プレイガーと、そのプロデューサーのアレン・エストリンが2009年に設立。資金を提供したのは、かつて極右政治家テッド・クルーズに多額の献金を行なっていた大富豪のウィルクス兄弟で、その潤沢な資金をもとに、「プレイガーU」はほかの極右メディアと一線を画す形でゆっくりと成長してきました。
主力は動画コンテンツで、"5分もらえれば1学期分の教養を与える"をモットーに、SNSフレンドリーなショートムービーを次々と製作。アメリカのフェイスブックユーザーの実に3分の1が、なんらかの形で「プレイガーU」のコンテンツをシェアした経験があるそうです。
1本の動画に約300万円の予算を投じているともいわれるだけあり、洗練されたアニメーションやデザインから受ける印象はマイルドですが、その結論や世界観は超保守的なものばかり。例えば、日本への原爆投下をテーマにした動画では、トルーマン大統領の判断の正当性について、都合のいい材料だけを集めて編集されています。
それなりに知識のある人が見れば、至る所に嘘やごまかしが紛れているとわかりますが、アメリカの若い学生が見たら「これが真実だ」と迷いなく受け入れてしまうケースも多いでしょう。
また、黒人差別の元凶が民主党にあると主張する動画も印象的です。民主党が歴史的に奴隷制を擁護してきたこと、白人至上主義団体KKKの創始者が民主党員であることなどを淡々と紹介していく。しかも、その解説役を務めるのが南部なまりの黒人女性の大学教授という"演出"つきです。
なお、彼女が紹介していることはどれも事実ですが、1948年に民主党から"黒人差別勢力"が分派して州権党となったこと、70年代以降はむしろ共和党が黒人差別を煽ってきたことなど、共和党にとっての"不都合な真実"にはまったく触れられていません。なんの予備知識もないまま動画を見れば、「差別の元凶はすべて民主党」という結論を受け入れてしまうようなつくりになっているわけです(この動画は400万回以上再生されています)。
歴史的事実を都合よくチェリーピッキングし、高密度の動画に編集することで、極右思想を拡散していく「プレイガーU」。下品な煽動(せんどう)や陰謀論に走らず、トランプを表立って応援することもなく、スマートなイメージを保つことでマジョリティへの浸透を狙っているようです。今後はこのメディアが、カニエのような"転身者"を増やしていくのでしょうか。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。
■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!