『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏。
北海道で設立された「古賀みらい塾」の塾長に就任した古賀氏が、公共事業に依存する道庁を危惧する。
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北海道の未来を考える「古賀みらい塾」が立ち上がったことは以前、このコラム欄でもお伝えした。その「古賀みらい塾」で講義をするため、6月中旬に札幌市へと向かった。
当日、塾に参加していた地元経済人の嘆きが記憶に残っている。その経済人によると、道庁が予算を100億円以上かけて新たな道議会庁舎の建設を始めるという。道議会開催は年に80日未満。
議員定数は101名だが、今後、人口減少が続けば定数削減も必要になる。道の財政は火の車だ。それにもかかわらずである。床面積は旧議会の1.5倍近くで、議員専用のエレベーターや喫煙室まで完備した豪華庁舎を造るという。
札幌市内の一般道と高速道路を連結させるために、1000億円規模の新規道路を建設する計画も進行中と聞いた。それで短縮できる高速道路への乗り入れ時間はわずか5分ほどという。
そんなくだらない公共事業に巨費を投じるくらいなら、北海道と本州をつなぐ送電線を増設するほうがずっと北海道経済の浮揚策になる。現状の細い送電線では大量の電気を本州に送れない。
北海道は自然エネルギーのポテンシャルが高い。送電線を増設して太くすれば、風力や太陽光で発電した電気を本土に売れる。その分、石油やガスの代金を節約し、しかも収入も得られる。増設工事にかかる金額はせいぜい数百億円ほどだろう。
庁舎新設と送電線の増設。どちらが北海道の経済にプラスになるかは小学生でもわかる。なのに、そうした戦略的選択ができないまま、中央がばらまく公共事業に頼ってしまう。
「みんな危機感がないんですよ。これでは地域の発展など夢ですね。前途は本当に厳しい」
この経済人はそう嘆いたのだ。
ただ、この劣化の原因を地方にだけ求めることはできない。むしろ元凶は"中央(国家)の劣化"にあるのではないか。世界に比べ、日本が競争力などで「周回遅れ」となっている現実を直視せず、改革に踏み切れずにいる。そもそも地方をダメにするバラマキ型公共事業に固執し、それで国家を維持しようとしているのが中央なのだ。もうひとつ、印象に残った言葉がある。札幌市に本拠を置く人材派遣会社の経営者は、日本の停滞ぶりをこう表現した。
「アジアの優秀な人材を日本の大企業に紹介しているのですが、なかなか難しい。働きたい都市を聞くと、1位はドバイ、2位シンガポール、3位香港、4位ソウルときて、5位にやっと東京が出てくる。優秀なアジア人材にとって、日本は魅力ある国ではなくなっているのです」
改革できず、公共事業のバラマキに走る中央。そしてそのバラマキへの依存度を高める地方。この「転落のスパイラル」をなんとか断ち切らないといけない。
来年春には統一地方選挙がある。そこで北海道の有権者にお願いしたいことがある。
中央の言いなりでなく、自らのアイデアとイニシアチブで地域再生の道筋を今こそ、描かなければならない。統一地方選はそのチャンスだ。「自立」した理念と北海道振興の政策を持つ首長や議員を大量に当選させてほしい。そうすれば、来年4月は北海道にとって地方創生元年となるはずだ。
統一地方選まであと9ヵ月。できるだけ北海道へと足を運び地域の人々と議論を深めたい。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中