廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」。日本の核燃料サイクル計画が事実上破綻した今、増えるプルトニウムをアメリカが懸念しているという 廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」。日本の核燃料サイクル計画が事実上破綻した今、増えるプルトニウムをアメリカが懸念しているという

「原発の是非は司法の役割を超えている」。7月4日、そんな判決で運転差し止めを求める原告側の控訴を棄却した、大飯原発訴訟が注目されている。

なぜ裁判所は判断を投げ出したのか? 国の原発政策に対して主体的な判断を避けたいという、「司法側の隠れた意図」を指摘した前編記事に続き、先日、更新された日米原子力協定との関わりにも踏み込んで徹底検証した!

■脱原発できないのはアメリカのせい?

今年、4年ぶりの見直しを受け、7月3日に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」でも、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけるなど、「脱原発」に向かう気配のない日本のエネルギー政策。

そんななか、裁判所が日本の安全保障や日米関係と密接に絡み合う「日米安保条約」や「在日米軍基地」に関する司法判断を放棄するだけでなく、「原発」まで"治外法権化"しようとしているように見えるのはなぜなのか?

そこにも、安保や基地と同じように、「アメリカの圧力」が存在するのだろうか?

「結論から言えば『日本が原発を止められないのは、アメリカのせいだ』という言説は事実ではありません」

と語るのは、シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の代表で、米軍基地問題や、使用済み核燃料の再処理など日米間の原子力協力について定めた「日米原子力協定」にも詳しい、弁護士の猿田佐世(さよ)氏だ。

「ここ数年、日本が原発を止められないのは『アメリカがそれを許さないから』とか、『日米原子力協定に縛られているせいだ』という声をよく耳にします。

確かに、アメリカには一部にリチャード・アーミテージ元国務副長官のような『知日派』と呼ばれる人たちがいて、福島原発の事故直後から外交シンクタンクなどを通じて、『日本は原発を維持すべきだ』という趣旨のレポートを出したりしているのは事実です」(猿田氏)

しかし、それは決して「アメリカの総意」ではないと猿田氏は言う。

「われわれが『アメリカの圧力』と思い込んでいるものは、日米の原子力産業や、そこに関わりの深い政治家や官僚などで形成される一部の『日米原子力ムラ』が作り出している場合も多いことを、まず理解する必要があるでしょう。

私はここ数年、日米原子力協定の問題でアメリカでのロビーイングを続けています。今年6月にも、日本の国会議員と共にワシントンでアメリカの議会関係者に会ってきましたが、意見交換を行なった人たちの多くは『日本のエネルギー政策は日本の国内問題であってアメリカが決めることではない』という、ごく当たり前の立場です。

ところが日本では、『原発政策は日米関係に縛られている』とか、『原発は単なるエネルギー政策ではなく安保に関わる問題だから、アメリカの圧力を無視できないのだ』といった実体のないイメージが『原子力ムラ』の手によってつくられていて、日本の原発政策には限られた選択肢しかないと思い込んでいる人が少なくありません。

仮に、そうした社会の雰囲気が原発問題の訴訟を扱う裁判官の判断にまで影響を与えているのだとしたら、由々しき問題だと思いますね」(猿田氏)

■増えるプルトニウムを懸念するアメリカ

さらに猿田氏が続ける。

「日米原子力協定では、日本における使用済み核燃料の再処理を認めているわけですが、近頃では、むしろ日本のプルトニウム保有が増え続けている現状に関して強い懸念を抱いている人がアメリカ政府や議会、専門家の中に数多くいる。

アメリカが原子力協定を締結している国の中で、個々のケースに関してアメリカの同意を求めることなく、使用済み核燃料の再処理を行なうことができる『包括的合意』を結んでいるのは、非核保有国では日本だけです。

また、1988年に改定された現行の日米原子力協定でアメリカが包括的合意を認めたのは、日本が使用済み核燃料の再処理によって生まれるプルトニウムを高速増殖炉などで燃料として消費する『核燃料サイクル』の存在が前提でした」

しかし、現実には高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まり、核燃料サイクル計画は事実上破綻。そんななか、日本が国内外に保有する再処理後のプルトニウムは約47t(原爆約6000発分)に及んでいる。

「それに青森県六ヶ所村で建設中の再処理工場が稼働すれば、さらに年間8tにも及ぶプルトニウムが生み出されることになります。増え続ける日本のプルトニウムはアメリカにとって『核不拡散』の立場からも、大きな懸念材料なのです。

日本政府もようやく第5次エネルギー基本計画で、『プルトニウムの削減』と打ち出しましたが、その具体的な道筋はまったく見えていません」(猿田氏)

ちなみに、現行の日米原子力協定は7月17日に30年目の満期を迎えて、自動更新された。今後はどちらか一方が6ヵ月前に告知すれば協定は終了する。

だが、この協定により認められた使用済み核燃料の再処理を続けたいと強く望んでいるのはアメリカではなく、すでに破綻状態にある「核燃料サイクル」に今も固執し続ける日本政府のようだ。

あの、3・11の悲劇を経験した日本人が、自国のエネルギー政策を自分で選択するのは当然のこと。そのためにも「アメリカの圧力」という、実体のない「オバケ」を口実に進む、日本の原子力政策の既成事実化、聖域化をこれ以上許してはならない。