『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ロシアの"戦略的ボット攻撃"と日本社会の"耐性"について語る。

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昨年12月公開の映画『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に登場するベトナム系アメリカ人女優ケリー・マリー・トランに対する、SNSなどでの人種差別的なヘイト投稿が公開直後から問題となっていましたが、先日、その"正体"が明らかになりました。

実は投稿の半分以上がボット(プログラムによる自動ツイート)やトロール(意図的に場を混乱させる"荒らし")によるもので、しかも多くはロシア由来だったとの研究結果が発表されたのです。

2016年の米大統領選挙にロシアが"介入"し、トランプ大統領の誕生を後押ししたことは有名ですが、なぜロシアのネット上での対米工作は、ことごとく威力を発揮するのでしょうか? 

それを考えるための絶好の例が、米大統領選の際に拡散された陰謀論「ピザ・ゲート」です。ワシントンのピザ店が小児性愛と児童売春の拠点になっており、裏ではヒラリー・クリントンが関与している――。

あまりに荒唐無稽(こうとうむけい)ですが、これが一定層に強く信じられ、正義感に駆られた人物が(実際にはなんの罪もない)ピザ店を銃撃する事件に至りました。

このレベルの陰謀論が広まるには、社会が左右両極に激しく分断され、かつ一般人のリテラシーが低下し、お互いが脊髄反射的に攻撃し合っているような状況が必要です。

最新の調査によれば、ロシア由来の"戦略的ボット"はすべてがトランプの味方をするわけではなく、意図的に左右両陣営向けにフェイクニュースやヘイト言論を投下し、"場"をかき乱すことで、一部の人々が暴走する下地をつくっていたようです。

そこでふと、自分が暮らす日本社会を見てみると、現状ではロシアのボットによる撹乱(かくらん)は確認できませんが、それでも非常に危険な状況であると言わざるをえません。ツイッターを中心に長い間、左右両極端の意見が乱れ飛んできた言論空間の"耐性"が極端に低下しているからです。

僕はなかば実験的に、意図的に左右の陣営をからかうようなツイートをしてみることがありますが、これが驚くほど「よく燃える」のです。僕のキャラクターや前後の文脈を見てもらえれば、すぐにジョークだとわかるような内容でも。

もし本気で日本版ピザ・ゲートを仕掛けるとすれば、右陣営に対しては今なら"玉城(たまき)ゲート"でしょうね。「沖縄県知事選挙での玉城デニー当選の裏には、中国による用意周到な沖縄乗っ取り作戦がある。選挙自体が不正に操作され、ある業者が集票マシンに細工を施し......」といった話を飛ばしていけばいいでしょう。

逆に左派陣営に対しては、"安倍ゲート"を推奨します。「モリカケ、お友達政権、集団的自衛権、改憲、教育勅語(ちょくご)、原発再稼働。その裏には日本会議がいるとされているが、さらなる巨大な思惑が......」といったトッピングなら、どんどん陰謀論がつながっていくでしょう。

デタラメのみではなく、事実をベースにトンデモをちりばめるのがミソです。その断片は、謎の新興メディアが取材もせずに報じたフェイクニュースでOK。当然、まともなメディアは無視しますが、いつしか「メディアが報じない真実」になります。

......ちょっと冗談がすぎましたが、ロシアのボット攻撃が日本を標的にしないことを祈りましょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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