『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、サウジ記者殺害事件への対応に苦慮するトランプ米大統領と、国際社会の独裁政権支援について語る。

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自らに批判的な記者の殺害に関与したとみられているサウジアラビア皇太子の"やらかし"に対し、トランプ米大統領はどう対処すべきか悩んでいるようです。米政府は中東地域の共産化を防ぐため、イラン革命以降はイランの宗教体制の拡散を防ぐため、そして冷戦以降はイスラム過激派勢力を抑え込むために、サウジ王室と太いパイプを保ってきました。

さらに今回は、約12兆円にも及ぶ巨額の武器輸出という実益を手にしかけている。トランプ大統領は、どうすれば事件をうやむやにして"商談"を継続できるか、思案しているところでしょう。

〈民主化していない途上国は、一足飛びに近代化することはできない。まず"欧米にフレンドリーな独裁体制"を支援し、経済基盤を強固にしてから次第に民主化させるのだ〉

世界的ベストセラー『文明の衝突』の著者でもあるアメリカの政治学者サミュエル・ハンチントン(2008年没)は1960年代頃からこう言い続け、その思想はレーガン政権の外交政策顧問を務めたジーン・カークパトリックらに受け継がれて米ネオコンのイデオロギーになりました。

ネオコンほど極端ではなくとも、欧米の主要諸国は中東、中南米、アフリカ、そしてアジアでこうした姿勢を取り続けてきました。この人たちはまだ野蛮だから、民主的に投票させたら共産主義や過激な原理主義に傾いてしまう。今は"窓口"を一本化し、話の通じる独裁者(ディクテーター)を立てておくべきだ......。

独裁者たちはこれを逆手に取り、表向きは"西側派"を装って「自分たちこそが地域に安定をもたらす砦(とりで)だ」と主張し、狡猾(こうかつ)に支援を引き出してきました。イランを"悪魔化"し続けるサウジはその好例です。

ただ、欧米(特にアメリカ)のこうしたやり方は、しばしば破綻(はたん)してきました。かつて反共を目的として中南米の軍事政権を支援したことは、民衆の間に強い反米感情を育てた。サウジ王室の恐怖政治にしても、元はといえば中東における反共政策が生んだもの。この恐怖政治に反発した過激分子がアルカイダとなり、2001年に9.11アメリカ同時多発テロを決行したのです。

実は、日本にも似たような過去があります。例えば、かつて韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)軍事独裁政権を支援したこと。敗戦後の混乱期、朝鮮戦争により生じた神武景気に沸くなかで、他国の人道問題に介入する余裕などなかったとは思いますが、その後も1980年代まで、韓国の民衆は軍事政権の圧政を受け続けた。一部の韓国国民が今も反日・反米感情を持つのは、そういう背景もあると思います。

89年の天安門事件でも、国際社会は中国政府に対して"甘噛み"に終始。表向き批判はすれども、巨大な中国市場の将来性にほだされ、その後の圧政を「内政には干渉しない」という建前で見過ごしてきました。

とりわけ日本はチベットやウイグルの人権蹂躙(じゅうりん)という現実にも目を向けず、今年に至るまで潤沢にODA(政府開発援助)を拠出してきましたが、今やその中国に経済的にも地政学的にも圧力をかけられているのは皮肉と言うしかありません。

それでも日本は、今度はミャンマー政府のロヒンギャ蹂躙問題を黙殺し、将来の経済的見返りを期待して多額の援助・投資を行なっています。過去に学ぶというのは、それほどまでに難しいことなのでしょうか?

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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