『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、互いに依存し合うグローバル資本と独裁国家の悪循環を止めるために期待することとは――?
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近年、事実上の独裁国家である中国やロシアが、民主主義国家のポピュリズム勢力に接近し、社会の安定を脅かす傾向が続いています。イギリスのBREXITやアメリカのトランプ政権誕生へのロシアの関与などは、まさにその典型例でしょう。
この状況は「民主主義vs独裁」の二項対立として語られがちですが、ここに「スーパーリッチ」を加えた"三すくみ"の構図でとらえ直すと理解しやすいかもしれません。
スーパーリッチは資本主義の加速が生み出したものです。例えばアメリカでは現在、高所得者の所得税率が日本などと比べて低く設定されていますが、実は1950年代には最高90%以上の税率が課せられていました。
さらに、経営者などには自社株のストックオプションも認められていませんでした。しかしその後、税制改革やストックオプション導入などで資本主義が過熱。一部に富が集中してスーパーリッチが続々と誕生した一方、副作用として中産階級が没落していったのです。
それをさらに勢いづけたのがグローバリズムです。大資本家は、労働者の賃金が安い国に生産工場などを移転することで莫大(ばくだい)な利益を得るようになりましたが、その移転先は往々にして、労働者の権利が守られていない独裁国や半独裁の発展途上国。
グローバル資本と独裁は、ある意味で非常に相性がいいのです。こうして職を失ったり、賃金が大幅に下がったりした先進国の労働者の怒りは、例えば先日のフランスでの大規模デモなどに表れています。
ここから先は僕の直感的な分析になってしまうのですが、本当に貧困の底に落ちてしまった人の多くは政治に興味など持てません。ただ、その手前スレスレにいる人々は、「助け」や「答え」を強く求めたがる傾向があるように思います。そこに寄生するのがポピュリズムなのです。
世界の複雑さをすっとばした「簡単な答え」を提示してくれるポピュリストやデマゴーグは、こうして勢いを得て、本来あるべき民主主義の形を壊していく。それを千載一遇のチャンスと見たロシアや中国も、それに加担する......といった構図です。
資本主義の暴走、中産階級の没落、ポピュリストの台頭、独裁的国家の増長。これらは互いにフィードバックし合い、依存し合っています。では、この悪循環を何が止めるのでしょうか?
ひとつの期待は、この世界のいびつさを肌で感じているミレニアル世代の声です。彼らはアメリカでいえばバーニー・サンダース、イギリスならジェレミー・コービンのような"社会民主主義"的な政治家を支持する傾向が強い。
資本主義になんらかの規制をかける必要があるという主張が広がれば、現状は是正されていくかもしれません。
もうひとつの期待は、独裁国の内側からの変化です。特に中国からは、優秀な若者たちがアメリカをはじめ多くの民主主義国家に渡っています。彼らが自由や多様性といった"未知のウイルス"に知らず知らずのうちに感染し、母国に住む上の世代とは大きく異なる人生観、社会観に目覚める可能性は高い。
彼らが独自の価値観、倫理観を持つようになれば、状況は変わっていくと僕は予想します。2019年が新しい潮流が始まる年になればいいという希望も込めて。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中